最終決戦
枯れ井戸から這い出してきたエルドラード王子に、休む暇などない。
ここはルヴァの城壁から南方、3ロキル程度の近距離、しかも近くにはキヨウラ公国軍が陣を構え、周囲を警戒しているようだった。
「ちっ まずい!」
エルドラード王子の服装は華美な衣装、ひと目で高貴な人物だと分かってしまうのだ。
これではまずい。目立ちすぎる!
なんとかして庶民の服を手に入れ・・一般人の中に紛れこまねばならない。
・・・などと考えていると、王子の視界に農地と小さな建物・家屋が飛び込んできた
そう、あれは間違いなく庶民の家だ!
あそこなら、きっと求める物・・庶民の服が見つかるはず。
王子は全力で駆けだす。あの家屋に向かって・・
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一方、その姿・・森から抜け出し、青々とした平原を走る一筋の黒き影を・・・上空から視認した者たちがいた。
それは、ノアたち空飛ぶ箒組!
「間違いないあれだ。奴だ・・エルドラード!」
ノアの目に宿る殺気が、地上を走る王子を鋭く捉え、ターゲットロックする。
そう、決して逃がしはしない。捕えるのだ。
" チョココーティング! "
ノアから発した幾つもの黒く甘い物体が飛翔し・・憎き王子へと迫る。
それは足止め魔法。
ネバネバと絡みつき、標的を雁字搦めにする力を持っていた。
・・・だがその瞬間、エルドラード王子に悪寒が走る。
あまりにも強すぎる殺意を感じたからだ・・そして、殺意の方向、上空を見上げた。
「なっ・・空から!?」
本能的な命の危険!
王子は即座に魔導を行使する・・・魔導障壁!
青白い膜が王子を覆い、外部からの攻撃・・・黒く甘い幾つかの物体を弾き飛ばし四散させた。
そう、ノアの魔導攻撃"チョココーティング"を防ぎきったのである。
だが、エルドラード王子の背中を冷たい汗が流れた。
これは殺意! 強烈な念、間違いなくあれは・・・フィレノアーナ!
王子は上空に浮かぶ・・謎の物体!? 箒のようなものにまたがる二人の女性を見た。
しかし・・遠方ゆえなのか、顔形まで確認できないが・・・おそらく奴であろう。
いや! 最も驚くべきは空を自由に舞っていることだ。
なんという驚異的な魔導力・・・空を飛ぶなど、この目で見ない限り信じられないだろう。
それはまるで伝説の" 魔王 "ではないか!
そして、王子は絶対に勝てないと悟った。
つまりそれは・・・逃げの一手しかない。ゆえに逃げる。全力で!
だが・・・しかし
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「絶対に逃がさない! おじい様の仇!」
ノアは叫び・・その声はエルドラード王子にまで届いたであろう。
彼は・・一瞬びくつく。
そしてノアは、魔法の杖を握りしめ魔導を行使した。
"コーヒーバブルボム"
もはや、足止めなどという手加減はしない。とりあえず殺す! 抹殺する!
絨毯爆撃のごとくバブルボムを大量にばら撒いたのである。
ズドッドドドドッドド
平原は爆風に包まれた。エルドラード王子がいると思われる付近一帯に、無数のバブルボムが炸裂、砂埃が舞い散る。
彼の安全は・・今のところ魔導障壁によって、なんとか守られていた。
だが、その障壁も時間の問題! いずれ貫通されてしまうであろう。
王子は慌てふためく。なんとか逃げきるのだ!
「うあっああ・・フィレノアーナめ!」
だが、必然なのか、運がいいのか・・バブルボム着弾によって 周囲を白煙が覆い視界を妨げる・・いわゆるホワイトアウトだ!
チャンス! 王子は、身を低くしてその場を駆け抜ける。
そう、この白煙に紛れて脱出を図るのだ。
素早く、早く!
だが、ノアにはサテライト魔法があった。
この魔法は生物反応を正確に捉え、その動きを全て掴んでいる。
つまり・・エルドラード王子は絶対に逃がさない!地獄の底まで追いかける!
ノアはさらに攻撃を強め、次々とコーヒーバブルボムを放った。
ズドッドドドドッドド
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白煙に包まれ視界が閉ざされていようとも、ノアは確実に王子を追いかけていく。
しかも、エルドラード王子を守る魔導障壁は崩壊寸前!
危機が迫る。もう後がない。目の下の傷が猛烈に痛む。
「もうだめだ! 限界だ! やられる 殺される!」
王子は最後の賭けにでることにした。
自らの命の炎を削る危険な魔導。
それはカイラシャ王家の秘術であり秘法だ!
しかも、王族の中でも極一部の者にしか知らされていない禁断の術である。
当然のことながら、名ばかりの王族であるノアは、その秘術すら知らなかった。
「よくも、ここまでやってくれたな! 俺の一世一代の魔導を見せてやる」
エルドラード王子は覚悟を決めた。
命を削る危険な魔導・・・それを今、この瞬間に行使する。
たとえ自らが滅びようとも、あのフィレノアーナを道連れにしてやる!
俺は・・簡単に負けはしないのだ。
栄光ある王族としての意地・・・王太子としての誇りを見せてやる。
王子は懐に忍ばせている手記を取り出したのである。
この手記には・・禁断の呪文が書き写されていた。
そう、この禁術は極めて複雑であり難解のため、この手記なしでは唱えることができないのだ。
だが、それゆえにこの禁呪は最強の魔導とされている!
かつて200年前、カイラシャ王国が滅亡の瀬戸際に立たされた時、この禁術を行使し・・・敵を壊滅させたという。
しかし、それ以来、この禁術は使われていない。
この禁術を行使できるのは、王家の者のみだという。しかも生命力を吸い上げ、命を落とすかもしれないという代償がある。
それだけ危険な魔導なのだ!
そんな禁術をエルドラード王子は行使せんと唱えはじめた!
絶大な力と危険性に満ち溢れた・・この禁断の術を自分の命と引き換えに発動するのだ。
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魔力の塊、魔導の圧力・・・それが波動!
そんな波動が・・地上を覆う白煙の中から生み出されていくのだ。
しかも膨大に、強大に・・・青白く渦巻、天へと昇っていく竜のごとく・・・
ノアやコサミちゃんは・・・空飛ぶ箒にまたがりながら、その膨大な波動を目撃した!
そして、その波動の特質から・・その出所は間違いなくエルドラード王子だと直感する。
奴は・・ なにかを仕掛けようとしているのだ!
『 ノア様、まずいっす。眼下の煙幕内から、なんらかのエネルギーが拡大しているっす! 』
シルンちゃんは叫びながら、小さな手で空中パネルを連打した。
ノアと同様、パネルの計測計から・・なんらかのパワーを感じとったようであった。
『 これは危険っす! 電磁シールドを展開するっす。急速後退 逃げるっすよ! 』
その声は緊迫していたが、ノアの表情は全く揺るがない。
「シルンちゃん、ダメよ! 後退はしない。逆に突っ込むわよ! この箒のシールドであの王子を吹き飛ばしてやる。殺すのよ!」
ノアの執念、殺意に満ち溢れた発言にシルンちゃんとコサミちゃんは一瞬、顔を青ざめさせた。
だがシルンちゃんの方は、すぐに笑みを浮かべ、勢いよく答える。
『 は・・はいっす! それは・・・面白いっす! やるっすよ! 』
シルンちゃんはノアと同様・・血の気が多く、やる時にはやる!
腹を括りこの特攻作戦に了承の意を示したのだが、
後ろに座るコサミちゃんは一生懸命に首を振っていたのだった。
ノアに逃げるという選択はない。ここまであの王子を追い詰めたのだ。
どんなに反撃されようが、波動を撃たれようが、ここで必ず仕留める。葬ってやる!
ノアの狂気じみた執念が眼下を見下ろし・・・そして、ノアたち箒組は急速降下を始めた。
あの膨大な波動の源泉、エルドラード王子に向かって・・・・
ズドッドドドオオォォォォ
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「いけ! いけ! いけ! 突進! エルドラード! お前を絶対に仕留める! 仕留めてやる!」
ノアの叫びは、白煙を切り裂き、前方に存在するであろう・・まだ見えぬ敵を睨む。
空飛ぶ箒は電磁シールドを展開、青白き球体に包まれながら、あの憎き王子を弾き飛ばさんと突き進む。
これはまさに殺意をこめた特攻なのだ。
空飛ぶ箒の加速力と、落下速度が合わさり、クルクルと回転しながら突っ込んでいく。
だが安心してほしい。この箒には重力安定装置を搭載しているため、ノアたちが振り落とされる心配はないのだ。
そして・・ついに、その時が来た。
ノアの視界に、憎きエルドラード王子の姿が映り、互いの視線が交差したのは、ほんの一瞬。
だが、その一瞬、その瞬間に箒の電磁シールドと・・・エルドラード王子の発する波動、王家に伝わる禁術の力が、激しくぶつかり合った。
膨大なエネルギーが噴出し、轟音と共に稲光が走る。
大地は悲鳴を上げ、無数の亀裂が広がっていき・・・遠くに見えるルヴァの城壁が、静かに崩れ去っていった。
そんな天変地異、自然災害!?
いや、人災を目にして思わず立ち止まる公王イジャル。
ノアと同様に宿敵・・・エルドラード王子の命を狙って、影忍たちとともに駆けつけて来たのだが・・・
その目前で とんでもない事態に遭遇したのである。
「ノ・・ノア様、なにを・・・」
濛々と立ちのぼる白煙が・・キノコ雲のように天を覆い・・凄まじい轟音、地面に亀裂が走る。
さすがにこの状況は異常すぎる。
それはまるで・・・世界の終わり、ハルマゲドン
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)