その名はコサミ・・恐ろしい子!
キヨウラ公爵邸内の図書館。
戦災のせいで・・・焼けただれ廃墟状態。
そして・・建て直しも、修理もまだ・・されていなかった。
ちなみに・・建築や修理をしているのは猿たちである。
そう! 彼ら猿たちの知能は人間並、いや! 人間以上の頼れる猿たちなのだ!
・・・とはいえ、図書館などの施設類は優先順位が低いため、修理や立て直しは後回しなのである。
というわけで・・・廃墟図書館の前で・・・簡易のテントを張り、臨時図書館としたのであった。
水系統の魔術書に書かれている文字を一つずつノアはコサミに教えていく。
「い・ろ・は・に・ほ・へ・と・ち・り・ぬ・る・お・わ・か・・・」
これは、とある異世界の言語かと思うかもしれないが、それは気のせいであるw
そう! この世界というか・・この国の言語、カイラシャ語の基本的な読み順序なのです。
ちなみに・・・某ひらがなではなく 楔形文字を簡略化したような文字なのだ。
とりあえず・・・この「い・ろ・は」を覚えないと・・魔術書が読めない!
ここんとこは・・・がんばってコサミちゃんに覚えてもらいたいなんて・・・思っていたら、あっという間にマスターしてしまった。
(所要時間・・わずか1時間!)
これは凄い!
ある種の天才なのか!? または執念!? それとも、基本的な文字はすでに知っていたのかな!?
コサミちゃんは・・・ほぼ完璧に文字をマスターしたのである。
「ありがとうございます。ノア様のおかげで 文字が読めるようになりました」
「そ、それは良かった。これで魔術本が読めるようになったのよね」
「はい!」
コサミちゃんは元気よく返事し・・・さっそく魔術本の熟読を始めた。
そうなると、ノアも負けていられない。
うちも・・なにかの魔術をマスターするぞ~!
シルンちゃんによって探してきてもらった魔術本の一つを手に取り・・・ページをめくり始めた。
中身は・・・同じく水系統の魔術本、イラストが多く読み易い。
先ほどの魔術本より・・こちらの方が分かりやすいじゃないの!
この書籍をコサミちゃんに見せた方がよかったかな!?
-- -- -- -- 水の魔術、基本的な手引書編 -- -- -- --
万物を構成する5系統の一つ" 水 "
世界を巡回する液体、雨となり霧となり雲となる・・・
水精霊を尊び、その恩恵を受け・・・その意思に従う・・・水の魔術とは水精霊との意志の疎通・・・
「この本、前置きが長い・・・さっさと本題から読んだ方がいいよね!」
ノアはせっかちであった!
魔術本に書かれていた水精霊は・・いわゆる概念のようなものであり実際に存在しているわけではない。
だから水精霊との意思疎通といっても・・・会話が出来るわけではなく、
自然界にある種の働きかけをするようなものであった。
必要なものはイメージ、そして そのイメージを強める呪文と魔力!
ノアは・・・水魔法の実践を行った・・・まず初歩の初歩、水を湧き出させる!
シュアー ジャバジャバジャバ
呪文を唱えると手のひらから 蛇口のごとく水が噴き出した。
『 ノア様! 相当な水の量っすね! 水系統と相性がいいようっすね 』
シルンちゃんは大絶賛!
ノアが敬愛する邪神ことコーヒーチョコケーキ氏によって・・コーヒー魔法が創造されたのだが・・・
このコーヒー魔法は・・実は水系魔法をベースにして改良し・・・パワーアップした魔法だったのだ。
つまり・・・コーヒー魔法とは水系魔法の上位互換にあたるともいえる。
もちろん! コーヒー魔法を操ることができるノアは 当然のごとく水系魔法を操れることを意味していた。
というわけで、水系魔法を簡単に扱えるようになったノアは 試しということで・・
水芸のような魔法を披露することにした。
地面から・・机から・・頭の上から・・
細かい水滴が勢いよく噴き上がり、空中で舞い散る。
それぞれの水滴は小さくても、それらが降り注ぐ様子は、まるで水のカーテン!
日の光が水滴に当たり、色とりどりの虹を映し出す。
これぞ水芸・・・まさしく水系魔法!
ノアは自分の魔法に感動し・・水系魔法に自信を持った。
「うわぁ~すごいです! ノア様! すごいです」
その様子を見ていたコサミちゃんは驚く・・・そして憧れる。もちろん、自分でも試してみたいとおもった。
彼女が手にしている魔術本の内容はノアが行使した同じ水系統。
さっそく・・・書かれている呪文を唱えだしたのであった。
しかし、魔法の呪文は・・ただ唱えれば良いというわけではありません。
それぞれの人に合った発音と文言が必要で、それを見つけ出すのが一苦労なのです。
魔法が難しいとされる所以の一つが・・個々の資質に合わした呪文を、自分で見つけ出すことであった。
魔法を深く理解し・・・その根源を認識しないと より良き発音と文言が分からず・・一流の魔導師になれない。
・・・・はずなのだが、コサミちゃんはいきなり特大の噴水を発動させた。
スドォォォォンンンンン
・・・という轟音と共に、大量の水が空へ舞い上がり、そして重力に引かれて落下していく。
それはまるで温泉源を掘りあてた如く・・・ついでに湯加減も良好!
「ぐわぁぁ!」
ノアは驚きのあまりひっくり返ってしまう・・・その上、滝のような水が頭上から降り注ぎ・・・ぬれねずみ状態。
もちろん・・・シルンちゃんもぬれぬれ、
そして・・コサミちゃんは、この状況に呆然と立ち尽くす。
自分の資質など・・・一切無視し、いい加減な呪文だけで、これだけの大噴水をやらかした・・コサミちゃんの巨大な魔力パワー!
彼女の持つ魔力の高さと相性の良さを示す一例となった。
大噴水によって作られた水溜まりのような温泉で背泳ぎをするシルンちゃん・・・
『 コサミン・・・末恐ろしい魔導師っす! 』
そして・・噴水によって作られた水流をあたかも滝修行のように頭からかぶり座禅するノア。
「ま・・・負けた! 邪神様から貰ったコーヒー魔法より強力! この子・・・恐ろしい子」
涙目のノア! でも、うちは邪神様の使徒・・・負けはしないわ!
そう! ノアには強みがあった。
異世界ゲーム"" 戦血バラ ""の影響でこの世界の魔法原則から外れた存在となっていた。
経験値とステータスによって強化されるノアの不思議な体質、呪文の発音など意味をなさない。それどころか無詠唱も可能!
ある意味・・・コサミちゃんと同じ体質とも言える。
一方・・・コサミちゃんは涙を流しながら地面に額を押し付けて必死に平謝りしていた。
貴族階級のノア様に水をぶっかけてしまったのです。
まさに万死に値する行為!
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いいよいいよ・・ちょっと悔しいけど」
苦笑いをするノア、でも・・顔が引きつっている。
吹き上がった噴水で そこら中が水びたしとなり ちょっとした露天風呂になっていた。
しかも湯煙がモクモクと立ち込めており・・・湯加減も良さげ、ひと風呂はいるのにいいかも!
その後・・・この図書館前の広場が露天風呂になったのは言うまでもないw
この少女・・コサミちゃんは露天風呂製造機に最適♡
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ノアは・・・こんなそんなでひと風呂あびたあと、コサミちゃんの住む村へと向かった。
猿たちの報告では・・その村では何か騒動が起きているらしい。
どうやら・・・怪しい黒ずくめの魔導師が身寄りのない村娘を誘拐し、連れ去ったという話だ。
村人たちが周辺を捜索し・・・事件は公爵邸まで報告されたとのこと。
「その黒ずくめの魔導師・・うっにゅう! うちのことだ」
村人に心配され・・捜索されるぐらいなのだから コサミちゃんはそれなりに大事にされているらしい。
これはちゃんと言い訳ではなく・・事情を話さないと心配されるに違いない!
てなわけでノアは コサミちゃんをつれてその村へと向かったのだが・・・
「あっ! 悪い魔導師だ」
子供たちの・・・声!
いきなりの指摘をされて苦笑するノア。
うちが・・悪者にされている! 多分、誘拐犯の疑い!?
あいかわらず 黒い魔導ドレスを着ているせいなのか!?
魔導師姿としては恰好がいいのにねっ!
そして・・・なんやかやで、子供たちからの連絡を受けたのか・・・
村人たちが続々と集結し、ノアの周囲をぐるりと囲む。
しかも・・・この村人たちの手には鍬や鋤! まるで一揆! 一向一揆!
「あの黒い人が・・・さらっていったんだ!」
「「おい! コサミを返せ・・返せ・・・ 」」
「ま・・・まさか身代金要求か!?」
「なんという・・悪党」
村人たちからの怒りと叫び!
うわぁ! ・・なんか犯人扱いにされ、身代金要求までしてることになっている!
ちょっと、まずいよ~これ!
ノアの側にいるコサミちゃんは青い顔になって震えていた。
「みんな・・冷静になって! このお方、ノア様は・・・お貴族様なのよ」
だが・・彼女の声は小さすぎて村人たちの怒号に打ち消されてしまっていた。
これはどう見ても・・・青い顔になったコサミちゃんを捕えて・・脅してるようにしか見えない!
まさに人質身代金事件!
村へと出向くのだから、武装した猿たちを護衛につけたり、
キヨウラ家の家紋をぶら下げて重要人物であると主張すればよかったのだが・・・
ノアはそんな面倒なことをしなかったためにおきたトラブルであった。
村人に取り囲まれて・・困った!困った!ついでに犯罪者扱い!
そんな状況で・・・肩で休んでいたシルンちゃんは スクっと立ち上がり・・・腰に小さい手を当てながら偉そうに口上を立て始めた。
『 ひかえおろっす!・・・このお方をどなと心得るっす! おそれおおくも影の支配者・・暗黒の黒幕にして裏ボス・・ノア様であらせられるっす 』
このセリフ・・・・どう聞いても悪の首領にしか聞こえない! ラスボスですか!? ダークマターですか!?
しかも・・・小さいとはいえドラゴンが人の言葉を喋ったせいなのか 村人の多くが驚き動揺した。
「「ぐうぉ 暗黒のボス!?」」
「「獣・・いや! ドラゴンが喋ったぞ!」」
「「やばい! 領主様に通報するのだ! 」」
村人たちの何人かが逃げだした。または、数人の村人たちは鍬や鋤を握りしめ・・・今にも突っ込んでくる気配。
「ヤバイよ! ヤバイよ! シルンちゃん! 何してくれてるの? 火に油を注いでるじゃないの!」
慌てて抗議するノア! シルンちゃんに詰め寄る。
『 えっ!? やりすぎっすか! なんかカッコよく・・強っぽいっすよ! 』
そんな反省しないシルンちゃんなのだが・・何処からかキヨウラ家の家紋がついた印籠を取り出してきた。
「なに・・・その箱っぽいのは!?」
黒光りする不思議な箱を見てノアは首を傾げるのだが・・・
それをみた村人たちは・・・急に顔を青ざめ出して一斉に平伏した。
どこかの御隠居に成敗された悪人のごとく・・・
「「「はっは~」」」
そんな様子を見てシルンちゃんは慌ててセリフをはく
『 この紋所が・・・目に・・えっと、刮目するっす! 天下の副公王・・・ノア様であらせられるっす 』
「キ、キヨウラ家のも、者でしたか・・! こ、これはご無礼を!」
しどろもどろの村人たちはカエルのように・・地面にへばり付く。
・・・そんな彼らを見て、右往左往するノア、こんなにへりくだられては、たまらない!
もう・・・ぐだぐだ!
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)