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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
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6. 飛梅

 おみくじを引いて、拝殿の方に戻る形になる。

 その横には、木の柵に囲まれた大きな梅の木がある。

 看板には達筆な字で『飛梅』と書いてある。正面から見なかったら気がつかなかった。


「この梅……ってあの飛梅伝説の飛梅ですか?」

「そうです。あの飛梅ですよ。先ほどの大吉の和歌の梅です」


 二月の冷たい風が吹く中で真っ白な花が青い空に映える。

 大きな枝は太陽に向かって、まるで手を伸ばすかのように高い位置にある。

 その枝の一本一本にまで、白い花がまるで雪のようについている。

 人のざわめきも一瞬ストップしたように感じた。

 

「綺麗……」

「きれいですね」


 梅の感想を顔を見ながら言われただけなのに顔が赤らむ。

 顔をじっと見つめられてそう言われれば、誰だってそうなる。

 梅のことだ。梅と心の中で叫んでいるのに顔の熱さは隠せない。

 手のひらで顔を仰ぐ。


「くせのないまっすぐな綺麗な髪ですね。自分の色を変えたがる人も多いのにあなたは変えないのですね」


 金色が少し混じっている彼の髪を見た。

 ストレートヘアなのは同じなのに金色が混じるだけで印象が変わる。

 今日も相変わらずの黒のスーツ姿。コートが違うだけで印象はすごく変わる。

 

「チャンスがなかったのです。祖母といると髪を染めるのが悪いことのような気がしてきて、祖母の髪も真っ黒で……今よく考えたら、染めていたのかもしれませんね」


 祖母は大島紬の着物が一番のお気に入りだった。

 今日は着物をリメイクしたワンピースを着ている。

 落ち着いた色合いは、冬によく似合う。黒が貴重で赤の模様が所々に織り込まれている。

 

「柄合わせが大変なのよね」


 その昔、機織りをしていた祖母は、そんなことを話してくれた。

 一カ月に二反織りあげるのを目標にしていた。

 地道な作業で小さな丸い眼鏡をかけて、少しずつ少しずつ織り上げていく。

 その姿を見るのが大好きだった。

 

「おばあさまの着物ですね」

「趣味で手芸をやっている方にお願いをしました」

「お似合いです」

「ありがとうございます」


 褒め慣れていない身としては、手足を引っ込めて亀みたいに丸くなりたくなる。

 彼の和服姿を想像してみる。

 羽織姿を頭に思い浮かべてしまい、自然と顔が緩んでしまう。

 その和服姿と一緒に歩くと注目の的になりそうで、今日は普通の恰好でよかったと思う心とがっかりしている心がせめぎ合う。

 でもやはり見てみたかったかもしれない。

 注目の的になってもいいと思った心が勝ったところで、心の攻防戦は終わりを告げた。

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