幕間談話
進軍を一旦停止しているカイラシャ王国軍の目前でおきた大規模な爆発!
それは、おそらく索敵小隊が敵と接敵し、戦闘状態に入ったのだろう。
敵が存在しているのは確実・・・しかも、かなりの戦力だと予想される。
そう! あれだけの火力を吐き出し爆発炎上! 一個師団規模の敵軍だと考えて間違いないはず。
しかも勇者レシプロンからの報告では・・・ゴーレム3体がすでに撃破されたという。
( ちなみに敵とはノアのことである! しかも二人と一匹なので戦力の過大評価すぎるのだが、
ノアの魔法、コーヒーバブルボムがそれだけ強力だという事なのだ )
敵は・・この山岳地帯を背にして、徹底抗戦してくるのであろう。
あまりにも地理的に不利・・敵の罠に飛び込んでいくようなもの!
しかも、こちらは風下に位置しており、敵は毒霧まで使用してくる!
このまま進軍していくには・・あまりにも危険、そして困難!
どう対処すべきか!?
王国軍本営、陣営テントにおいて・・・
総司令官プライバン伯をはじめとした幕僚たちの面々は・・・事態の把握、今後の方針について議論が交わされていたのである。
「時間はかかりますが、一旦・南方に下がり、東方から迂回した方がよろしいのではないでしょうか!?
東方地域は平原が多く・・・進軍がしやすいです」
これは幕僚の一人、プルゥーリの発言である。
プライバン伯も同意見なのだが、口には出さない。
しかし一方、反対意見を出したのは参謀のシラヤ子爵、彼は王太子派に属しているゆえなのか・・強行論を言い放った。
「我が国に仇なす魔王、殿下に危害を加えた悪魔! 奴をいち早く倒さなければならないのだ! いかなる敵も排除し・・早急に進軍すべし。恐怖する心こそが最大の敵なのだ。突破すべし、攻勢こそ勝利への道」
このような発言を発した子爵に対して、他の幕僚たちは顔を互いに見合わせた。
軍事的な危険性を考慮もせず・・・精神論的な意見を突き付けてくる子爵に呆れかえったのである。
" こいつはダメだ。王太子の息がかかっているだけの無能者! "
微妙な雰囲気が幕僚たちを包んだ。
「ふむ! 子爵殿の意見は興味深い、参考すべきところが多々ある。」
・・・・と、苦い顔をしながら、ひとまずの返答をする司令官のプライバン伯、
もちろん、別の意味で興味はあるが、参考すべきものなどない。
シラヤ子爵が王太子派ということへの配慮であった。
その後も・・子爵の意見などは、まったく考慮されず・・議論は進んでいく。
「この山岳地帯は・・地形的に不利です。兵の損失も甚大となるでしょう」
「やはり一旦、退くべきではないかと!? 東回りで迂回すべきです」
「退くにしても・・敵がそれに乗じて追撃してくる可能性もある!」
「それなら伏兵も用意し・・逆撃すればよい・・」
数々の意見が出されたが・・・基本的には"一旦、退き東方からの迂回攻略"が大勢をしめた。
司令官プライバン伯も・・この意見に賛成であった。
だが・・・シラヤ子爵は眉を細めてしかめ面・・・幾つかの積極的攻勢意見、強行突破策を述べたが、完全に無視されたのである。
「腰抜けどもめ! こいつらが・・・・そういうつもりなら、こちらにも考えがある!」
子爵は小さく呟き、幕僚たちを睨みつけた。
この陣営内にも、ある程度、王太子派の人間が入り込んでいるものの・・軍を危険にさらしてまで 王太子の意向に従う者がいなかった。
あくまでも軍人としての判断を優先したのである。
同派閥でありながら・・王太子の意向には沿わず、または、子爵に同調する者もいなかった。
許さん! 絶対に許さんぞ!
このような侮辱、怒りを、そのまま受け入れることなんて・・できやしない!
何らかの報復をしなければ、怒りがおさまらないのだ。
そこで、シラヤ子爵は王太子あてに報告書簡を送った。
もちろん・・事実をひん曲げた悪意のこもった内容となっている。
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
王国軍の撤収作業は、何の問題もなく終了。
一旦、南下し・・"王国軍はレルンド"の町に到着した。
ここで半日ほどの休息をしていると・・王都ルヴァからの使者がやって来た。
彼は王太子直属の勅使、いわば勅令・・・司令官プライバン伯を始めとした幕僚たち、全ての上級幹部の解任を命ずる命令書を携えていたのである。
シラヤ子爵の思惑どおりの展開となった。
そう! 王太子への報告書が効いたのである。
彼は、冷ややかな笑みを浮かべた。王太子の意向に逆らうプライバン伯は邪魔な存在、伯を排除することで、子爵の権限を高められると考えたのである。
命令書の内容は・・司令官、並びに幕僚たちの怠慢と無能ぶりの弾劾、
彼らには軍を率いるだけの能力無しとされ、後日に訪れる新任との交代が通知されていた。
プライバン伯は、驚きと・・・不満をあらわした。
現地での実情も知らず、そればかりか事実の捏造・・・非難ばかり・・・
おそらく、シラヤ子爵の仕業だろうが・・もはや勅令を受けたのだ。
従うしかないだろう!
「かしこまりました。つつしんでお受けします」
総司令官として、このように・・中途半端な解任は大変残念なことである。
これから戦う強敵、キヨウラ公国と名乗る叛徒どもや、魔王フィレノアーナのことを考えれば、彼ら兵士たちのことが心配でもあった。
幕僚のプルゥーリも肩を落とし・・他の者も落胆した。
そして、参謀のシラヤ子爵も・・勅令の内容を何度も読み返したあげくに同じく落胆、しかも放心状態におちいり虚空を眺める。
「なぜに!? どうして!? 私まで・・・もう、だめだ!」
そう! 子爵も他の幕僚と同じく解任されたのであった。連帯責任である。軍人として当然のことなのだ。
しかも・・おまけに横領の罪も加えられていたのである。犯罪者となってしまったのだ。
おそらく罷免され・・・刑罰を受けることになるであろう。
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
一方、ノアたちはセェルンへと戻っていた。
イジャル公王は13000の兵を率い、ヴルティリア帝国方面への出兵中のため、不在である。
現在、セェルンの統治は・・留守番組のアランスが行っていた。
彼は公国を支える事務方の長・・・内務総長の役職についている。
そして、忙しい! とてつもなく忙しい。メタボでなくなるほど忙しい。
ちょっとぐらい休みが欲しいと嘆いている。
兵の募集、軍需物資の調達に内政、治安維持、問題が山積みの上に官僚不足、アランスは涙目!
とてつもなくブラックである!
もちろん・・事務方を増やす算段はしているのだが・・・この世界では識字率が低く容易ではない!
ついでに計算能力も必要となる!
そんな忙しい・・アランスにゴーレムの解析作業を頼もうとしたが、ノアは諦めた。
なんか・・可哀そうだ。
それに頼んだとしても・・・仕事としての優先順位は低くみつもられ後回しにされるだろう。
・・・・となると、ノアは自らの足で、優秀な魔導技術者を探さなくてはならないのだが・・あまり時間がない。
そう! すぐに戻り、カイラシャ王国軍の足止めをしなければならないからだ!
「う~ん! ゴーレムを専門とする技術者を・・早く探し出さないと・・」
『 そうっすね! もっと欲をいえばっ・・同じようなゴーレムをつくれる者がいいっす! 』
ノアとシルンちゃん、二人!?の要求な無茶振りだった。
そんな技術者はなかなかいない。
たとえていえば・・・ゴーレムを作った本人のレプシロン! いわば、彼に匹敵するぐらいの能力が必要なのである。
とにもかくにも、ノアたちがすべきことは・・
このセェルンでの内務局、戸籍課のドアをノックすることであった。
ここで身分登録簿を見せてもらい、セェルン在住の優秀な技術者を探すつもりである。
トントントン! ・・・とノックする。
「はい! どうぞ」
軽い返事が返って来たので、ノアたちはさっそくとばかりに戸籍課に入ると・・・
あっと言う間に・・今まで活気あった室内が一挙に凍りつき静寂が支配したのだ。
立ったまま微動だにしない戸籍課の事務員たち。みな・・ノアを見ている。
そこは張り詰めた空気!・・・恐怖が室内を包み込む。
それはまるで・・・戦場! 死と隣り合わせ!
ノアの頭の上で居眠りしているシルンちゃんでさえ・・目を覚まし周囲を警戒、コサミちゃんの方は雰囲気に飲まれ目が泳ぐ。
何が起きたのかというと・・事務員たちが狼狽えたのだ!
目前にいる物体に恐怖し動揺した
彼らにとってはまさに青天の霹靂、ハルマゲドン!?
そう・・・あれは!!
セェルンの町で特装警察部隊を率いて暴れまくったあの撲殺魔導師!
町の広場でアイスバレットを乱射しまくったあのサイコパス魔導師!
しかも・・・公王の妹ではないかと噂され、影の実力者!
見た目で騙されてはいけない危険人物!
そう! ノアの日頃のおこないのせいで・・恐怖の大王を振りまいてしまったのだ。
おじ気つき、震える事務員たちに向かって・・軽く挨拶するノア。
「ちょっと・・身分登録簿を見せてもらうね!」
「は・・い・・はい、あ・・あちらの書棚です」
怯えながら、なんとか声を出し答える事務員に「ありがとう」と返答するノア。
室内の雰囲気など・・・どこ吹く風!?
そんなことも気にせず・・いつものように振る舞うノアは・・・スタスタと書籍棚の方へと歩いていく。
一応、この身分登録簿は重要書類であり、関係者以外、閲覧禁止なのだが・・・
誰も止めることは出来ないでいた。
ノアは早速とばかりに、書籍棚から登録簿を大量に取り出した。
そして、それらを一つの机にドカンと置く。
我が物顔のノア、戸籍課の備品を我が物のように扱う
さすが王族というべきか!?
とにもかくにも・・ノアは身分登録簿をぺらぺらとめくりだし・・目を通す。
コサミちゃんは周りの雰囲気に戸惑いながらも・・登録簿に目を通す。
シルンちゃんも目を通すのだが・・やはり小さい羽でページをめくるのは大変らしい。
でも 不器用ながらページをめくる様は・・ちょっと可愛かった。
ペラペラペラ・・・・
戸籍課の事務員たちを恐怖におとしめながら、ページをめくる音が、こだましたという。
そして・・・ついに良さげな人物を名簿欄から見つけ出した。
「おっ! この人物が良さそうじゃない!?」
『 誰っすか!? ヒラガ・ケールナイ・・さん!? 元魔導協会・技長 』
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