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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
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8. 隣に立っていたい

 胸の鼓動が相手に聞こえそうなくらいに早い。

 そのせいで、顔まで火照っている。

 唇を開きかけて、息を吸い込んだが言葉にならない。

 言葉にする前に喉の奥で詰まってしまって、うまく出てこない。

 切れ長の瞳がこちらを見つめている。

 頬が赤くなり、下を向いて深呼吸をして、彼の顔を見る。

 意を決して、彼に尋ねる。


「如月さん、あなたが私の婚約者ですか?」

「……私が書きましたが、あなたの婚約者ではありません。あなたの婚約者は、今から行くお茶屋さんで待っています」


 もう席がセッティングされていることを知る。

 人生なんてそんなものだということを嫌というほど、経験してきたのにどうしても淡い期待をしてしまう。

 その度にがっかりすることも多いが、いいこともあった。

 今回はいいことなのだろうか。

 断ることを前提に考えていたことを考えると、彼が婚約者でなくてよかった。

 しかし、彼が婚約者だと言った場合、私の答えは果たして「NO」だったのだろうか。

 第一印象は丁寧な人だと思った。

 第二印象で惹かれてしまった?

 待って待って、駅から歩いて会話をしただけで惹かれるとかある?

 冷静な感情が心に氷をひとつ落とす。

 水面には、氷が落ちて心を少し冷やしてくれる。

 

「平常心、平常心」


 火照った顔を手うちわで仰ぐ。


「何が平常心なのですか?」


 心の声が漏れてしまっていた。

 もっと話をしていたいというほどに彼の隣は心地がいい。

 日向ぼっこをしている猫みたいに隣で微睡んでいたくなる。 

 できれば目覚めたくない。


「あなたの隣は居心地がいいと感じたので、できれば平常心を保ち、隣に立っていたいと思いまして」

「隣に立っている……だけでいいのですか?」


 耳当たりのいい声に耳元で囁かれ、首から熱が上がってくるのを感じる。

 間違いなく、私はこの人に惹かれている。

 引力に逆らえないのと同じくらいに惹かれていくのを止められない。

 その先にあるのは、闇だとしても何もつかめなかったとしても目の前にいる人のことをもっと知りたいと思う。


「あなたのことをもっとよく知りたいと思っています」

「それはどんな風にでしょうか?」

「……わかりません。でもたった今抱きしめて頂いた心は私の物です!」


 顔が赤らむのは彼の番だった。


「やられました」


 片手で半分顔を隠し、片目でちらりとこちらを見る視線がなまめかしい。

 ああ、浴衣でなくてよかった。季節が冬でよかった。

 浴衣男子は浴衣を着ているだけで反則なのだ。反則チケットをたくさんもらい、早々に退場して頂かなくてはこちらの心臓がもたない。

 それ以上にその顔はレッドカードです!

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