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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
12/16

12. 牽制

 如月が周りを見渡すと、人々は視線をさけるように小さく縮こまってしまう。

 視線をこちらに向けていた人々がいなくなるのを感じる。

 もう誰の視線も感じない。

 彼の瞳を見ると、目が赤く光っている。

 小さい頃に読んだ絵本の中に出てきた。妖の瞳の色と同じ色だ。

 太陽の光線の当たり具合だろうかと目をこする。

 もう一度、よく見ようと彼の瞳を覗き込む。

 それと同時に何かを恐れるかのように彼は袖で瞳を隠す。


「怒りで我を忘れました。もう少しで血の海にするところだった」


 この神社には相応しくない言葉。

 十五個の神楽鈴が周り一帯を支配するように鳴り響く。

 頭の中で鳴ったのか、実際に鳴り響いたのかわからない。

 澄んだ音色にさらに周りの人々は、耳を塞いでいる。

 こんなに心地のいい音色なのにどうしてだろう。

 誰かが神楽舞の稽古をしているのか、音色は強くなる一方だ。


「もう大丈夫です」


 後ろから抱きしめられて、我に返る。

 神楽鈴の音が鳴り止んだ。

 練習するような場所はどこにもないのに確かに音は響いていた。

 今は何もなかったかのように静まりかえっている。


「鈴の音がしませんでしたか?」

「神楽鈴ですね。懐かしい音色でした」


 頭の中で鳴り響いていた訳ではなく、実際に鳴り響いていた音だった。

 不躾で、失礼な視線とひそひそ話は止み、たくさん人がいるのに静かな沈黙が流れている。風が通っていくたびに木が枝を揺らし、葉っぱたちが音を奏で始める。

 後ろから抱きしめられた腕に手を置く。名残惜しさを感じながら、その手を振りほどくようにして、後ろを振り向く。

 彼の瞳を覗き込むと普通の黒い瞳をしている。

 見間違いだったことに安心感が戻ってくる。

 手水舎でひしゃくに水を汲み、手を洗う。山の上だからなのか、水が冷たく感じる。

 隣の拝殿の前に立つとたくさんの鈴が並んでいる。その鈴の下には子から始まり、亥で終わっている鈴が十二個並んでいる。

 

「自分の干支の鈴を鳴らして、次に本坪鈴を鳴らしてください」


 一本だけ本殿に近い位置に鈴があるのが見える。

 未年の鈴を鳴らし、本坪鈴を鳴らす。この音はさっき聞いた神楽鈴の音と同じだと気がついた。彼が何の鈴を鳴らすのか顔を見ていると、その視線に気がついてか、本坪鈴だけを鳴らす。


「奥の院へいきましょう」


 狐の置物が社の周りにたくさんいる。

 

「さらに奥へ行くのですか?」

「階段を上がってすぐですよ。ここの裏手の方です。いきましょう」


 裏手に何があるのかわからないが、急ぎ足になっているのは確かだ。

 急な階段を上るとそこには、大きな石を組み合わせてできた祠が見えた。

 手を合わせて、お参りしている人がいる。

 一組しか入れないような狭い空間、後ろに並んで待つ。

 前の人が出てきたのを確認してから、かがんで入る。下に続く階段が二段、降り立つと空間が外で見ていたときよりも大きく感じる。

 賽銭箱がないと思っていたら、拝殿幕をそっと上げたところにあり、その向こう側には無数のお狐様が並んでいた。小さくてたくさんのお狐様がこちらを向いている。 

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