セェルン&ドラゴン
「なんだ・・あれは!」
「で・・・でかい!」
「終わりだ! もうなにもかも終わりだ!」
セェルンの町はパニックに陥った。
上空にとんでもないものが飛来してきたのだ!
それは
・・・ドラゴン!
しかも・・・デカすぎ! あまりにも巨大! デタラメすぎるほどの超ド級
天を覆うほど・・ありえない存在
航空力学的にいえば・・あんな超巨大ドラゴンが空を飛べるのか!? はなはだ疑問である。
それはジャンボ機程度の大きさではない!
超大型タンカーを10隻ぐらい括りつけて飛んでいるほどの大きさ!
ただし!・・・そのドラゴンは現実に存在しなかった。
シルンちゃんによって作り出された幻・・・幻影魔法なのだ。
されど・・・この町に住む者にとっては まぎれもなくリアル。
本物のドラゴン、恐怖の巨大ドラゴンの来襲なのだ!
住民たちは怯え、逃げ惑い・・・各々の隠れ家、地下室、または・・避難所の奥へと身を潜ませた。
子供たちは泣き叫び・・・大人たちは絶望・・・神官たちは神に祈りを捧げる。
あのようなドラゴンが この町に襲い掛かってくれば・・・全ての物が踏み潰されるだろう。
火を吐けば・・・全て灰となってしまうだろう。
もう、この町は終わった! 全てが終わった!
セェルン・最後の日が近づいてくる。
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代官ラルスは・・・上空を仰ぎ見て恐怖していた。
「ま・・まさか、あれなのか!!」
伝え聞くアルゲルンの悲劇、ドラゴン襲撃事件を想起させたのである。
しかも、あの王女・フィレノアーナの仕業だと聞く。
もしや・・このままでは、この町もアルゲルンと同じ目に合わされてしまうのではないか!?
この町の代官として・・責任者として・・そんな事態をまねくわけにはいかない!
( アルゲルンの町が廃墟になったのは ドラゴンが原因ではなく住民暴動によるのだが、
代官のラルスにその情報は入っておらず噂だけが独り歩きしていた。
それに・・ゲルンラン城伯と違い代官ラルスは誠実で公正な統治をしている。暴動がおきる確率はきわめて低いのであった )
魔導師エリャンは上空の超巨大ドラゴンを睨む。そして・・・空飛ぶ箒に乗る二人の少女
「ようするに・・・あの王女を仕留めればよいのだ! 頭を取れば敵は瓦解する」
エリャンは敵の総大将を フィレノアーナ王女・・すなわちノアだと考えたのである。
彼は・・・詠唱を始めた。
長い詠唱、数分はかかりそうな詠唱! ・・・つまりそれは、かなり強力な魔法だということだ。
その様子を見ていた代官のアルスは思わず止めに入った。
「やめるんだ! 敵を・・王女を・・刺激すれば、この町が終わってしまう」
その発言を無視して・・そのまま詠唱したい気持ちはあったのだが、さすがにそんなことはできない。
エリャンは詠唱を止めた。
反論をしたいが・・・代官の言うことは正しい。
「エリャン殿 その攻撃魔法で完全に仕留めれば良いが・・・失敗すれば、その代償は大きい。
いや! 王女を葬った恨みによって・・・あのドラゴンが襲ってくる可能性もあるのだ」
上級魔導師としてエリャンは・・あの王女と戦いたいという気持ちもあったが、
町を廃墟にしてしまう危険性が高い。
「たしかに・・・はやまったことをしてしまった。申し訳ない!」
「貴殿は戦いたいだろうが・・・ここは我慢してくれ」
「はっ!」
そう・・・あの巨大ドラゴン、凶悪なドラゴンを目撃してしまった以上、もはや打つ手がない。
それに、兵士はすでに逃げ腰、戦える状態でもなく、しかも城壁や尖塔を一撃で破壊する魔法まで撃ちこんでくる。
これでは勝てない! 破壊つくされる!
代官ラルスは決断した。腹を決めたのだ!
「このセェルンの町、10万余の住民たちを守る義務が私にはある! 降伏する」
その言葉に対し、周囲の者の何人かは反対した。
手に持つ剣を激しく壁に叩きつけて抗議する者、声を上げて怒鳴る者もいたが、大半の者は降伏を選んだ。
魔導師エリャンもまた、降伏に反対だったが・・・町の住民のことを思えば、仕方がないことであった。
そうなると、急がねばならない! エリャンは すぐにでも脱出せねばならないのだ。
なぜなら、エリャンは かつてアルゲルンの町で王女を追い回したことがあり、
そのことを根に持たれていると、降伏後・・きっと殺される! 必要以上に殺される!
彼は代官ラルスに事情を話し・・・町から逃げることを告げた。
降伏を潔しとしない者も・・・エリャンの後につづくだろう。
「ラルス殿・・また機会があれば 再びお目にかかることを願っております」
「ふむ エリャン殿、貴公の無事を祈っておりますぞ」
二人は礼を交わし、別れを告げた。
その後・・・代官ラルスはキヨウラ公国となのる陣営に使者を派遣した。
降伏をつげる使者である。
ある程度よい条件にて、降伏しようという腹ずもりなのだがはたして・・・!?
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一方、ここはキヨウラ公国軍の陣営、ここでも騒ぎが起きていた。
セェルンの住民同様・・・公国軍の兵士たちは、空に飛翔する巨大ドラゴンを目撃し、動揺していたのである。
一応・・・キヨウラ公国が建国された時、ドラゴンたちが多数舞い降り人間たちとともに建国を祝ったのだ( シルンちゃんの幻想魔法w )
そう言うわけで・・ドラゴンに愛された国などと呼ばれはしたが、さすがにこの巨大ドラゴンは無茶なぐらいドデカイ!
迫力が違う、とんでもなく面食らったのだ。
兵士たちは右往左往する。中には・・今にも逃げ出そうとする者もいた。
たしかにこれは・・・怖い!
ノア様のペット・シルンちゃんの仕業だと分かっていても、イジャルの腰が引いてしまった。
不味い! 不味いぞ! これはやりすぎだ!
ここはひとつ・・・壮大な芝居をしないと兵士たちの士気が下がる。
そこで・・・公王イジャルは両手を天に仰ぎ、大げさなパフォーマンスをしたのであった。
「おっ! おっ! あれはドラゴンの中のドラゴン! 我らを助けるために ドラゴン帝王が遠き世界よりやってきたのだ!」
-- Dragon of Dragons そう! 彼の名はミレニアムドラゴン 千年の時を駆け抜ける者! 世界の支配者、神の使い、創造主の使徒 逆らう者はすべて焼き尽くす--
大根役者がおもっきりな演技と棒読みセリフなのだが・・なぜか兵士たちの心に響いたのである。
ある種・・公王イジャルのカリスマ性かもしれないw
「おっ~!! すばらしい」
「ドラゴン帝王様と共に戦うことができるなんて、最高です!栄誉です!」
「ドラゴン! ドラゴン!」
「末代まで自慢できます!」
兵士たちの歓声が上がった。
巨大ドラゴンの恐怖から・・・心強い味方になった瞬間であった。
兵士たちの士気は全面回復! あげくに上限突破!
キヨウラ公国軍兵士たちの・・力強い雄叫びは 地面を揺るがし大気を震わせ、セェルンの町にまで届いた。
「「グウォー グウォー」」
そんな騒ぎ、雄叫びの中・・・セェルンの代官ラルスからの使者が このキヨウラ陣営にやってきたのであった。
ちなみに使者の名はメイロス、武装などしておらず・・・無抵抗を表すため文官の服装で訪れていた。
そんな彼は・・ただ今、絶賛ビビリ中である。
公国兵士の意気盛んな振る舞いに驚いていた。
しかも"" ドラゴン! ドラゴン! ""と叫び・・・ある種の崇拝をしている。
"" やはりあの巨大ドラゴンは敵の・・そう! この公国軍の手による仕業だったのか! ""
メイロスはあらためて再認識した。
公国軍の兵力は、たかだが2千程度だが・・・あのドラゴンが味方となれば・・・
このカイラシャ王国、いや! 全世界支配も夢ではないだろう!
しかも・・・ここにいる兵士たちの会話がメイロスの耳へと入ってきた。
「お前は敵兵を何人殺した?!」「おれっちは・・5人だ。首もとったぞ」
「まだまだだな! わしは10人だ」「ふっ! 若いな! 自慢をしたいのなら最低20人からだ!」
「俺たちは・・・大将首をとったけど・・・たいしたことはなかった」「うっ」「うわっ すげー」
会話の主はエル兄弟とその他兵士たち、どうやら・・クリカラン峠で行われた戦いの話をしていたようだ。
聞き耳をしていたメイロスは震えた。ここの兵士たちは・・・戦い慣れをしているということだ。
しかも何人殺したかという自慢話!
それに引き換え、セェルンの守備兵は緊急徴兵をした者ばかり・・・もちろん戦いの経験なんてほとんどない。
やはり・・戦えば負ける! 降伏は正しかったようだ。
公王イジャルとの謁見はすぐにかなった。
メイロスの目の前に現われたのは、まさかと思えるほどの可愛い容姿をした少女・・いや少年だった!
聞いた話通り、まるで女子と見間違うほど! 美少年と言っても良いだろう。
だが、容姿に惑わされてはならない。決して侮ってはならない相手なのだ。
メイロスは公王イジャルに対して・・・うやうやしく両手を合わし小さく会釈した。
降伏の使者とはいえ・・・そこまで遜るつもりはないのである。
基本は・・・対等な立場とした。
「余が・・キヨウラ公国公王イジャル! セェルンの使者殿は何用で ここに来られたのか!?」
もちろん、イジャルには分かっていたが・・・意地悪く聞いてみただけなのだ。
それに対して・・表情を変えずメイロスは簡潔に話した。
「セェルンの代官ラルス殿はキヨウラ公国軍に対して降伏の意志を示されました。
すぐの開城と守備兵の武装解除も了承しております」
メイロスは・・眼光するどく公王を見た。
堂々と降伏するのだと・・・ただの強がりだけどw
「ほぅ! 戦いをあきらめたのか」
「戦えば・・・多くの民の命が危険にさらされます。多くの財産が焼失するでしょう。代官ラルス殿の使命は・・
この町を敵から守ることと同時に住民の安全を守ること。だが・・・町を守り切れないのは明白。
代官は涙を流し・・あえて降伏を決断したのです」
その言を聞いた公王イジャルはゆっくり頷き 手に持った剣で地面を軽く突いた。
メイロスは少し驚いた。まるで・・心臓を突かれた心境なのだ。
「降伏を申し出てくれたことに感謝する!
苦渋の決断もあったであろう。だが、この決断によって住民たちの命が守られたのだ!
勇気ある決断に敬意を表す。もちろん貴殿や代官殿に危害を加えるつもりはない」
僅かな沈黙した後・・メイロスは一息つく
「ありがたきお言葉です・・ラルス殿も喜ばれるでしょう」
それほど悪い条件を付きつけられなかった。
代官の首やら・・・賠償金・・・奴隷の要求などなかった。
まずまず・・いや! 最高の結果である。
「では、さっそく・・セェルンへの入城をしようではないか! 使者殿はすぐにでも代官殿の元へと・・戻られよ」
「はっ さっそく!」
そして・・・メイロスはセェルンの町へと駆け走る。 走れ!メイロス
その背後のキヨウラ陣営では・・・耳をつんざくような歓声が上がっていた。
上空のドラゴンも舞い上がり旋回・・・なにかの喜びを表しているようだ。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)