女王誕生!?
その温泉地帯を支配するボス猿は・・・自らの名を" 湯泉大聖ソン・ゴクン "と名乗った。
どこかの西遊記ぽい名前である。
多分、たまたまであろう。
そんなボス猿はなんと・・この温泉地帯を、あのキヨウラ公爵から預かったという。
そう! 簡単に言えば公爵の命でこの地の統治を任された者なのだ。
猿とはいえ領主なのである。
( 王国としては非公認、キヨウラ公爵領内だけの特例 )
ちなみにキヨウラ公爵とは、ノアことフィレノアーナ王女の母方のおじい様、
そして、エルドラート王太子によって貶められ抹殺された人物。
もちろんのことだが・・・記憶喪失のノアにとっては見知らぬ人物ということになっていた。
だが・・・目の前にいた少年・イジャルは大変の驚きようとなっていた。
「えっ! 大御所のおじい様に・・・!?」
しばしの沈黙の後・・・
そのボス猿、ソン・ゴクンはイジャルに対して・・鋭い眼光を投げつけた。
「んっん!? もしや、お前はキヨウラ公爵殿の孫なのか?」
それに対して、少年は背筋をのばし堂々と言い放つ。
「はい・・・僕は公爵の孫、キヨウラ・ノン・イジャルです」
「ふむ! たしかに! なるほど! 公爵殿の面影がある! その目じり・・眉の形・・鼻すじ・・・」
ボス猿は目を細め・・・少年をまじまじと見つめる。
「尊敬するおじい様に似ているなんて・・・大変光栄です」
イジャルは・・相手がたとえ猿であっても、礼儀を失することなく相対するのであった。
そんな両者、猿と人間とのやり取りを・・ノアとシルンちゃんは不思議そうに眺めていた。
まるで他人事のように・・・
だがここで・・・あのボス猿、ソン・ゴクンにいきなり声をかけられたのだ。
まさに青天の霹靂!? ノアはドキリとした。
「そちらのお嬢さんも、キヨウラ公爵の血を引いておられるのですな! ふむ、匂いでなんとなくわかりますわい」
そんなことを言われたものだから・・・思わずノアは自分の身体を匂ってしまった。もちろん、汗臭かったw
人間にとっては・・・ただの汗臭さなのだが、このボス猿が匂いを嗅ぐと その者の血筋などを見極めることが出来る。
そう、たしかにノアとイジャルは公爵家の血筋であり いとこ同士、髪の色も同じく、あまり見かけない淡いクリーム色だったのである。
・・・とはいっても現在のノアは変装してるため、見た目の髪の毛は黒になっていた。
「えっと、うちって・・キヨウラ公爵様の血筋!? えっ!? あっ!?」
返答に困るノア。
記憶喪失であるため、ここで このボス猿に血筋のことを言われても、返答ができない。
ステータスの表示から、うちは王女らしいので・・・王家の親戚筋でもある公爵家の血が入っててもおかしくないとは思うのだが・・・
どこまで近しい親戚関係なのかが分からない。
そのボス猿・ソン・ゴクンはノアとイジャルを 眼光するどく睨んだ。
何かを探っている様子だ。
ノアにとっては ものすごく居心地が悪い。
逃亡中の王女だと・・バレやしないか!? もしもの時は全速逃亡するしかないのかも・・・
ノアは・・・肩にのっているシルンちゃんに目配せをした・・・すると、なぜか首を振る。
" 安心して! 逃げることはないよ "とアイコンタクトをしてきたのだ。
シルンちゃんは・・・あのボス猿から 何らかの意思を感じとったのかもしれない。
だが・・・ノアの心は不安のままであった。
「わしは・・・多くの猿たちを束ねる大聖、人間的に言えば、王のような存在なのだ」
すると、その言に反応したかのごとく、周囲の猿たちは一斉に如意棒を掲げだし、雄叫びを上げはじめた。
「「ウォ~! ウォ~! ウォ~! 大聖様万歳!」」
猿とはいえ・・実に力強い叫び!
いや! 十分な鎧と武装をしてるのだ!
その上、彼ら猿たちから発する魔力は・・・尋常ではない。
とんでもない波動を感じる!
これは油断ならぬ相手! 一匹で数人の兵士を相手にできるほどの実力!
ノアは、その波動に魅了された。
一方、イジャルの方も・・ノアとは違う別の感情が込みあげてくる。
「わしは・・・そう、キヨウラ公爵家に かつての恩がある。大きな恩がある。
だからこそ、今、現在、公爵家の危機を救うべく、我ら・・猿の兵団を提供しよう」
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この発言によって・・・イジャルの目は輝いた。
そう! キヨウラ家に代々伝わる家訓の一つが真実であり・・・この絶壁を登ってきた甲斐があったというものだ!
---- キヨウラ公爵家訓第十条 ----
我がキヨウラ家が滅亡に瀕した際、領内にある孤独の絶壁を登るべし・・・
この絶壁を登ることこそが試練!
そして、その試練を達成した時、異形の者たちの援助を得ることが出来る
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「よしゃぁぁぁ!」
イジャルは握り拳を掲げた。あらたなる希望を得たからだ。
たかだか猿とは思うなかれ! 彼ら・・猿達の気迫は人間を超えている。
そう! 彼らを味方にすれば・・・復讐できる! 仕返しできる!
そして・・・奴を必ず殺してやる!
我が一族を滅ぼし、父母を奪った・・・あの憎き王太子!
「抹殺! 抹殺! 殺す! 殺す! あの王太子を地獄に送ってやる!」
イジャルの目に復讐の炎が燃え上がる。殺意の波動!
エルドラート! 必ず首をとる。・・・今に見ておれ!
-*- - - - - - *-
・・・そのボス猿、ソン・ゴクンはゆっくり歩み出て、臣下の礼のごとく片足を地につけた。
「我ら・・・猿の兵団、一千騎はキヨウラ公爵家のため、命を捧げる所存!」
すると同じく・・・他の猿たちも地に伏せ礼をする。
目前に展開される光景にノアは困惑した。
彼ら猿たちは明らかに・・・ノアに対して臣下の礼を取ったのである!
目前で片足を曲げ・・・キラキラとした目で猿たちは ノアを見つめている。
そう・・ノアはサルたちによって キヨウラ家の当主と見なされてしまったのだ。
そして 驚くノア! 「えっ~! どうして~!」
ついでに・・・この展開に困惑するイジャル「えっ~! なんで~!」
イジャルは信じられなかった。僕こそが・・・キヨウラ家の後継者だったはず!
どうして・・・なぜに!?
おじい様の血を引いている唯一の生き残りなのは僕なのだ!
そう、僕こそが・・・キヨウラ家の当主となって・・あの王太子に復讐をしなければならない!
猿たちの行動は間違っている! 所詮は猿ということなのか!?
「なぜだ! なぜ!」
もしかして、箒で頂上に運んでもらったのがまずかったのか!? やはり、試練の達成、クリアーが条件だったというのか!
いや、それ以前に・・あのボス猿は、匂いだけでノアさんを キヨウラ家の血筋だといった。
しかも僕以上にキヨウラ本家に近い血筋だと・・・
だが、親類縁者の中で・・ノアさんのような人を見かけたことはない。
あのボス猿は・・・本当に匂いだけで血筋を嗅ぎ分けれるのか!?
僕は・・・ふつふつと怒りが込み上げてきた。
手が震え、イジャルの眼光が・・あの女、ノアを睨む!
だが・・・冷静になれ!
ノアさんは悪い人じゃない!
崖から落下する僕を・・助けてくれたじゃないか!
そう、もしもノアさんがいなかったら・・・僕はあの世に行っていた。
だから・・怒ってはならない! 憎んではいけない!
だとしても・・・納得いかないのだ! なぜにノアさんが・・・!
だが、そんなことを考えているうちにある重要なことを思い出した。
あっ! ・・・まさか! もしや!?
そう! ノアという名前、あの王女・フィレノアーナの名前を簡略化したのでは!?
そして、もしもノアさんが、あの王女だとしたら 僕よりもキヨウラの血は濃いはず!
イジャルはノアに振り向き・・・顔立ちをじっくり見ようとしたのだが・・・
そのノアは・・片膝を折り臣下の礼をする猿たちに対して なにやら黒い物体を配っていたのだった。
「 まぁまぁ、そんなに堅苦しくしなくても良いのですよ。チョコでも食べますか!? 」
人間以外にチョコを食べさせて良いのかというツッコミはさて置き!
(異世界の猿なので たぶん大丈夫w)
邪神様の教えを広める一環として ノアは猿たちにチョコを配った。
もちろんボス猿,ソン・ゴクンにも・・・
「このような珍しき食べ物! しかも甘い! なんという甘さ! その上、なにやら力が漲ってくる!」
そう、このチョコは・・・ノアのチョコ魔法・チョコザイナで召喚したため、身体強化を促す効果もあったのだ。
彼ら猿たちは 甘く美味しいものを頂いてニッコリ!
しかも、身体がよりパワーアップしたのだ。
猿たちは あちらこちらで飛び跳ねまくり・・大騒ぎ!
力自慢の相撲大会などをやり始めた。
これにより・・・ノアはサルたちの胃袋を鷲掴みにした・・・ついでに信頼!?もつかみ取った。
「感服いたしました! 偉大なるノア様!」
「ノア様!」「ノア様!」「ノア様」
そんな様子を見ていたイジャルは・・・思わず、ポカンと口を開け・・・何とも言えない表情となっていたところへ、
ノアの手が伸びていき、彼の口の中に黒い物体を押し込んできたのだ。
そして・・・おもわずパクリ! すこし顔を赤らめる。
「あっ・・・! これ美味しい!」
「そうでしょう! そうでしょう! これはチョコっていうのだよ」
「チョコ!? こんな食べ物・・初めて! なんて・・・美味しさ!」
イジャルも・・・猿たちと同様にノアによって 胃袋を鷲掴みされたのであった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)