01 お供
『リヴァイス 57 若仙人と柔らかな懸念たち』の続きで、
『若仙人』サイリのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
こんにちは、イシン サイリです。
家族や友人に恵まれた穏やかな異世界生活を満喫しております。
僕自身は、少しでも自分に足りてない部分を補うべく前向きに自己鍛錬に励む日々。
そして、今一番不足しているのは、やはり基礎体力。
前回の討伐遠征でイリーシャさんにご迷惑をお掛けしたアレ、
固有スキルを封じられると貧弱な坊や丸出しになっちゃう問題。
僕に出来ることはただひとつ、
地道な体力底上げのみ。
というわけで現在、ナルンをお供に、我が家の周囲の野山を駆け回る日々。
我が家を取り囲む深い森はエルサニア大森林と呼ばれる、かなり危険な魔物の生息地。
それなりの熟練冒険者でも辿り着くのが困難なほどの奥地に位置する我が家。
敷地を取り囲んでいる守護結界の外に一歩でも出ると人外魔境。
って、それはちょっと大袈裟だけど、要するに結構な危険地帯なのですが、
いつの間にやらナルンがナワバリ整備してくれて、僕でもお散歩可能なほどの安全なお庭状態に。
さすがはナイトウルフ変異種、その強さ、半端無し。
実は、危険な魔物をまるっと淘汰した、のでは無く、ナルンがこの辺り一帯のボスとして君臨してくれたおかげで静かになった、が正解。
そんなわけで、ナルンをお供にすれば体力作りのトレッキングも至極安全。
プリナさん特製のうまうまお弁当を持って、今日もてくてく体力作り。
……
大事なのは、自分のペースで進むこと。
なんとなく心配げなナルンと共に、
けもの道ちっくなルートをマイペースで。
疲れたと言うより、カラダがあったまったくらいな感じ。
涼しげな小川のほとりで、そろそろ休憩、かな。
じっとこちらを見つめるナルン。
分かってますとも、小川の水よりいつものアレ、ですよね。
魔導保冷水筒に入れてきた我が家自慢の美味しいお水で喉を潤し、ほっと一息。
もちろんナルンも、愛用のお皿で美味しいお水をぺろぺろごくごく。
ナルンも、とっても満足げ。
美味しいね、ナルン。
基本、ネコ派の僕ですが、ナルンは別腹。
元々、わんこが苦手なのは、吠え声のせい。
わんわんでもバウバウでもキャンキャンでも、とにかく苦手。
で、ナルンですが、とにかく無口。
表情しぐさでちゃんと意思疎通は出来ておりますが、
ちょっと心配になるくらいの無口さん。
『通訳』してくれているフィナさんによれば、普通に良い子、とのことだけど、
ナイトウルフ変異種の普通というのがどれほどのものかは想像出来かねますので、
つまりは、アリシエラさんにお願いしている『通訳』魔導具の完成が楽しみなのです。
でも、いきなり饒舌に喋り出したらちょっと困っちゃうかも。
それじゃ、ちょっと早いけどお弁当、食べようか。
ぱたりぱたり
今の僕に出来るのは、表情や仕草、しっぽの様子で判断することくらいなのですが、なんだかしっぽの振りっぷりに迷いが……
それとも戻って、おうちでご飯食べる?
ぱたぱたぱた
ふむ、どうやらおうちご飯が食べたい、と。
じゃあ、プリナさんにオムパスタ、お願いしようか。
フリフリフリフリッ
了解、ナルン。
ふたりでプリナさんにオムパスタ、おねだりしようね。
オムパスタは、麺類が食べづらそうだったナルンのために、プリナさんがひと工夫してくれたお料理。
薄焼き卵でパスタを包んだひと口サイズのそれは、ナルンの大のお気に入り。
本当は僕が放り投げたのを空中でキャッチして食べるのが大好きなんだけど、
お行儀が悪いとの当然のご指摘により、その技は現在封印中。
今度多めに作ってもらって、誰も見ていないところで思いっきりオムパスタキャッチしたいな。
では、オムパスタ目指して、マイペースでマイホームへ出発!
ちょっと、ナルン、
後ろから押しちゃダメだって。