その少女、面倒な予感
『 同士諸君! 偉大なるキヨウラに乾杯っす! 大祖国戦争の勝利に乾杯っす! 』
どこかの革命家、どこかの赤軍のようなセリフを片手を挙げながら言い放つチビドラゴンのシルンちゃん!
かなりの浮かれての迷発言、ご機嫌は良き事良き事!
ノアを始めとした・・シルンちゃんや猿たち・・・ついでにソン・ゴクンも含めてのお祝いムード!
建国祝いをかねての・・野外宴会中である。
場所は・・・代官屋敷内の広場、すなわち元のキヨウラ公爵邸、元来いるべき主が戻ってきたという訳であった。
もちろん、新たに建国したキヨウラ公国の拠点ともなる!
ノアが今まで狩りで得た食材・・例えばビックイノブタンなどを時空ストレージから取り出し・・もちろん調理した上で、
猿たちとともに飲み食いしているのであった。
一応・・・言っておくと彼ら猿たちは 人間のように箸やフォークを使って食事しています。
野生動物のように食い散らかしたりはしません。
彼ら猿たちの文化レベルは・・ほぼ人間と同等、いや! それ以上であった。
さらに周辺の住民たちも建国祝いということで 大勢を招待され、大いに盛り上がっています。
当初・・・見なれない猿たちが飲み食いしているのを見て・・・住民たちは驚いたが・・・
キヨウラ家の当主イジャル(一応、建国したので公王)によって・・・
「彼らは僕の忠実な部下であり、頼りになる兵士達だ」と宣言したことで、住民たちは・・一応は安心したようである。
・・・とはいっても猿は獣という認識、近寄りがたい存在ではあるのだが・・・猿の食事マナーは人間以上、
ナフキンをつかって口元を拭く仕草は もはやどこかの貴族かと勘違いしてしまうほどであったw
そんなわけで・・・猿たちや、住民たちをも巻き込んでの大宴会!
特に、憎き代官を討伐してくれたイジャル様に住民たちは大感謝! 飲めよ!歌えよの大合唱!
男も女も・・・そして猿たちも手を取り合い踊りまくり飲みまくる。
ドヤドヤ! ガヤガヤ!
空には・・・シルンちゃん特性大花火が打ち上がる(ただし幻影魔法)
そして、ノアは飲みなれぬ酒でダウンしていた。ついでにリバース! 黒幕として・・あるまじき失態!
「だって・・・このお酒、おいしすぎたもん!」・・・と、言いわけしている。
この酒は猿たちが提供したおり・・・俗に言われる猿酒! 天然発酵してるとのこと・・猿たちの秘密らしい!?
そんな怪しい謎酒もはいり・・・
建国祝いで大賑わいなのだが、イジャルは、独立も建国も了承してはいない!
はずなのだが、完全に建国ムード、キヨウラ公国設立なのである。
ゆえに・・・なし崩しとなったイジャルは・・・なんとなく公国公王となった。
イジャル公王の誕生である!
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
イジャルは建国祭の次の日からいよいよ統治の準備を始めた。
(本人が認めていないとはいえ、公王としての仕事である)
父母や、おじい様の復讐を優先したいところなのだが、あえて目をつむり・・・
このキヨウラ公領を適切に統治しなければならない。
これもキヨウラ家の大事なお仕事
大御所のおじい様のような善政を期待するのは難しいかもしれないが、
少なくとも住民たちに最低限の生活保障を提供する必要があった。
あの悪代官バルンドよりはましな統治はできるはず!
というか・・・バルンドを基準にすること自体・・・駄目なのだ!
まず最初に決めるべきことは、誰を内政官として任命するかです。
この選択は重要であり、慎重に考える必要があります。
あの猿たち、例えばソン・ゴクンとかは論外!
能力の問題以前に猿の姿では・・住民たちが反発しかねない。
人間の統治は人間がすべきである。
ノア様は・・・王女であり、ついでに黒幕なので公に顔を出すわけにはいかない。
あと・・・彼女に事務仕事を任せるなんて、色んな理由で無茶である。
というわけで・・・必然的にイジャル自ら内政を行うべきなのだがノウハウがない。
やはり、住民たちの中から選ぶしかないようである。
現地の村長が適任なのか!? それとも学識のある人物を探すべきか!?
一番良い選択は キヨウラ家の家臣団が帰ってきてくれることだ!・・・だが、たぶん絶望的だろう。
ほとんどの者が処刑されたと聞く・・・
これからの統治について イジャルはあれこれと悩む一方、
ノアはお気楽な気持ちでキヨウラ公領を散策するのであった。
シルンちゃんを肩に乗せ・・水田のあぜ道をスキップするが如く軽やかに歩む。
まるで鏡のような水田、陽光が反射しキラキラと輝く。
温度も最適で、風も心地良い。なにやら・・・幸せな気持ちにさせる。
そんなノアの散策姿を岩陰から興味深気に見つめる小さい影たちがいた!
「うわぁ、何あれ〜かわいい!小さくてモフモフ・・」
「なんか見た目はドラゴンぽいよね~」
「それにあの人もすごいよ!杖を持ってる!魔導師かな?」
「魔導師、俺・・初めて見たよ! どんな魔法が使えるのかな?」
「でも・・・なんか怖そうだよ!」
どうやら付近の村の子供たちだろうか!? 興味深げに眺めている。
手乗りドラゴンのシルンちゃんが気になるらしい。魔導師というか魔導師姿のノアにも注目が集まる。
子供たちの年齢は10歳前後・・・・ノアは14歳なので年齢的にさほどの差はなかった。
そんな彼らの目線に気づいたノアは・・笑顔で手を振ると・・・何故だか、何人かの子供たちが逃げていった。
「えっ?! うちってそんなに怖いの!?」
ノアは少しショックだった。
『 う~ん! たぶん・・・黒い魔導ドレスが原因だと思うっす! 』
シルンちゃんに指摘され、ノアは自分の姿を見た。
黒幕にふさわしい衣装だということで、黒い魔導ドレスを着用してるのだが・・・
これが子供達に対して威圧的だったらしい。
そう! 怖い魔導師に見えたのだ!
仕方がない!
ノアの必殺技・・・餌付けで仲良くなろう。美味しい食べ物で釣ってしまうのだ!
チョコザイナ魔法で、美味しく甘い・・板チョコを召喚し、子供たちに見せてみた。
しかし、喜ぶどころか・・子供たちの顔が引きつっている。
妙な黒い物体が突然! 空中から湧き出したのを見て驚き!
そして・・数人の子供たちが恐怖に駆られて逃げ去ってしまった!
「うっぬっぬぬ・・・」
ノアは困惑した。しかし、残った子供たちの一人が・・恐る恐る何かを質問してきた。
「あの〜、おばさん! それ、それ! その黒いものって何?」
その言葉に、ノアは固まった!
お・・おばさんって!? うちは14歳なのよ!
あなたたちの年齢とほとんど変わんないわよ!
この黒い魔導ドレスのせいで・・・歳よりに見えてしまったのか!
ノアの怒りに満ちた視線が子供たちを睨む!
それは・・・まさに目線で殺すがごとく!
子供たちは・・うろたえた!
あげくにお漏らし、泣き散らし・・一目散となって逃げ散っていく。
そう! まじで怖い。 シルンちゃんもビビった!
そして・・・誰もいなくなったw
いや! 一人だけは残ったようである。
背はノアより少し低めかな?
青みがかった黒髪で・・目つきが鋭い少女。
彼女の服装はみすぼらしい。それは前代官バルンドの重税が原因だったのだろう。
「ねぇねぇ・・・おばさん! 私、魔法が使いたいの! 魔導師になりたいの!魔法を教えて~」
ノアの邪眼を跳ね除け・・しかも笑顔で、何の屈託もなくノアに語り掛けて来た。
いや!希望の眼差しで 語りかけてきたのだ!
ノアはその少女を凝視した。
強めの波動を感じる。かなりの魔力量を保有しているのだろう。
なるほど! これだけの魔力量があれば・・・魔導師になりたいと思うのも納得である。
魔導師は ほぼ上級階級の身分で独占しており 遺伝的関係で庶民で魔力を持つものは少ない。
ノアの目前にいる少女は 庶民階級にあらわれた稀な存在なのだろう。
だが・・・悲しいかな、庶民では魔法の書物は手に入らない! 誰にも教えてもらえない!
いやいや待て待て!
・・・・そんな少女の境遇よりも重要なことがあるのだ!
地球滅亡より大事なことだ!
そう! この少女の認識を・・即座に改めなければならない!
ノアは少女の目の前に接近し、自分の素顔がよく見えるようにした。
「えっ?!」
少女の目が右へ左へと泳ぐ。
かなりのショックだったようだ。
・・・・それを見てノアは勝ち誇った顔になった。
なぜだかシルンちゃんも腰に手をやり・・偉そうなポーズをとる。
だが、少女は・・・
「す・・すごいです! 魔法で若返りができるんですね!」の発言に
"" なんでやねん ""というツッコミを入れるノアであった。
「元から若いのよ! うちは14歳!」
「え~!! 」
少女は驚きの顔となり・・ノアをじっと見つめた。
「私と同じ歳なんだ! なのに魔法がつかえるなんてすごい!」
そう言われると・・・ノアはちょっと得意げになった。
でも、すぐに思い出した。
うちの魔法は・・・邪神様から頂いたもので、努力の賜物ではなかったのだ。
そう思うと・・・少し罪悪感が湧いた。
ノアはしばし・・沈黙した後、召喚した板チョコを即座に少女の口に押し込んだのだ。
すると 少女はおいしそうにチョコを食べだした。
おそらく こんなおいしい食べ物を食べたことが無かったのだろう。
人生初めての味かもしれない! 感激のあまり涙目になっている。
・・・というか このような少女や子供たちに対して・・美味しい食べ物を取り上げた元代官の悪政に怒りを覚えたりする。
とにかくとにかく・・・この少女がチョコを食べるのに夢中になっている間に・・・ここから去ってしまおう!
この少女の目的は・・・うちから魔法を教えてほしいらしい!
もしかしたら弟子にしてほしいとか言ってくるかもしれない。
それはダメだ!
うまく教えられない!
うちの魔法は・・・邪神様から頂いた魔法!
不思議な魔術本から・・簡単に得てしまった魔導知識。
それを 人に教えるのは難しい。
魔法の基礎が何なのか・・・どんな原理なのか・・・どういう基準で魔法を唱えているのか・・・
などの理屈を明確に述べることが出来ない。
つまり・・・教えることが出来ない。
そんなわけで・・・その少女がチョコを食べているうちに。ノアは足早にここから去る!
面倒ごとになりそうな予感がしたからだ。
だが・・
その少女はすばやくチョコを食べ・・・ノアの後を追ってきた。
しかも・・・チョコザイナ魔法によるチョコ! 少女は身体強化され・・・猛スピードとなって駆け走ってくるではないか!
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)