待ち伏せ
残暑がまだ残る夜月、雲ひとつない青空に太陽は輝き、白く地面を照らす。
すこし暑いが・・汗が出るほどではない。より良き日差し・・・視界も良好。
素晴らしき戦い日和!
ノアは詠唱する・・・サテライト魔法!
すると目前の空間にウインドが開き映像が浮かびあがった。
これは・・遠くの様子を空から覗くことができる魔法。
しかも・・人や動物の居場所を黒い点で表示してくれる親切設計にもなっている。
そう! これで、こちらへと接近するカイラシャ王国軍の動向を監視できるというわけなのだ。
現在、王国軍はここから南、7ロキル地点を通過中のようである。
しかも、その地点は山岳地帯の隘路、切通なのだ。
コサミちゃんの魔法、毒霧を行使するには、今いるこの山頂は絶好の場所。
風向きも良し!
ここから 流れて出た毒霧は斜面をくだっていき・・進軍する王国軍に襲いかかるであろう。
しかも狭い通路ゆえに、逃げ道がない!
「よし、コサミちゃん、やっちゃえ!」
『 コサミン、がんばるっす! 』
ノアとシルンちゃんの声援に応えて・・コサミちゃんは詠唱を唱える。
王国軍の現在地は、まだまだ遠いのだが、敵の石礫・射程距離を考えれば、この辺りから、毒霧を流すのが良い。
コサミちゃんの魔法によって生み出された・・積雲のような、ふわふわで淡く白い霧。
まるで・・わた菓子、甘くて美味しそう!
だが! 気をつけなければならない。この霧は毒なのだ!
ゲラゲラダケの毒素が入り込んでおり、危険!
もしも、この霧に触れれば、30分間笑い転げ、動けなくなるだろう。
そんな毒霧は風に流されながら広がり、斜面をくだっていく・・
そして、王国軍の全面へと迫る!
ノアはサテライト魔法映像によって、その様子を眺めていた。
この毒霧で王国軍に笑い・・いや! 混乱をもたらすことに成功したのなら・・・
ノアは そこへ魔導爆弾・・・・コーヒーバブルボムを撃ちこむつもりだったのである。
毒霧程度では所詮・・30分程度の笑いしかとることができないw
そう、毒霧単体ではたいしたことは出来ないのだが・・そこへ、ノアの魔導爆弾を撃ちこめば、かなりの被害をだせるはず!
「ふっふふふふ」
ノアの悪辣な笑いがこぼれた。
だが、サテライト魔法によって映しだされた映像には予定外の出来事が・・・
王国軍の前列にいきなり飛び出してきた謎の物体集団・・・そう、それはレシプロンのゴーレムたち!
彼らゴーレムたちから伸びる大量の腕が・・・なんと! 高速回転を始めたのだ。
まるでヘリコプター!? またはプロペラ機!?
猛烈な風! 旋風が吹き荒れる!
ゴッゴゴゴッゴゴ
そんな凄い風を巻き起こすとなると、そのゴーレムたちは風の反動によって後ろへと転げ落ちてもおかしくないのだが・・・そこんところはすでに対処済み!
地面にアンカーを撃ちこみ、足場を固定していたのである。
対策もバッチシのゴーレムたち!
王国軍へと流れ込んでくる霧は、ゴーレム旋風によって瞬く間に雲散霧消したのであった!
ついでにいうと・・・彼らゴーレムたちに負けまいと・・
後方では 他の勇者たちや魔導師たちも一生懸命、魔法で突風を吹かしていたが・・・ゴーレム旋風が凄すぎて、その活躍は霞んでしまっていた。
・・・・ということで、毒霧攻撃は、あのゴーレムたちの旋風活動によって阻止されたのである!
あまりのことで・・・ノアの目が点!
コサミちゃんは、自分が発動した魔法が失敗したことで・・意気消沈するとともに、虫のような手の動きをするゴーレムたちを見て、生理的に目を背けた。
だが、シルンちゃんの方は・・そのゴーレムに興味津々のようである。
『 これは、すごいっす! 王国の魔導技術は侮れないっす。あのゴーレム・・ヤバイかもしれないっす 』
「んっ!」
シルンちゃんのそんな発言を聞いたノアは映像をよりズームアップさせ・・・そのゴーレムたちの性能を確かめた。
このゴーレムたち、単体としてもかなり強力! パワーは人間どころか魔獣に匹敵する可能性もある。
しかも、人間のように滑らかな動きをしており・・・様々な隠し玉的機能を持っていそうw
装甲も厚く頑丈なつくり・・バブルボムで破壊できるかどうか不安である。
ノアは・・より観察をつづけ、彼らゴーレムたちの主人、または・・ゴーレムを操作している者はいないかと探していると、とある一人の男を見つけた。
ゴーレムたちの後方で岩に座りながら、指示をだしているその男! そう、ゴーレムマスター!
その人物は・・・かなりガタイがでかく、一見すると魔導師に見えないのだが、ノアには・・・ある種の恐怖をおぼえた。
サテライト魔法による映像越しとはいえ・・かなりの波動を感じ取ったのである。
「こいつだ! たぶんこの王国軍の中で・・・一番強い敵」
すると・・シルンちゃんの方も確認した。
『 肉体系の魔導師っすね! まともに戦うのは避けるっす 』
ノアとシルンちゃんは・・・この時、王国軍最強の魔導師を確認したのであった。
そう・・・彼は、神聖魔法の使い手にしてゴーレムのマスター、レシプロンだった。
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王国軍側では大騒ぎとなっていた。
いきなり流れ込んでくる白い霧に兵士たちは動揺、しかも急に笑い出し、転げ回る者が続出しだしたのだ!
そんな中、王国軍幕僚の一人、プルゥーリは軍隊内を駆けずり回り、事態の解決をはかろうとした。
だが・・そのプルゥーリ自身も笑い転げてしまったのである。
「きゃはっはははっはは・・死・・死ぬ! や、やめてくれ~」
30分におよぶ笑いの地獄を見ながら担架で運ばれたという。
「こ・・これは!」
その様子を見ていたレシプロンは気づいた!
この霧は毒だと! 敵は笑いの毒を流したのだ。
彼は即座にゴーレムたちに命じたのである。
「とにかく・・吹き飛ばせ、この霧はやばい!」
『『 了解 』』
いつもの機械音声を発するとともに、千手観音ゴーレムたちの腕がグルグルと回転し始めたのである。
ゴーレムAIによる最適解、腕を扇風機のようにして・・霧を吹き飛ばすのだ。
そして・・このゴーレムたちの動きに気づいた他の勇者たちや魔導師たちも、同じく、風をおこす魔法を発動させる。
王国軍は・・この毒霧攻撃を見事に退けた。
ノアの思惑は完全に失敗した。
ポイズン・・毒霧による大混乱を期待したのだが、やはりというべきか・・無駄であった。
しかし、王国軍の歩みは止まる。
総司令官プライバン伯が命じ、進軍を一時停止させたのであった。
「近くに敵がいるのは間違いない! 索敵兵を出せ! 警戒せよ」
また再び・・敵からの攻撃があるかもしれない。
敵の戦力も不明・・・それに、この街道は狭く・・待ち伏せされやすい。
プライバン伯は・・このまま進軍していくことに危険を感じたのである。
伯の命により索敵任務を受けた幾つかの小隊グループは・・身を隠しつつ周囲に展開、活動を開始した。
敵の様子を探らせるのだ!
もちろん・・それら小隊の動向はノアのサテライト魔法で・・・ばっちしと確認していた!
そして・・いくつかの小隊が・・・ノアのいる山頂に近づきつつあることも分かっている。
だが・・ここは崖が多く難所、容易に山頂まであがってこれないだろう。
そんな小隊の一つにノアは注目した。
もちろん、シルンちゃんも興味津々、ただしコサミちゃんは生理的に嫌がっていた。
他の小隊は人間で構成されていたのだが・・その小隊だけはゴーレムだったのである。
そう! 3体で構成される千手観音ゴーレム小隊!
レシプロンの命令による索敵隊なのだ!
ノアとシルンちゃんは、映像画面を凝視!
彼らゴーレム隊の周囲を観察し、他の小隊がいない事を確認した。
ゴーレムだという理由のためなのか・・人間の小隊とは連携をとっておらず・・別行動をしているようである。
シルンちゃんは小さい羽を口に当てながら呟いた。
『 あのゴーレムを生け捕りにしたいっす! あれは・・魔導技術の傑作っす! 』
そう! ぜひとも手に入れたい。敵の優秀な兵器は・・・鹵獲しなくてはならないのだ!
そして・・・リバースエンジニアリング!
内部を解析して・・公国側でも同じゴーレムを量産・・・戦力化する必要がある。
技術的に送れを取ると、取り返しのつかない事態となるだろう。
王国軍の上層部は レシプロンの作ったゴーレムを軽視していたのだが、
・・・シルンちゃんはこのゴーレムの性能に注目したのである。
「生け捕り・・・難しい事を言うのね! でも、あれはたしかに・・・欲しい!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)