女王退位!?
ノアがいるこの地方の名は・・・オグラ
暴動が多発し、内乱状態となっているアルゲルン地域の遥か北方、
または王都ルヴァからみると北西に位置しており、かつてのキヨウラ公爵の領有していた地域。
もちろん、今は改易されてしまい王国直轄領となっていた。
かつてのキヨウラ公爵の善政により このオグラの地は平和と繁栄を享受していたのだが・・・
・・・いまや、その限りではなく、王国から派遣されてきた代官の悪政によって、この地の繁栄が失われようとしていた。
そんな元キヨウラ領内に、通称・" 孤独の絶壁 "と呼ばれる・・・猿たちの居住区、つまり温泉地域が存在していた。
しかも、この孤独の絶壁は・・・文字通りの隔絶した絶壁!
人間が登れるようなところではないため、頂上に住む猿たちにとっては最高の居住地区、
しかも、猿独自の文化までが、形成されていたのであった。
今、そんな猿たち・・・・・いや!
ピッケルハウベと鎧で完全武装した猿たちによって
ノアは・・・かしずかれていたのである。
ノアはまるで君主! 猿たちの女王となっていた。
おいしいチョコを提供する代わりに・・猿たちの信頼をとりつける。
一種の主従関係なのか!? または・・・餌付けw
「わらわは・・・満足じゃゃぁぁ」
数百匹はいるであろう猿たちが片膝を折って臣下の礼をする中、
華やかに飾り付けられた巨大なチェアーにノアはゆったりともたれかかり、猿たちが持つ団扇で涼しげにあおがれていた。
しかも権威の象徴、装飾が施された巨大な日傘がノアの頭上に広がり、日差しを遮ってくれる。
まさに・・・王侯貴族の気分なのだ。
( 逃亡中とはいえ、ノアの身分は王族であるのだが そんなことは記憶喪失で忘れているw )
「うっふふっふふふ・・・これこれ、やさしく足をもむのじゃ 肩もじゃぞ!」
猿たちをアゴで使う高慢な態度!
シルンちゃんは・・・そんな態度のノアに白い目をしていたりしていた。
『 ノア様・・暗黒面に落ちかかってるっす 』
完全に我がまま放題な女王となっていたものの・・・ノブレス・オブリージュ、王侯貴族には義務がある!
そう! 彼らソン・ゴクンを始めとしたサルたちの願いは・・・御恩あるキヨウラ家の復興と復讐だ!
かつて大昔・・魔界の支配者、魔王に狙われ逃げ惑った猿たちの祖先を かつてのキヨウラ家が保護しこの地( 孤独の絶壁 )で匿ってくれたのだ。
この恩義を猿たちは忘れていなかったのである。
キヨウラ家に危機が訪れれば・・・全力をあげキヨウラ家のために戦う。
その旗頭にノアを立てたのだ!
もちろんのこと、ノアも猿たちとともに・・戦わねばならない! これこそ高貴なる者の勤め。
まず・・・敵となる標的、それはキヨウラ家を陥れた張本人、エルドラート王太子!
そして、カイラシャ王国そのものの統治体制!
猿の兵団の士気は高い・・・戦いの準備は整った!
だが・・・・
記憶がないノアにとって・・・何をしたらいいのか分からない。
義務感もないし・・思い入れもない。
その上・・キヨウラ家の復興と復讐なんて、言われても今一つピンとこない。
それにノアは・・・邪神様の使徒なのだ。コーヒーとチョコを世界に広める使命をおびている。
軍の旗揚げ、挙兵なんてしている暇はない!?
これは・・・困った!困った!
シルンちゃんも頭の上に乗っかかり、あれやこれやと思案している。
とりあえず思いついた案を口にしてみた。
『 そうっすね! イジャル君に・・・キヨウラ家の当主権を移譲したら いいんじゃないっすか!? 』
-- -- -- -- --*- - - - - - *-- -- -- -- --
ノアの横で・・少しへこたれていたイジャルは・・・シルンちゃんの発言を聞いて、僅かに顔を上げる。
キヨウラ家の正統後継者だと、思っていた彼にとって・・・いきなり現れた少女、いや!
話を詳しく聞けば・・・どうやら、あのフィレノアーナ王女らしい。
本人は記憶喪失でよく覚えていないと言っているが・・おそらく本物の王女だろう。
なんたって・・変装を一時的に解いてもらったら・・その時の顔立ちは・・・・
間違いなく王女の肖像画と同じだったのだ。
たしかにノアことフィレノアーナ王女は・・・血筋的にいえば、イジャルよりキヨウラ本家に近い、
猿たちの忠誠を得るのも納得はするのだが・・・
-- -- -- -- --*- - - - - - *-- -- -- -- --
「それがいいよね! うちが当主であっても、キヨウラ家の記憶がない! それに・・・・」
ノアは・・何かを期待し、すがる目をしているイジャルを見た。
『 そうっすね! イジャル君の希望を叶えるっす! 』
シルンちゃんも・・・同じく、イジャルを見た。何かを期待されてる気がした。
一人と一匹の視線が彼と交差する。
ノアは小さくうなずいた。そして・・・かしずく猿たちを見渡しながら立ち上がった。
「 ここで・・わらわの最初で、最後の重要なる命令を下す 」
この発言によって・・・ソン・ゴクンを始めとした猿たちは わずかに声を上げ動揺した。
これから忠誠を誓おうとする人物の意外な発言に不安が入り混じる。
ノアの片手がゆっくりと持ち上がり・・・そして、彼を指差す。
「キヨウラ家の当主を移譲する。次なる当主は・・・この者である」
その瞬間・・・猿たちは一斉にイジャルの方へと視線を向けた。
猿の中には、何かを発言しようとした者もいたが・・・即座にボス猿でもあるソン・ゴクンに止められる。
「彼こそ・・・前当主の直系の孫。それを証拠に彼の名はキヨウラ・ノン・イジャル! キヨウラの名を受け継ぐ者!」
名指しされたイジャルは即座に立ち上がり片手を高々と掲げた。
事前の打ち合わせなんてしてなかったのだが・・・ノアの意図を見事に汲み取ってくれたようだ。
「僕はイジャル、ノア様、いえ! フィレノアーナ王女様の命に従って、僕が正式なるキヨウラ家当主であることを宣言します」
その言葉を聞いて・・・ノアはおもっきり拍手した。
シルンちゃんも小さい手でパチパチと拍手し・・・口から小さい炎を吐き出す。
「わらわは・・・この少年、イジャル君の後見役として見守っていくつもりである。
これからもよろしくお願いしたい。」
ノアはイジャル君の後見役・・・すなわち、裏ボス、または黒幕宣言をしたのであった。
キヨウラ家の表の顔はイジャル・・・裏の顔はノア!
そんなノアの発言を聞いて・・イジャルは苦笑気味!
そして、何か作為的な物を感じたりもしたが、キヨウラ家の当主として認めてくれたので・・・ありがたいと思う。
それにボス猿でもあるソン・ゴクンを始めとした猿たちも・・・ある程度、安堵していた。
ノア様がいなくなるわけではなく・・・当主様の黒幕として存在してくれるということを・・・
キヨウラ家の血をもっとも色濃く残し・・・しかも何やら不思議な力を宿すノア様は、
お家再興のためにも必要不可欠な存在なのだ。
ボス猿ソン・ゴクンは力強く片手をあげ叫んだ。
「キヨウラ家万歳! イジャル様万歳!・・・ノア様万々歳!」
すると・・・それに呼応したかのように、臣下の礼をとっていた数百匹の猿たちが立ち上がり、
同じく大音量で叫び出した。
「キヨウラ家万歳! イジャル様万歳!・・・ノア様万々歳!」
シルンちゃんも負けずに・・・ノアの頭の上で小さい拳を振り上げ 何かを叫んだ。
『 圧倒的っすよ! 我が軍っす 』
イジャルは表情を崩さず、当然のことのようにふるまったが、心の中では一息をついた。
どうやら・・雰囲気的に、イジャルのキヨウラ家当主就任を猿たちは了承したようである。
ノアの後見・・または黒幕という前提ではあるのだが・・・
そう・・・ノアが腰掛けていた巨大なチェアーを今、イジャルに譲った。
これは・・キヨウラ家当主交代を意味していた。
そして・・・そのノアは、その後方に下がり、御簾を垂らして・・その中で座った。
表から、ノアの顔が見えなくしたのである。
中国王朝でときよりやっている皇帝を裏から操る女帝の姿・・・これがいわゆる垂簾政治!
裏ボスとしての正しい姿なのであったw
「なんかうちって・・・ミステリアス!」
『 ノア様・・・その言葉で台無しっす 』
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
今まさに歴史が動き出そうとしていた!
ここは、元キヨウラ公爵領・オグラ。
この地に派遣された代官・バルンドは、王太子エルドラートの側近という立場を利用し、規定以上の税金を住民たちに課していた。
もちろん、その税からピンハネをするのは忘れない! 悪代官としての常識である。
バルンドは・・おもいっきりの私腹を肥やしまくっていたのであった。
「ぐっははは~ 謀反人であるキヨウラ公の納めていた領地の民も、同じく謀反人! 通常の3倍以上の重税を課してやる」
代官バルンドの指示により・・・税を厳しく取り立てられていた。
年貢の比率は九公一民、農作物の9割を持っていかれるという・・・特別謀反人税を課していた。
豊かな水田とは裏腹に…農民たちは餓死の危機にさらされていたのである。
「これ以上・・・持っていかれると、おらたち家族が食っていけねーだー!」
「ぐたぐたうるさい! 謀反人の分際で人の言葉をしゃべるな!」
それでもなんとか・・・収穫物を持っていかれまいと追いすがる農民を、おもい切り足蹴りにして・・嘲笑う徴税官。
「おまえらは・・・そこら中の雑草でも食っとけ!」
「このあたりの雑草は毒草・・・おらたちに死ねと!?」
「根性で食え! おまえらは除草剤だ! 雑草を食べつくせばよい」
「お・・おらたちは・・・」
そして・・もう一度、徴税官によって足蹴にされたあげくに 腹に蹴りをいれられ、地面を転がる農民。
「死ね! 農民は死ね! ぐっははははっははは」
これらの出来事は・・この地で見られる日常風景だった。
屈強な兵士たちを引き連れた徴税官によって 農民たちの貯えを根こそぎ持っていく。
非力な農民たちに抵抗する力はない!
このままでは・・この地は餓死者によって覆われてしまうだろう。
まさに危機的状況、・・非常に厳しい状況に追い込まれていた。
この地に赴任してきた代官であるバルンドにとって この地の住人がどうなろうと知ったことではなかった。
バルンドにとって一番の興味は・・・この地からできるだけ多くの税を搾り取ったあげくに、ピンハネしまくることだけだった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)