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エピソード5:approach operation②

 予定では19時頃開始だったはずの打ち合わせは、統治と櫻子が18時20分頃に到着出来たため、早めに始めることが出来た。

 ただ……。

「山本、説明してくれ」

 応接用のソファに座り、厳しい表情でユカを見る統治。一方、自席の椅子を引っ張ってきて、彼の斜め右に陣取っていたユカは、真顔でしっかり説明をした。

「川瀬さんに一時的な『親痕』になってもらったと。見て分からん?」

「分かっている。彼女は心愛の隣にいるし、目の前で佐藤がぶっ倒れているからな」

 統治はそう言うと、机の向かい側にあるソファで横になっている政宗を顎でしゃくった。

 あの後、政宗はヨタヨタしたまま回復できず……ヘロヘロの状態で横になっているのである。そして、空も晴れて政宗との『関係縁』が構築されたおかげで、『仙台支局』内に立ち入ることが出来るようになったのだ。

 どうせお前の差し金だろう、と、統治はユカを見やり、真顔で言葉を続ける。

「山本、知らないとは言わせないぞ。『親痕』との『関係縁』は、名杙の許可がなければ構築できないものだ」

「心愛ちゃんの許可がありまーす」

 平然と言い返すユカに、真顔の統治が更に語気を強めた。

「山本、いい加減にしろ。流石に看過できないぞ」

 流石にこれ以上、彼の怒りを増長するのはマズい。そう判断したユカは「ゴメン、ちょっと調子に乗った」と頭を下げつつ、顔をあげると、統治を真っ直ぐに見据える。

 咎められることも、始末書も……減給や『特級縁故』からの降格だって覚悟している。けれど、自分が酔狂でこんなことをしたわけではないことは、ちゃんと説明しなければならないから。

 そして、統治はきっと……こちらの言い分を聞いた上で、合理的に判断してくれるはずだ。利害関係だけでなく、理にかなっていて――勝算がある方についてくれる、そんな確信がある。

「統治だって分かっとることやろうけど、あたし達には戦力が足りとらん。にも関わらず、一番自由に動ける分町ママにも頼れない。だったら、川瀬さんをしっかり制御できる状態にして協力してもらった方が、合理的だと思う」

 ユカの言い分を聞いた統治は、冷めた眼差しで政宗を見つめる。

「佐藤は制御できていない様子だがな。逆に戦力を減らしかねない状況だ」

「でも、麻里子様は数時間で慣れるって言っとったよ」

「あの人と一緒にしてどうする。次元が違うだろうが」

「それは、そうやけど……」

 刹那、政宗が突っ伏したまま呻いた。

「ケッカ、統治、ヒドい……」

 流石にあの人と比較するのは、政宗が不憫に思えた。ユカは「とにかく」と話を戻すと、再び統治と相対する。

「4月の時みたいに奇をてらったことをせんと……対抗出来んと思ったと。政宗に関しては伊達先生から色々聞いとるけんが、2日以内に復活してもらうけん心配せんで」

「どういうことだ?」

「こっちの話。じゃあ統治、この『関係縁』……切る?」

 どうぞ、と、ユカが統治を試すような瞳で見据える。統治はしばし考え込んだ後、カーディガンのポケットに手を入れると……静かに、銀のペーパーナイフを取り出した。

「お兄様!?」

 刹那、空が「ヒッ!?」と声を漏らし、心愛の後ろに隠れる。統治はそんな2人の様子をしばし見つめた後……持ってたナイフを机上に置いた。そして、心愛……の後ろにいる空へ向けて一言。

「少しでも妙な動きがあれば、容赦しない」

 それはもう冷たい眼差しと共に放たれた言葉に、空はますます心愛の背中に身を潜めながら。

「ちょっとココアちゃんココアちゃん、お兄ちゃん怖すぎない!? ナイフ出したんですけど!? いっ、いっつもあんなに怖い人なわけ!?」

「そ、そんなこと……ない、と、思うけど……とりあえず、今のお兄様はいろいろあって大変だから、分かんないことあっても大人しくしてた方がいいわよ」

りょ(了解)

 端的に首肯した空は、愛想笑いとともに統治からゆるーく距離を取った。

 統治は視界の端で空の動きを観察しつつ……隣に座ったまま、ずっと話に参加出来ない櫻子を見つめ、頭を下げた。

「透名さん、騒がしくて申し訳ない」

「い、いえ……そこに、もうお一方いらっしゃる、ということ、ですよね?」

 オズオズと問いかけて虚空を指差す櫻子に、統治は一度頷いた。指を指された空が笑顔で手を振ると、すかさず統治が睨むので慌てて手を引っ込める。

「ココアちゃーん、マジでお兄ちゃん怖いんですけどー!?」

「だから大人しくしてたほうがいいって言ったのに……」

 言わんこっちゃない、と、表情で訴える心愛に、空は今度こそ完全に沈黙した。

 すると統治が、全員を見渡して口を開く。

「透名さんの現状も共有しておきたい。透名さんは……昨日、自分に何が起こったのか覚えていないそうだ」

 統治の言葉に、櫻子が神妙な面持ちで頷いた。

 念のため、実家の病院でも簡単な検査を受けたけれど、体のどこにも異常は見つけられず。

 ただ、彼女のスマートフォンには、昨日の午後12時45分頃――昼休み開始直後に、公衆電話からの着信記録が残っていた。恐らくこの電話で呼び出されたのだと思うが……彼女が誰と話をしていたのか、本人が覚えていないので特定は非常に難しい。警察には相談済みだが、判明するまでにとれだけ時間がかかるのか。

 記憶があれば、解決の手がかりを渡すことが出来るのに。どうしても、櫻子は自分自身が情けなく思えてしまう。

 彼女の鎮痛な様子を見たユカが、心配そうな眼差しを向けて問いかけた。

「櫻子さん、体の具合は……大丈夫なんですか?」

「はい。稀にふらつくこともありますけど、基本的には大丈夫です。ただ……昨日だけじゃなくて、ここ数ヶ月感の記憶が曖昧で……思い出せないこともあって……」

 こう言って悲しそうに目を伏せる彼女が、数ヶ月前の自分と重なった気がして。ユカは唇を噛みしめると、少しだけ、詳しく切り込んでいく。

「例えば、思い出そうとした時に、何か変化はありますか?」

「そう、ですね……頭痛を感じたり、目眩を感じたりします。何かが引っかかっているというか……命令系統が上手く噛み合っていないというか……」

 櫻子は必死に言葉で表現しようとするが、的確と思えなかったのだろう。「スイマセン」と力なく呟いて、肩を落としてしまった。

 これ以上、今の彼女に語らせるのは酷だ。そう思ったユカが、相手を統治へ切り替える。

「それで統治、櫻子さんは今後、どげんなると?」

「しばらく……少なくとも2週間程度は、仙台市内のビジネスホテルに宿泊してもらうことで了承してもらっている。仕事へはそこから車で向かってもらって、俺も時間があれば様子を見に行くつもりだ」

「了解。じゃあ、統治がおらん間の見張り番はどげんするつもりやったと? 名杙の……()()()()()()()が交代で張り込んでくれると?」

「それは……」

 ユカの厳しくもまっとうな指摘に、統治は思わず口をつぐんだ。

 仙台であれば人の目があるし、ここからもすぐに駆けつけることが出来るから、富谷の二の舞いにはならない。そう考えていたことは否定出来ない。

 一方で……例えば分町ママのように、物理的なことに囚われず、味方としてしっかりと見守ってくれる存在がいれば、そう思っていたことも事実だ。

 統治の態度に勝機を見たユカは、ここぞとばかりに意見をぶつける。

「そこが甘かったけんが、今回みたいなことになったっちゃろうもん。統治が24時間張り付くのは現実的じゃないし、ぶっちゃけ、今の名杙で信じられる人げな……悪いけど、あたしには統治と心愛ちゃん以外、おらんよ」

「……」

 あえて最後の単語を強調するユカに、統治は押し黙ることしか出来なかった。

「仮に統治がずっと一緒におるとしても、櫻子さんが気を遣うけんね。だったら……」

 ユカはそこまで言うと、心愛の後ろでビクビクしている空を見やり。

「川瀬さんに張り付いてもらうのが現実的やろ? その方が川瀬さんも嬉しいと思うし、言い訳も出来る」

「どういうことだ?」

 ユカの言葉に統治は疑問符を浮かべた。ユカは自分の中にある答えを確信に変えるべく、櫻子へ向けて問いかける。

「櫻子さん、瀬川翼さんっていう人に心あたりはありませんか?」

「瀬川さんですか? 富谷の病院でお世話になっている、医療関係の会社の営業の方ですけれど……」

 櫻子の言葉を聞いた政宗が、思わず体を起こした。反動でふらつきそうになったところをユカが引っ張り、何とか体制を整える。

「マジか……ここ、繋がるのかよ……!!」

「あたしも驚いた。ただ、ほら……『関係縁』ってこういうところ、あるやん?」

 目配せをして肩をすくめる2人に、統治と心愛もまた事態を察して、キョトンとしている櫻子を見やる。

「あ、あの、ユカちゃん、瀬川さんがどうかなさったんですか?」

「その瀬川さん、政宗の大学時代の知り合いで……そこにいる、川瀬空さんっていう女性とも縁がある人物なんです」

「そうなんですか……!!」

「川瀬さん、彼の様子を見るために、ちょくちょく富谷にいることがあるそうで……万が一、名杙に感づかれたとしても理由としては十分。彼女は櫻子さんではなく、仕事を頑張っている彼を見ているんです。『関係縁』っていう根拠もある。まぁ、政宗と繋がってる『関係縁』は……生前に会ったことがあるとか言って適当に誤魔化せばよか。必要なら……東では禁じ手やし確証はないけど、視えないようにすることも、不可能じゃなかと思う」

 ユカは先日、福岡で母親との『関係縁』を切った際、色々な人脈と悪知恵を駆使して、一時的に『関係縁』を視えなくする方法を実践することが出来た。

 そして、同じ理論の呪いを4月に実施した際、行方不明になった統治の『関係縁』を誰も追えなかったのだ。同じことが二度も通用するかどうかは分からないが……一時的でも名杙本家の『縁故』を欺くことは、決して、不可能なことではない。

「さて統治、あたしの提案以上に名案があるなら、今すぐ教えて」

「それは……」

 ユカの理屈に反論することは出来ず、統治は思わず黙り込んだ。もうひと押しだと内心ガッツポーズのユカは、統治をダメ押しすべく、心愛へと視線を移す。

「心愛ちゃんはどげん思う?」

「へっ!? 心愛は……えっと……」

 全員の注目を集めた心愛は、一瞬、萎縮して目を泳がせたけれど。

 視線の先にいた空が、口元に笑みを浮かべてピースサインを返してくれた。

 自分のことは自分で決めろ、と、ついさっき啖呵を切った手前、情けないところは見せられない。

 心愛は一度深呼吸をすると、前を見据えて言葉を続けた。

「心愛は……ケッカの案で櫻子さんを守りながら、犯人探しを一緒にやった方が、いいと、思う。心愛……こんなことする人、絶対に許さないって決めたから……!!」

「心愛……」

 統治がどこか心配そうな眼差しで心愛を見やる。心愛もまた統治を見つめ、自分の体験から得た思いをぶつけた。

「心愛も……桂樹さんに捕まった時、怖くて、名杙の中にいる人、みんな信じられないかもしれないって思った、けど……りっぴーや、分町ママ、お兄様……違う人の方が多いって、分かったから。それに、桂樹さんも……前、協力してくれた、からっ……!!」

 心愛は唇を噛み締めた後、改めて統治を見つめる。


 悔しい。

 今の自分を動かすのは、間違いなくこの感情だ。


「お兄様、名杙は……心愛達の生まれた家は、こんなひどい人たちばっかりじゃないって、心愛達で証明しなくちゃいけないと思うの。そうでしょう?」

「それは……ただ、心愛、川瀬さんのことは……怖く、ないのか?」

「え? 怖い?」

 刹那、思い切って問いかけた統治に、心愛は思わず目を丸くした。そして、統治の言葉で彼の心配事を察したユカが、苦笑いで「心愛ちゃん」と彼女に呼びかけて。

「統治、心愛ちゃんがずっと、名杙と関係ない『痕』と一緒におることで、不安にならないか、とか、辛くないか、とか……要するに心配なんじゃなかと?」

「へっ!?」

 ユカの言葉に心愛は間の抜けた声を出した後、真意を確認すべく統治を見やる。そして、彼が黙して語らないことを答えだと認識した瞬間……気恥ずかしくなって、視線をそらした。

 それを見ていた空が、スススと政宗へ近づいて。

「ねーねームネさん、あのお兄ちゃん、ココアちゃんに心配性ってこと?」

「要するにそういうことだな。統治は優しいお兄ちゃんだから」

「実は優しいトージさん……りょ」

 ソファの背もたれに体重を預けた政宗が、自分を睨む統治へヒラヒラと手を振って。

 ユカはそんな様子を見守りつつ、不安が残る櫻子へ視線を合わせ、一度、強く頷いた。

「もう二度と、同じ失敗は繰り返しません。勿論、櫻子さんが思い出せるなら、それに越したことはありませんが……でも、思い出そう思い出そうと意識すると、逆に難しいんじゃないかなって、思うんです。あたしにも似たようなことがあるので……もどかしい気持ちは、何となく分かるつもりです」

「ユカちゃん……」

「だから、あんまり自分を追い詰めないでくださいね。そういえば……『縁』が切れる前までの統治との関係がどうだったのかって、聞いてますか?」

「それは……」

 櫻子は一度、チラリと統治を見た後……小さく息を吐く。

「スマートフォンやパソコンの使い方を教えてくださっていた、と、伺いました。要するに私は……『縁』が切れる前も、名杙さんの恋人ではなかったんでしょうね」

「……」

 櫻子の言葉に、ユカは言いかけた言葉を飲み込んで……これでいいのか、と、統治を睨む。

 ユカからの視線に一度だけ頷いた統治は、掛け時計で時間を確認し、「そろそろ話をまとめたい」と口火を切った。

「俺と櫻子さんは、これからチェックインをしてくる。その後、夕食を食べに行くつもりなんだが……佐藤は無理をしないほうが良さそうだな」

「だな。悪い、俺は先に帰るわ。ケッカは……」

 政宗がソファに起き上がると、ユカはそんな彼を支えつつ、統治へ向けて意思を示す。

「あたしも一緒に帰るよ。流石に一人に出来んけんね」

 この言葉に、統治は「分かった」と頷いて。

「心愛はどうする?」

「へっ!? こ、心愛は……」

 まさか自分が誘われるなんて思っていなかったので、心愛はしばし目を丸くした後……。

「心愛も、か、帰ろうかな。明日、学校だし……」

 流石に今から、この2人と一緒に食事をする気分にはなれない。心愛の言葉に頷いた統治は、今後の動き方を告げた。

「分かった。なら、チェックインを済ませたら俺が全員を車で送る。透名さん、明日からの動きを夕食中に打ち合わせたい。申し訳ないが、ホテルの部屋で待っていてもらっても?」

「分かりました」

 荷物をまとめて頷いた櫻子を確認した統治は、次に、顔色が悪い責任者へと視線を移した。

「明日の動き方が決まり次第、佐藤に連絡をする。佐藤はそれを見て……人員配置を決めて、指示を出してくれ」

「りょ。」

「佐藤」

「わ、分かったって。俺に任せてくれるんだな」

「支局長は佐藤だから当然だ。だから、さっさと回復してくれ」

 そう言って視線をそらす彼に、政宗は苦笑いで頷いた。

 ユカVS統治、と思って書いていたのですが、統治には分が悪すぎたな……身内が足を引っ張りすぎた。

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