賽は投げられた
「な・・・なんということだ! おじい様の領地を・・・」
九公一民、収穫物の9割を持っていかれるというトンデモ重税によって、
悲嘆にくれる農民たち、もはや絶望でしかない。
そんな、彼らを見てイジャルは怒りに震えていた。
「戦争だ! 戦争だ! 領地を奪い返し正義を取り戻す!」
そして、イジャルの背後にいる数百匹の猿たちも・・各々が持つ如意棒を掲げ・・・奇声を放った。
「「ウォー! ウォー!」」
そう! イジャル達、ついでにノアとシルンちゃんは、ソン・ゴクン率いる猿の兵団とともに" 孤独の絶壁 "から出撃!
キヨウラ領奪回を目指し進撃を開始したのである。
彼ら兵団は・・・走った!
兵は神速を尊ぶ、狙いは奇襲作戦!
敵が準備を行う前に・・・全てを片付けるのだ!
キヨウラ家の紋章が描かれた旗の元、全速力で走る完全武装の猿たち!
彼らは・・・疲れを知らない!
ノアの魔法" チョコザイナ "で召喚した板チョコを猿たちに配ったおかげであった。
身体強化され・・元から強い猿たちがよりパワーアップ!
猿の兵団・・数百匹だが、その実力は一万の軍団に匹敵しよう!
そんな彼らは・・走る!
元キヨウラ領を治める代官屋敷に向かって・・・・
ドッドドドッドドド・・・・・
砂埃が舞い散る!
そんな様子を驚愕と驚きで見る付近の住民たち。
あきらかにあれは・・・猿だ! 人間ではない猿!
だが・・・彼らは鎧を着用していた。武器も持っている。
そう! どうみても軍隊なのだ! しかも軍事行動をおこなっている。
猿なのに・・・戦争をする気なのか!?
だが、安心すべきことに、彼ら猿たちは決して住民を襲うようなことはしない!
猿たちが村付近を走り抜け・・・子供たちの側を走り抜けても・・
何の危害もくわえることはなかった。
そんな猿たち・・いや! そんな猿の兵団たちを見て住民たちは安堵した。
しかも・・・住民たちは、より衝撃的なものを目撃したのだ!
猿たち兵団の先頭を走るのは・・・二人の人間、その一人は、かつて見たことがある御仁だった!
「若君だ!」「イジャル様が帰って来られた!」
「わしらを解放するために帰ってこられたのだ!」
元キヨウラ公爵領の住民たちは、これから起きようとする戦い、戦乱・・・
または圧制者からの解放とキヨウラ家復興に願いを託す。
あの憎き代官・・重税を課すバルンドを誅殺し・・・この地に平和をもたらすことを・・・
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猿の兵団の先頭を走るのは二人の人間と小さくモフモフなドラゴン。
キヨウラ解放戦線(仮名)の総大将とその黒幕、そして・・おまけのペットであった。
「まさか・・うちまで戦闘に参加させられるとは・・・」
猿たちとともに全速疾走しながら ノアはシルンちゃんに愚痴をこぼす。
『 仕方がないっす! キヨウラ解放戦線(仮名)に参加した以上・・お付き合いっす 』
「うち・・・黒幕だよね! 黒幕ってあまり表にでるもんじゃないと思う」
『 だからっす! だから・・・ノア様は黒い魔導服を着てっるすよ! 』
「えっ!? 黒幕って・・・そういう意味なの! 見た目だけの意味!?」
『 はいっす! 似合ってるっす! なにかこう・・・傲慢で・・腹黒く野心むき出しの・・・ 』
「ふにゃあ~ なにそれ! 完全な悪役じゃないの!」
シルンちゃんは・・・ノアの周りを『 えっへへ 』とはしゃぎながら旋回する。
そして・・・その横で走るイジャルも、うんうんと首を振って納得するのであった。
猿の兵団は・・・まっしぐらとなって突き進む!
そして、かつてのキヨウラ公爵邸・・・現在の代官屋敷が視界にはいってきた。
公爵邸としては小ぶりであり平屋なのだが・・・輪中ともいえる水堀で囲まれており、いくつかの橋で結ばれている。
元々は・・・砦だった頃の名残であろう。軍事施設としてそれなりの機能を有している。
ノアは・・・この屋敷を見て、なにか記憶からこみ上げてくるものを感じた。
記憶の一部がわずかに蘇ってきたのである。
かつて・・・誰かに連れられ、この屋敷に来たような気がする・・・
なぜだか懐かしい・・・
そう!あの時、白い髭のおじさんに肩車され・・ものすごく嬉しかった。
だが・・いったい、あのおじさんは誰だったのだろうか!?
そんなノアの感傷も・・・雄叫びのようなイジャルの叫びによって一挙に粉砕された。
「うぉぉ~! オグラの屋敷よ! 僕は帰って来た」
そう! まるでどこかの英雄のように吠えたのである!
猿たちは駆け走る・・そして、手に持っている如意棒を長く伸ばし、あたかも走り高跳びのようにして空へと舞い上がった!
屋敷の周りを取り囲む幅20ルトメの水堀など・・・軽々と一っ飛び、猿たちは次々と屋敷内へと侵入した。
さすが猿たち! さすが森の住民!
重い鎧を着ていても 如意棒をうまく扱い 飛ぶように飛翔した!
だが・・・ここにいる二人の人間は飛べずにいた! だって・・・人間だもん
いや! ノアの場合、空飛ぶ箒さえあれば飛べるのだよね!
・・・・というわけで、猿たちの後をついていくために 空飛ぶ箒を時空ストレージから取り出すのであった。
屋敷は燃え上がっていた!
白い煙が空へと舞い上がり、猿の奇声と人々の叫び声が入り乱れる。
いきなりの奇襲攻撃であるがゆえに・・・屋敷側守備隊は混乱していたのであろう。
組織的な反撃が出来ていないようだ。
個々の兵士たちはてんでばらばらで駆け走っている。
しかも・・・まともに鎧や武器を持っていない兵士たちがちらほら・・・
武器や鎧を取りに行く暇さえなかったのであろう・・・そのかわり、鍋や包丁を手に持つ兵士の姿が見えた。
日用品で戦争をさせられるとは・・・なんと可哀そうなw
そんな様子を・・空飛ぶ箒に乗ったノアとイジャル、そして シルンちゃんは眺めていた。
いわゆる特等席、安全な場所からの高みの見物というわけである。
「やってる! やってる! かなり有利・・・よね!」
『 ノア様の身体強化のおかげっすね! 』
しかし、ノアの後ろで・・一緒に跨るイジャル君は 腰にさげている鞘を強く握りしめていた。
どうやら・・・戦いたがっている様子!
「ノア様・・・すぐに降下してください! 僕の手でこの領地を奪回したいのです! それこそ僕の義務なのです」
「えっ、あっ・・・!」
少し躊躇したものの・・・ノアはイジャル君の希望を叶えて上げることにした。
彼、イジャルはキヨウラ家の人間、自ら先頭に立って戦い、そして領地を奪還する・・・そう、彼は立派な貴族であり武人でもあるのだ!
そして・・ここから復讐の狼煙を上げる。キヨウラを復興し・・父母を殺した王太子に復讐をするのだ。
ノアは・・戦いと炎で燃え上がる屋敷を眼下から眺め・・着陸できそうなところを探していると・・・
見るからに偉そうな人物が二人の護衛兵とともに・・・屋敷上の屋根にいるのが見えた。
どうやら 猿たちの襲撃に追われ、屋根の上へと追い込まれているのであろう。
そう・・・彼こそが代官のバルンドであった。
「くそっ くそっ 猿の分際で!」
バルンドとその護衛兵は逃げ惑っていた。
重武装で身をつつんだ奇怪な猿たちから 逃れようとしていた。
そして、ついに屋根上に追い詰められたものの・・・
彼らは・・激しく抵抗した。
そう 代官バルンドを守る二人の護衛兵は・・・平凡の身なりであれども、かなりの強者だった!
追撃する猿たちを 既に何匹か切り伏せ地面へと落下していく。
猿はもともと強い。その上、ノアの魔法によって身体を強化されている。
それでも倒されているのだ!
不正と蓄財をしまくる悪代官バルンドにとって 勿体無いぐらいの腕の立つ二人の護衛兵!
そんな護衛兵二人に 空から舞い降りた少年が立ち塞がる。
もちろん、この少年はイジャル、狙うは悪代官バルンド、
この地に災いをもたらす元凶を誅殺しにきた。
だが、その前に・・・この二人の護衛兵を倒さなければならない。
イジャルは剣を構える。
蘭影流、三日月殺法!
彼は力強く柄を握りしめ、剣先が静かに舞い上がり・・相手を睨む。
その様子を 空飛ぶ箒に乗りながら上空で見守るノア
もちろん、もしもの時のためにチョココーディングの魔法を撃ちこむ準備も完了していた。
二人の護衛兵は・・・わずかに後ずさりした。
この少年を強敵だと認識したからだ。
しかも強い意志と覚悟を秘めている。相打ちも辞さないという目つき!
だが・・護衛兵にとっての任務は、代官でもあるバルンドを守ること。
逃げたすわけにはいかない。二人の護衛兵も同じく剣を構えた。
イジャルと二人の護衛兵・・・・しばしの沈黙
両者は睨みあい、そして、同じ認識をしていた。
動けば負ける。
出来る相手に先制攻撃など愚策、互いに後の先・・・カウンター返しをねらっていたのであった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)