表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

エピソード5.5:newcomer greeting

 一方その頃。

 政宗から『関係縁』を引っ張られて『仙台支局』へとやって来た空は、とりあえず、ユカの近くをふよふよと漂っていた。

「ねーねーユカちゃん、何事?」

「政宗に聞いてくださいよ……」

 というやり取りを繰り返すこと約5分、外で電話をかけていた政宗が事務所内に戻ってきた。そして、ユカを自席の方へ手招きする。相変わらず説明が薄いことにため息を漏らしつつ、ユカは立ち上がってノタノタと移動した。

「なんね政宗、あたし、17時半から里穂ちゃんと一件あるっちゃけど?」

 まだ里穂は到着していないが、移動経路や『生前調書』の読み返しなと、準備に時間を使わせろ、と、ユカは暗に訴えた。ただ、彼女の考えも当然理解している政宗は、「分かってるって」と頷いた後、ユカの右上にいる空へと視線を向ける。

「ただ、そろそろ川瀬さんを支倉さん達にも紹介しておかないと、俺たち、独り言が多いヤバい奴だろ?」

「それは確かに……まぁ、政宗はもともとヤバいって評価やろうけど」

「何で俺だけ……とにかく、今日は里穂ちゃんも来るから一気に紹介出来るんだ。ケッカ、案件前に悪いけどスマホ操作と通訳を頼む」

「ヘイヘイ……」

 政宗がやりたいことを察したユカは、パーカーのポケットからスマートフォンを取り出した。そして、左上で漂っていた空を呼び寄せて。

「川瀬さん、その辺にいてくださいね」

「へ? その辺ってどの辺?」

「その辺です」

 ユカが誰も居ないところへカメラを向けながら話しかけている間、政宗は、自席でコチラを伺いながら作業をしていた瑞希と華蓮を呼び寄せた。そして。

「支倉さん、片倉さん、今、俺たちが一時的に協力をお願いしている方を紹介するね」

 こう言いながら、自分のスマートフォンでも特定のアプリを起動した。瑞希は何となく気配を感じるだけで空を視認することは出来ないし、華蓮は眼鏡を外せば見えるのだが、それはここで許可されていない。

 だからこそ、こうしてデバイス越しに対面させられるのは非常に役立つと改めて思う。

 政宗は、普段、『縁』や『遺痕』を撮影するときのモードにすると、カメラのレンズを空の方へ向けた。次の瞬間、まるでVRのように、画面の中に空の姿が映し出される。2人が同時に1つを覗き込むのは見ずらいので、ユカは華蓮に、自身のスマホを手渡した。

「片倉さんはコッチで見てね」

「ありがとう……ございます」

 脳で理解していても、実際、今まで誰もいなかった空間に若い女性の姿が見えるのは、異様だと思う。2人が空を視認したことを確認した政宗は、宙に浮いてダブルピースをかましている空へ手を向けて。

「彼女は、川瀬空さん。今は主に、巡回や連絡調整をお願いしているんだ」

 政宗の言葉を受けた空が、2人に向けて「どうも~」と軽く手を振る。瑞希も反射的に会釈をしつつ、政宗を見つめて問いかけた。

「さ、佐藤支局長、もしかしてこの方って……」

「そう、この間、支倉さんが気分を悪くしたときにいた『痕』だよ。色々あって、協力してもらっているだ」

「そ、そうだったんですね……!! は、初めま……初めまして? えぇっと……と、とにかく初めまして、支倉瑞希ですっ!!」

 混乱を無理やり吹き飛ばすように頭を下げる瑞希へ、空もまた「よろしく~」と手を振りつつ、隣りにいるユカへ話しかける。

「ねぇユカちゃん、えっと……ミズキちゃん、こないだ、アタシのせいで具合悪くなっちゃったの? アタシ、ここにいるとヤバめ?」

「あぁ。大丈夫です。あれは色々とダメなことが重なっただけなんで」

「りょ」

 頷いた空は、瑞希へと手を振りつつ……自分を凝視している華蓮を、ちらりと見た。そして……顔をしかめ、首をひねる。

「川瀬さん?」

 そんな空の態度が気になったユカが呼びかけると、空は「でも……いや、うーん……」と、どこか釈然としない表情のまま、ユカを見つめてコソコソと――声は『縁故』以外に届かないのだが――口を開いた。

「ねぇねぇユカちゃん、あの、タマキさんの隣にいる女の子ってさ……ほんっとーに悪いけど、本当に女の子?」

「へっ!? よ、よく分かりましたね。違います……」

 まさか見た目だけで正解にたどり着くとは思っておらず、ユカは反射的にギョッとしてしまった。一方、見事に正解した空は「やっぱり!!」と指を鳴らす。鳴らないけど。

 その根拠が知りたくて、ユカは、ドヤ顔で仁王立ち(浮き?)している空を見上げた。

「ど、どうしてそう思ったんですか?」

 その問いかけに、空は華蓮が着ている上着を指さした。今日の彼女はジーンズ素材の上着と裾が長い白いシャツ、濃い茶色のチノパンにスニーカーという出で立ちだ。服装はカジュアルだが、長い髪の毛のウィッグを装着し、ハーフアップにしてバレッタまで付けているため、何も知らない人が見れば完全に女性なのである。

 ユカは一瞬、喉仏でも見たのかと思ったが……シャツの襟がいい感じに隠している。彼は元々華奢なタイプなので、肩幅で判断したとも考えにくい。そんなユカの疑問に、空は意外な答えを告げる。

「っとねー、あの子が着てる上着のブランドって、レディースは取り扱ってないんだよね」

「え? 男女兼用じゃないんですか?」

「確かに男女兼用っぽいデザインだから女の子が着ててもおかしくないし、若い子に人気のブランドだけど、今、女子の間ではカレシの上着を借りてオーバーサイズで着るのが流行ってるから、あんなピッタリサイズじゃ絶対着ないんだよ。確か、ピッタリで着るとカレシいませんってことになるらしいけど、男漁りに必死に見えてダサいってことで、普通はやんないんだって」

「へぇ……」

 知らなかった情報に、ユカは目を丸くして華蓮の服装を見た。

 一見、最近の彼女がよく着ている、男女兼用の衣服に見えるけれど……それがまさか、世間の流行とは逆行するような着こなしになっていたとは思わなかったのだ。

 ユカの反応に調子を良くした空が、華蓮の髪型を指さしてトドメをさす。

「あの子、メイクやヘアスタイルは今風なのに……だからかな、そこがズレてるのは変だなって思って。あと、スニーカーも多分メンズだと思う。だからさ、もしも中身が男の人だったら、上着と靴がそうなるのも分かるなーって感じで」

「なるほど……目の付け所、すごっ……」

 一人納得するユカへ、華蓮が「何ですか……」と、怪訝そうな顔を向ける。

 そこでユカが、空から聞いたことを説明すると、話を聞いた華蓮は目を軽く見開いた。そして、自分が着ている上着と靴を見下ろして、ちょっと悔しそうに唇を噛みしめる。

「そんなことが……勉強不足でした」

「いや、流石にそこまで知った上で着とるなら逆に怖いっちゃけど……とにかく、こんな感じで観察眼が鋭いというか、あたし達とは違う見方をしてくれる。やけんが、あたしや政宗、統治あたりが独り言多いなって思っても、しばらくは大目に見てね」

「了解しました」

 そう言ってペコリと頭を下げる華蓮に、空が「よろ~」と手を振りつつ。

「じゃあユカちゃん、あの子の呼び方はカレンちゃんでおけ?」

「いいと思います」

「ちょりっすかしこま~」

 ビシッと手を額に寄せる空を見た政宗は、「あと」と、言葉を続けた。

「要するに今、分町ママには頼りづらい状況なんだ。2人はそんなことないと思うけど、もしも、分町ママやそれ以外の人から『仙台支局』について聞かれたら、当たり障りのない返事をしてほしい」

「わ、分かりました……!!」

 瑞希がブンブンと頷く隣で、華蓮は一度、コクリと首を縦に振る。

 こうして、2人もまた、新たな協力者を無事に認識したのだった。


 その後、時刻は17時過ぎ。学校設備の関係で部活が休みの里穂が、制服姿で『仙台支局』へやって来たので……ユカはソファに座っている彼女へお茶を出しつつ、空を紹介することにした。

「里穂ちゃん、こちら、川瀬空さん。今は主に、櫻子さん周辺の見回りや連絡調整をお願いしとると」

 既に視界を切り替えていた里穂が、ユカの隣にいる空を視認して、「おぉ……!!」と目を見開く。そしてすぐに意識を切り替え、いつものテンションで自己紹介を始めた。

「初めまして、名倉里穂っす!! 空さんって呼んでいいっすか? 私は好きに呼んでもらってオッケーっす!!」

 里穂の言葉に頷いた空は、目を輝かせて彼女の周囲をぐるぐると回り始めた。

「うっわー!! 本物のJKだ!! その制服めっちゃ可愛い!! 呼び方はそれでオッケー!!」

「新鮮な反応っす……!!」

 自分を見て感激している様子の空に、里穂は目を丸くしつつ……。

「あれ? ケッカさん、空さんは今、ここにいて大丈夫っすか?」

「櫻子さんのこと? 今は統治が行っとるけん大丈夫。あたし達と入れ違いでここに来る予定やね」

「そうだったっすね。その……櫻子さんは、うち兄のこと……」

 既に第一報を聞いている里穂の言葉の先を察したユカは、首を横に振った。

「『関係縁』が一度切れたあとは、特に進展なし。犯人は追ってるけど、警察からも特に連絡はないみたいやね」

「そうっすか……」

 肩を落とした里穂はそれ以上語らず、静かにお茶をすすった。すると、二人の間に割って入った空が「でも!!」と力強く言葉を続ける。

「トージさんがサクラコさんのこと好きなのはバレバレじゃん? だったら――!!」

「――空さん、そう上手くいかないのが『仙台支局』なんっすよ……!!」

 刹那、空の言葉を遮るように、里穂が重苦しいため息をついた。意外な反応に、空が今度は目を丸くして説明を求める。

「へ? リホちゃん、どゆこと?」

 キョトンとしている空へ、里穂は、自分の正面に座って視線をそらしているユカを見やり。

「そこにいるケッカさんは、政さんのスキスキ光線を10年間スルーし続けたツワモノっす!!」

 次の瞬間、空が盛大に目を見開いて、ユカを凝視した。

「マジ!? 全人類気付くアレをずっとガン無視ったってこと!?」


 全人類気付く、アレ。


 改めてそう言われると己の鈍感さに呆れるしかないが、それ以上に……今後、このネタで10年はいじられるんだろうなぁと、気分がゲンナリしてしまう。

 案の定、空の反応に気を良くした里穂が、首を縦に大きく動かした。

「そーーーーーーーなんっすよ!! 最近、政さんがやーーーーーーっと告白出来たからいいようなものを、もしも、もしもそれがなかったらと思うと……涙で前が見えないっす!!」

「えーーーーーーーーーーーーっ!! ムネさん、告ったの!? じゃあ、2人は付き合ってんじゃん!! 聞いてないんですけど!!」

 空が急激に距離を詰めてきたので、反射的に立ち上がったユカは首を何度も横に振った。

「い、いや、別に政宗とは付き合ってな――」

「マ!? ってことはユカちゃん、他に好きな人がいるってこと!?」

 刹那、衝立の向こうで何か大きなものが落ちたような鈍い音が聞こえた……ような気もするが、とりあえずそれは見えないのでスルーして。

 いつの間にか里穂の隣に移動していた空が「どうなの!? まさか、トージさん!?」と、食い入るように見つめるから。

 これ以上の沈黙はあらぬ誤解を招くと思ったので、ユカは再度、首を横に振った。

「ち、違って……!! あたしは、その……政宗のこと、そげな風に思ったことなかったけんが……!!」

「あ、そうなんだ。だよねー、ガン無視ってたんだもんね」

「そ、そうです、ね……ガン無視……」

 第三者から言われると、自分がとてもヒドいことをしていたような気になってしまう。少し萎縮したユカへ、空がしれっと見解を述べた。

「んじゃあさ、嫌いじゃないなら、とりあえず付き合っちゃえば?」

「いや、そげん軽く言われてもですね……」

 まるでコンビニに行くような軽さは、今のユカには持てない意識だ。即断することなど出来ずに視線を泳がせる彼女へ、空はピースサインを突き出して大きく頷く。

「恋は勢いで何とかなるっしょ。きっとそれでバックオーライだよ!!」

「ケッカオーライですかね……そもそも個人差があるというか、個人差しかないというか……里穂ちゃん達みたいに上手く付き合えるかどうか分からないというか……」

「嘘!? リホちゃんカレシいんの!?」

 空が驚きとともに里穂を見た。里穂もまた、これ以上ユカを煽り続けるのは得策ではないと判断したのか、素直に話を引き取ってくれる。

「いるっすよ。写真見るっすか?」

「マ!? 見せて見せて~!!」

 と、空は意気揚々と里穂のスマートフォンを覗き込み……画面に表示された仁義を見て、思わず、真顔になった。

「え。ヤバ。クッソイケメンなんですけど。は? こんなイケメン実在するわけ? は?」

「かたじけないっす」

 何に対する『かたじけない』なのかはよく分からないが、きっと里穂も特に深い意味はなく、語感だけで使っているのだろう。ユカは時間だけを気にしながら静観を決め込んだ。

 一方、すっかり興味が仁義へと移った空は、笑顔の里穂へ矢継ぎ早に問いかける。

「っていうか何このイケメン!! どこの人!? 何人!? 地球人!?」

「外国の要素が混じってるっすけど、地球生まれの日本人っす」

「マ!? ねぇもしかしてアタシとも話出来る!?」

「出来るっすよ。政さんかうち兄がいいって言ってくれたら、今度紹介するっす」

「紹介できんの!? えっ、どうしよ、日本語通じる!?」

「純日本人なのでノープロブレムっす!!」

 こう言ってピースサインを向ける里穂を、空はマジマジと見つめた後……。

「リホちゃんがカワイイ理由、分かった気がするなー」

 この言葉の端々に、彼女自身ではどうしようもな寂しさがにじみ出ているような気がして……ユカは何とも言えない気持ちになってしまう。

「へ?」

 幸いなことに里穂にははっきり聞こえていなかった様子で、彼女は間の抜けた声とともに空を見上げた。空は一度頭を振ると、すぐに先程のテンションを取り戻してピースサインを逆に向けて突き出す。

「何でもなーい。とりあえず、しばらくお世話になるってことでヨロっ!!」

「こちらこそ、よろしくお願いしますっす!!」

 こう言って笑顔を交換する2人を見つめながら……ユカは不意に、衝立の方を見た。

 向こう側では政宗や瑞希、華蓮が仕事をしている。透明な衝立ではないので、各々が何をしているのかは分からないけれど。

「全人類気付くアレ、か……」

 ポツリと呟いて、1人、肩をすくめた。

■newcomer greeting:新人のあいさつ回り、という感じです。スマホ越しでも対面させることが出来るなんて、便利……!! ありがとう伊達先生!!


 華蓮の本体をファッションで見抜く空、というのをやりたかったのです。勉強熱心な片倉さんは、今後、見た目だけではなく流行の最先端も追いかけながらコーディネートをしなければならないかもしれませんね……大変そうだ。

 そして柳井君。みんな慣れちゃってますけど、初見で見せられたらこんな反応になるのは致し方ないと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ