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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
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4. 太鼓橋

 如月さんは、大きな鳥居の下をくぐる前に一礼をしている。横目で見ながら、慌ててマネをする。

 木々の緑、大きな池に架かる朱塗りの太鼓橋が見える。

 みんな思い思いに記念写真を撮っている。


「この橋は振り向かない方がいいでしょう」


 いろいろな風景を心に留めておきたくて、振り向いて後ろを見ようとすると止められた。

 如月さんの右手が私の背から右肩に回り、肩を掴まれる。

 ここまでがっちりとホールドされては、首が後ろに回らない。

 そこにロマンティックな要素は、何もなく、ただ後ろを振り向かせないためだけに肩を掴まれた気がする。


「ダメですよ。前を向いて真っすぐに過去は振り向かないで」


 不思議に思いながらも言われたとおりに最初の太鼓橋を渡りきる。

 真っすぐに伸びる二つ目の太鼓橋を歩いていると、立ち止まって記念撮影をしている団体様に出会った。


「立ち止まらないで行きましょう」


 耳元で囁かれる声にいいえと抗えるはずもなく、左端を使って渡りきる。

 三つ目のアーチ型の橋に差し掛かったときに背に回っていた手が離され、手のひらに熱を感じた。遠慮がちに指先だけをそっとつないでくれる。彼の顔を見ると、目を見て笑いかけてくれる。

 この手をどうしたらいいかわからないまま、途方に暮れる。振り切るわけにもいかなくて、必要なことだからつながれたような義務感も漂う。


「三つめはつまずかないように慎重に歩きましょう」

「何かいわれがあるのですか?」

「はい」


 すぐには教えてもらえなかったが、全部の太鼓橋を渡り切ったときに如月さんが立ち止まって説明をしてくれた。


「一つ目の橋は過去、二つ目は現在、三つ目は未来を現していると言われています」


 注意を受けたことをそれぞれに当てはめてみると、過去は振り向かないで、現在は立ち止まらない。未来はつまずかないとなる。


「帰りにこの道を使ったら、過去を振り返ることになりますよね?」

「帰りは橋を渡らないのです。別ルートを使います。それにもう帰り道は必要性なくなりましたが」

「その帰り道は必要性ないというのは……」


 背の高い彼の顔が近づく。質問は、私の唇に添えられた如月さんの人差し指で遮られてしまった。覗き込む瞳が近くて、二、三歩後ろに下がってしまった。つないでいた手も自然に離れる。


「扉が閉じる前に行きましょう」


 これ以上の質問は不要だというように背を向けられる。

 扉が閉じる? 何のことだろう。

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