温泉猿とノアと少年と・・・
王宮の地下深くに隠された王家の秘密・・それは禁断の宝物庫。
だが、いまやその宝物庫は とある原因によって瓦礫と化し・・炎に包まれてしまった。
貴重な書籍は燃え・・優れた魔道具類は灰となった。
そして・・・最悪な事態も引き起こしてしまったのだ。
決して触れてはならない、近づいてもならないという王家に伝わる封印の壺。
言い伝えでは・・・魔界の魔王を封じていたという。
その壺が・・この火災によって盛大に 炙られてしまったのだ。
「うぉぉぉぉおぉぉぉおお 熱い! 熱い! しゃれにならんぞ! 封印を解け! わしを殺す気か!!」
魔王の悲痛な叫びがこだましたという・・もちろん、誰も助けにこない。
それどころか・・・封印の壺が存在していることすら忘れ去られていたのであった(200年前のことだしw)
魔王は・・・壺とともに盛大に焼かれた。こんがりと焼かれた。
そして、魔王は・・・滅びた。
この火災事件の裏で誰一人と気がつくこともなく起きた・・一つの悲劇。
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
王都ルヴァ・王宮炎上事件・・・王宮全体が燃え上がった割には、死者がでないという奇跡がおきた。
その立役者はおそらく治療魔導師ジャックリーヌのお陰だろう。
彼女にかかれば・・・大概な傷は治してしまうという天才的治療魔導師、巷では聖女などと呼ばれている。
(ただし、聖女と呼ばれていたとしても・・・ちゃんと治療費はいただいています。経費が掛かりますからね!)
問題は・・・この事件の原因である。
王都住民たちからの聞き込みによると・・・
あの日・・・何か光る物体が王都上空で一回り旋回したのちに王宮目がけて落下、炎上したことが判明した。
しかも・・その物体の数は十数体・・・・
これは明らかに・・・自然現象や事故などではない!
悪意ある何者かが王宮をターゲットにした犯行だということが明らかになった。
しかも現在、王国の南西部は・・・大規模暴動の発生中でもある。
そして・・その暴動を扇動してる人物は・・・・・あのフィレノアーナ元王女!
フィレノアーナは王太子の腹違いの妹で、王太子を爆死寸前にまで追い込み、各地で暴動を扇動、
ドラゴンや魔獣を従え、略奪を繰り返す悪の結社の総統であり、宇宙大将軍!
「フィレノアーナ! 奴か! 奴なのか! またしても!」
王太子は怒りにまかせて・・・何度も机を叩きつけた。
憎しみで自我を忘れてしまったのか・・・・すでに4つの机を粉砕してしまっている。
彼にとって・・・諸悪の根源はフィレノアーナ! 全ての原因は・・フィレノアーナ!
証拠もないがとりあえず・・・フィレノアーナ!
食事がまずいのも、海水が塩辛いのも・・・みんなフィレノアーナのせいなのだ!
そんなものだから・・・彼はこの火災事件の真の原因を見つけることができなかった。
そう! 自ら仕掛けた呪術"" 光陰の魔矢 ""の呪い返しによるものだと・・・
(でも、呪い返しをしたのがフィレノアーナなのだから やっぱし原因はフィレノアーナ!?)
そんなフィレノアーナは現在・・・・遊覧飛行をやめて、どこかの山頂に降り立っていた。
空飛ぶ箒の電力が不足し始めたので、ソーラーで充電をするつもりである。
ここは山頂のわりに・・・寒くなく暖かい。それほど標高が高くないのだろう。
眼下に広がる水田、そして、その水田に映り込む青々とした空と雲、太陽が眩しい(ソーラー充電に最適)
邪神様からもらったパラソルセットの椅子に腰かけるノア。
コーヒーバブルでコーヒーを召喚、カップに注ぎ・・見晴らしの良い風景を眺めながらティータイムをしていた。
「コーヒーにこの風景・・・生きてるって素晴らしい!」
光の矢に追われまくられたせいでノアのメンタルは空っぽEMPTY!
現在、このティ―タイムで補充中。
あの光の矢は、いったい誰による仕業なのかと色々と考えたが、分かるわけがない。
だってうちは・・記憶喪失なのだから・・・
それでも・・・なんとなく王女がらみの政争だよね!とは思う。
そんなことより・・・
うん! うちは邪神様の使徒・・・そのうち、なんとかなるでしょう! 邪神様の力でw
ってなことで・・・ご機嫌よくコーヒーをすするノアであった。
シルンちゃんはノアの頭の上にピョコンと飛び乗り・・・ぐるりと周囲を見渡した。
すると・・ふいにシルンちゃんの小さい手が何かを指差す。
『 ノア様、あれっす! あれ!あれ! 』
何だろう!?と思ったノアは・・・指差す方向を見た。
「煙!? 何か燃えているのかな!?」
だけど・・遠すぎてよくわからない!? 水田の遥か向こうに、白い煙が立ち上っているのが見えた。
「焼き畑でもしてるのかな!?」ノアは首をかしげた。
この辺りは農村地帯だから、そういうこともあるのかも・・・???
一応、念のため・・・ノアは呪文を唱えた。
「サテライト・イメージ!」
すると・・目の前にウインドが出現・・空から見下ろした風景が映し出される。
この魔法は・・・鳥観図のように付近一帯を眺めることが出来る魔法であり、人や動物の位置なども分かる。
ウインドには水田や小道、家々の屋根、そして肝心の・・煙の出ている場所がズームアップされていく。
そして・・・「えっ!?」
ノアは目を見開いた。
それは猿! あえて言うなら日本の温泉猿である。
その猿たち数百匹が・・・白い煙の中で湯に浸かっていたのであった。
猿の数が数だけに・・・かなりの巨大な露天風呂となっていた。
それゆえに ここから立ちのぼる煙が、凄いことになっていたのだろう。
--- そこは 猿たちの温泉風呂だった ---
互いに毛づくろいをし合っている姿は・・・なんて微笑ましい。
しかも猿たちの顔から、野生らしさが抜け落ちてしまい・・完全無防備状態。
ほとんど人間と変わらない。
タオルのようなものを頭上に乗せ・・・プクプクと浮かぶ猿がちらほら、
その横では・・数匹のおばさん猿が井戸端会議!
「うわぁ~! 温泉猿ちゃんたち!可愛い~♡」
ノアはコーヒーをすすりながら、サテライト魔法でバートウォッチならぬ・・モンキーウォッチ
それにしても・・・この温泉は人里に近いのに、人間が見当たらないのね!?
人と猿・・・住みわけをしてるのかな!?
ノアはよくよく観察すると・・・サルの温泉は絶壁の頂上、台地の天辺に存在した。
しかもそこは・・・前人未到の世界、道もなく、ついでに階段もない!
絶壁という難攻不落の壁によって、人間が到達できない陸の孤島だったのだ。
フリークライミングでも無理そうな岩壁に囲まれていた。
( でも・・サルだけは軽々と登っていたりする )
ノアのように空飛ぶ箒でもないと・・到達不可能だろう。
「なるほど! まさに・・本当の秘境温泉! 人間がたどり着けないんだ!」
うんうん・・・ちょっと猿たちに混ざってお邪魔しようかなと思いつつ、
付近を見渡していると、驚くべき光景・・・いや! 危機的光景を見た。
温泉台地の絶壁、その中間あたりの岩棚に、一人の少年がうずくまっているではないか!
しかも、とんでもなく危険な場所!
一つ間違えば・・・奈落の底へと転落!
彼は・・・おそらく、かなりの無理をしてこの岩場までたどりついたのだろう。
しかし、そこで力尽き・・座り込んでしまったようだ!?
上がることもできず・・・だからといって降りることも出来ない状況なのかも・・・
少年の顔色は・・・判別できないが肩で息をしている。かなり疲れた様子。
しかも、服装はみすぼらしく・・登山をするような装備ではない。
でも・・・腰には鞘のようなものを差している。一応・・・剣士なのかな!?
なんにしても・・・この絶壁をフリークライミングで登ることなど不可能!自殺しにきているようなものなのだ!
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
その少年は岩場で休息をしていた。
目的は山頂、天辺に登ること!
そして・・・少年は立ち上がる。
いざ!参らん・・・
だが・・・その時、亀裂が走った。
ミシッという音とともに 足場が崩れたのだ。
少年はバランスを崩す。何とか手を伸ばし、岩か何かを掴もうとするが届かない!
「あっ! しまった! 不覚」
身体は自由落下、速度が増していく・・・もはや!
バシッ
なにかの衝突音!?
「うわぁ・・・やっぱし重い!」
ノアはギリギリのところで・・・落下していく少年を抱きかかえることに成功した。
しかも・・・お姫様抱っこ状態で!
ノアの腕力だけで・・少年を抱きかかえれることが出来るのか!?というと・・もちろん無理!
チョコザイナ魔法による身体強化のおかげであった!
『 ノア様 ナイスキャッチっす! 』
シルンちゃんも・・大絶賛!
でもノアは・・・冷や汗ものだった。あとちょっとずれてたら・・・この少年を奈落の底に落としてたかも!
あぶない!あぶない!
しかも‥この少年・・・うふっ 可愛いじゃないの! ちょっと好み!
髪の毛もうちと同じ・・・淡いクリーム色じゃないか・・・
でも、今の私は変装してるため・・・黒髪なのよね!
「えっと、大丈夫かな・・・うっふふふ」
ノアは思わず獲物を見るような目で少年を見つめた。
そして、少年は本能的な恐怖を感じると同時に困惑する。 現在の状況が分からないのだ。
えっ!? 女の人に抱かれている!? 浮いている!? 空を飛んでるの!? どうなっている!?
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そう、あの時・・・・
サテライト魔法によって少年の危機を知ったノアは・・・一目散となり急行した。
空飛ぶ箒でアフターバーナー全開!
全速疾走したのだ。
ドっドドドドッドド・・・白い飛行機雲が線を引く!
そして、ギリギリ! ・・・転落中の少年を抱きかかえることに成功した。
ミッションコンプリート!
素晴らしきかな・・・ファインプレイ!
しかも・・・空飛ぶ箒の電力も回復できていて・・実に良いタイミングだった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)