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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
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2. 太宰府へ

 指定された場所は、太宰府天満宮の裏手にあるお茶屋さんが並ぶ一角を指している。

 その場所は、祖母と一緒に行ったことがある。

 梅の花が香る時期に一回だけ訪れた。 

 お茶屋さんで親子丼と梅が枝餅を食べたのを覚えている。

 祖母も湯気がほんのり立つお茶を飲みながら笑っていた。


「この辺だと聞いていたのにおかしいねぇ」


 と独り言を言っていた。

 今思うとこの手紙に書かれている場所を探していたのではないかと思う。

 一番奥のお茶屋さんのメイン通りに面していないような場所が地図には載っていた。

 こんな細い道を上がった先にお茶屋さんがあるのか疑問だ。

 電車に乗りながら、もう一度場所を確認をする。

 行先は太宰府駅で間違いないようだった。二日駅で乗り換え、早めに来た電車に乗って出発を待つ。


「隣いいですか?」


 他にたくさん空席があるのに、なぜ隣をわざわざ指定してくるのか不安になった。

 横目で顔を除き見ると、見たことがある顔がそこにあった。

 名前を聞いていなかったことに、今になって気がつくなんて失礼な話だ。

 婚約者というお話を聞いて、頭の中がその人でいっぱいになり、何も考えられなくなったのは事実だ。

 思い切って声をかける。


「この間は祖母のためにありがとうございました」

「夏屋敷家美弥様ですね。ようこそ太宰府へ」

「お名前を聞いていなかった気がして、先日は失礼致しました」

「いえいえ、こちらこそ。名乗っていなかったでしょうか? 申し訳ありません。如月朔斗と申します」


 不思議な既視感を感じた。

 どこかで聞いたことがあるような名前だ。

 小学校から始まり高校まで遡って、如月の名前を見つけようとしたが、記憶の海の中には彼の名前はなかった。


「八朔美弥です」

 

 相手にとってみたら、わかっている名前だが、改まっての自己紹介の場に自分の名前を名乗らないのは違う気がした。


「よろしくお願いします」


 お辞儀をしてから、まるでこの人が婚約者のようではないかと思って顔が赤くなった。

 よろしくという言葉は使うべきでなかった。

 こんなときにどんな言葉をチョイスすればよかったのか、もう祖母に聞くことはできない。

 少しの寂しさを感じながら、彼の顔を除き見る。

 真っ赤な顔をしているのは、自分だけではなかった。

 

「こちらこそよろしく」


 短くぶっきらぼうに聞こえるような響きの声に照れを感じた。




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