新たなる旅路
「ノア様、永遠に・・・僕は決して忘れないよ」
公王イジャルはすっかり、ノアたちの行方不明、痕跡の消滅から・・
エルドラード王子と刺し違え・・死んでしまったと思い込んでいた。
だが! 決して消滅はしない。
ノアは不滅なのだ!・・・というわけで
ノアたち箒組は・・コーヒータイムをしながら、月の裏側をまわり、地球への帰還ルートを取り始めていたのである。
この辺りまで来ると・・シルンちゃんもお気楽モード。
あとは勝手に・・箒搭載のコンピューターシステムが軌道修正してくれるはずである。
「あれが月なの!?・・・想像していたのと全然違います。なにか物悲しい」
「うん、穴がでこぼこ・・荒地だよね。森や海がないなんて!」
ノア、コサミちゃんの驚きの声が響く。
『 そうっすね、荒地というか・・・岩石や細かい砂だらけ! 生物なんていないはずっす 』
異世界アイテム出身のシルンちゃんは宇宙知識は豊富であった!?
「へぇ~、そうなんだ! でも一度は降りてみたいなぁ」
ノアは無邪気な笑みを浮かべた。
『 降りてもいいけど・・自由に歩けないっすよ! 空気なんてないっすからね 』
シルンちゃんが真剣な表情で応じると、ノアは目を丸くして驚く。
「うわぁ、空気がないなんて信じられない」
ノアや、コサミちゃんはこの世界、中世時代の住民・・よくわかってはいない。
それでも、すんなりと宇宙という世界を受け入れているのは、魔導師のおかげなのか?!
ノアたち空飛ぶ箒組は順調に宇宙航行、遠くに輝く青い星が映し出されていた。
『 さぁ、地球に帰還するっす! 』
シルンちゃんの弾けるような笑顔、何事もなく予定通りのはずなのだが・・・唯一、思いもよらない出来事に出くわしてしまっていた。
それはノアにとって・・大したことでもあり、大したことでもない、という微妙な発見だったのである。
そう、それは月の裏側、周回軌道上で遊弋していた何らかの人工物体!?を偶然にも見つけてしまったからであった。
その姿は球体を成し、直径は3ルトメ程度。
俗にいう未確認飛行物体なのだが、球面に刻みこまれた文様は、古い文字であったものの、ノアはかろうじて読むことができた。
それは・・・・" エンジン・モジュール "
ノアにとっては謎めいた単語であったが、異世界を知るシルンちゃんにとっては意味深い名称であった。
『 エンジンっすか!? こ、これは! 大発見っす 』
「んっん!?」
"何これ!?"というような表情になっているノアとは違い・・シルンちゃんは興奮気味なのだ。
なにやら・・凄いものらしい!?
古代文字からの推測によって、この物体は異星人由来のものではなく、この星の人類によるもの、失われた超古代文明の遺産、遺跡!?なのであろうとシルンちゃんは想像した。
そう、なんらかの原因で破棄された宇宙船の一部なのであろうか!? 好奇心が湧きに沸きまくる。
『 なんて、素晴らしいっす! 偉大なる古代人の一端を知ることができるっす 』
そう、この世界の人類は大昔、高度な文明を築き、宇宙にまで進出していたのだ。
これはぜひとも調べてみたい。
シルンちゃんはすぐさま箒搭載の牽引ビームを起動する。
ターゲットは古代遺物とされる"エンジン・モジュール"・・その遺物を回収し、地球へ持ち帰るのだ。
箒から発せられたビームは、あたかも牽引ロープのように古代遺物をしっかりと捉え、そのまま静かに引き寄せていく。
『 うまくいきそうっす 』
シルンちゃんは満足そうに微笑み小さい手でサムズアップした。
しかし、その横にいるノアは、よく分かっていない様子。
なんとなく・・・珍しき物という感覚でしかなかった。
「これって・・何かの役に立つの?」
・・・の質問にシルンちゃんは興奮気味に返答した。
『 超古代文明の復興! ルネッサンスの始まりっす 』
「・・・・・!?」
そして、余計に意味が分からなくなったノア、そしてコサミちゃんだった。
牽引ビームによって 古代遺物・"エンジン・モジュール"は空飛ぶ箒の近くにまで引き寄せられる。
そして、手に届くほどの位置にきたところで、ノアの魔導・・"時空ストレージ"に収容されたのであった。
これで古代遺物の回収は、一応の成功を収める。
しかし、中身の確認は・・地上に降りたときにすべきであろう。
何が入っているか予想がつかない。危険物の可能性もあるのた。
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月をぐるりと回ってきたノアたち箒組は・・地球の成層圏近くにまでたどり着くことができた。
さぁ! いよいよ、大気圏突入の時が迫る。
・・・・といいたいところだが、箒の速度を十分に落としているので、大気との摩擦で燃え上がる心配はない。
そう、某異世界の宇宙船のように、第1宇宙速度で大気圏突入はしないのである。
『 ゆっくりと降下するっす! 』
シルンちゃんは何事もないかのように口ずさむのであった。
ノアたちは空気なき世界から・・・大気ある世界へと、グライダーのように滑り降りていく。
はるか眼下には、小さく見えていた大陸が徐々に広がっていき、青々とした森と険しい山の輪郭が、はっきりと視認でき始めた。
あの月の・・荒涼とした風景とは違い、なんと素晴らしき事か!
命あふれるこの星こそ・・・生命のゆりかご!
そしてついに、ノアたちは平原に降り立つ。
無事に宇宙から戻ってきたのだ。
今まで長時間、座り込んでいた箒から飛び降りたノアたちは 地面に足をつけた感覚を楽しむ。
わずかに地面がゆれているような感触。
"乗り物酔い"ならぬ"陸地酔い"・・ちょっと不思議な気分。
"狭い"あるいは"座ったまま"という空飛ぶ箒の制約から解放され、ノアとコサミちゃんは・・おもっきり平原を走り回った。
「地上ってすばらしいです!」
「空気も新鮮! もう宇宙はこりごり」
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その後、古代遺物・" エンジン・モジュール を引っさげて、公王イジャルたちの元へ戻ろうとしたのだが・・残念!
簡単に戻れないようである
予想外のトラブル・・目的地を定めず適当に地球降下、着陸してしまった結果、遥か遠くの大陸に降り立ってしまったw
しかし、箒に搭載されたナビゲーターのおかげで、現在地は把握していた。
決して迷子ではないのですが・・・
『 ここは・・地球の裏側っすね 』
空飛ぶ箒の操縦者たるシルンちゃんは、あっけらかんとした表情で状況を説明した。
まるで責任を放棄したかのようなその態度だが、初めての宇宙旅行、そして帰還を試みる中でのミスは、ある意味仕方のないものだった。
一方で、ノアとコサミちゃんは、このハプニングを気にする様子もない。
ついでに・・地球の裏側という意味も分かっていないw
「復讐も果たしたのよ。エルドラードを葬り去ったんだから、急ぐ必要なんてないのよね・・・」
ノアは穏やかな微笑みとともに語る。それに応じてコサミちゃんも静かに頷きながら、「うんうん」と同意した。
彼らにとって、急ぐ理由などないのだ。
目前に広がる大地、新たなる可能性、
心地よく流れる風のささやきが 彼らをさらなる冒険へと誘うように思えたのだった。
『 遠足は公国に帰るまでが、遠足っすよ! 』
意味不明の名言を吐くシルンちゃんに、とりあえず頷くノア。
「うちらの冒険はこれからよ!」
・・・という最終回特有の発言をした途端、水平線付近を覆いつくすほどの砂煙が現れた。
しかも、地響きと共に・・こちらへと迫ってくるではないか!
ドッドドドドドッッ
そう、あれは魔獣たちの暴走・・(スタンピート)だ。
「ノ、ノア様! 私たちの戦いは・・本当にこれからです~よっ! 」
コサミちゃんの必死な叫びに応じて、ノアたちは・・・即座に臨戦態勢に入る。
「地球に帰還して・・いきなりですか!」『 わっちの魔動拳をお見せするっす! 』
ズドォォォォォーーン
炎が舞い上がり、轟音が大地を震わせた。
この瞬間、この大陸に新たなる"ノア伝説"が刻まれることになる。
P.S. 余裕を見せつけるような態度で戦いに挑んでいったノアたちだが、実際はかなりギリギリの戦いでしたw
「ぜいぜい・・ちょっとやばかった♡」
「ノ、ノア様! 命が縮んでしまいましたよ」
『 幻影魔法でなんとか誤魔化せたっす 』
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)