11. 山の上の社
まっすぐに私を見る眼差しは何か言いたげだ。
唇が開きかけて、閉じた。瞳は閉じられ、何の感情も読めなくなる。
次に目が開いたときは、何も語られることはなく、唇が紡いだのは先を促す言葉だった。
「行きましょうか」
何か別の話題はないだろうか。
探してみるが何も言葉が見つからない。
「はい……」
最後の難所はかなりの急勾配である。
人は苦しくなると上を向いてしまう生き物だということを知る。
少しでも酸素が欲しい。
空は冬の透明な空気で満たされた澄んだ青色をしている。涙が出そうなくらいに美しい。
「道の途中で止まってしまうと決心が揺らぎますから、このまま進みます」
何を決心したのか聞いてみたいが、登山途中の荒い息遣いの中、何も語ることができない。
繋いだ手はそのままなので、自分本位に勝手に先に歩いて行かないで、ゆっくりとした足取りで合わせてくれるのがわかる。
少し低めのパンプスにしてきてよかった。
泥が跳ねるが、パンプスが汚れるのを気にしていられない。
自分の心臓の音がうるさいくらいに響いてくる。生きているんだと手首の脈打つ音が主張してくる。
一歩一歩、歩く度に天に近づいていっているような錯覚さえ起こる。
山の上の社にたどり着いた。
小さな鳥居をくぐると人がたくさんいて、こちらを見ている。
着物姿の人がたくさんいて、違和感を覚える。
元旦でも成人式でもない。今日という日に何かイベントごとがあったか、頭の中で考えてみるが、何も思い浮かばない。
洋服を着ている私達二人が浮いてしまっている。
注目を集めてしまっているのも仕方がない。
扇を持ち、視線はこちらに向いているのに口元を隠しながら隣の人としゃべっている女性が二人、お揃いの椿の着物姿で立っている。
あきらかに噂話をしているのがわかる。
人の話し声みたいな音は聞こえているのに、会話として何も聞こえてこないのは怖い。
悪意のような視線と話し声。
迷い込んではいけない場所に来てしまったような感じがする。
第六感が囁いている。今、この場所からすぐに引き返せと言っているのがわかる。
体中の鳥肌が立っている。プチ登山をしてきて、熱いはずの体が急に寒さを感じる。悪寒さえしてきた。
場所の空気に飲まれてしまったのか、気持ちが悪い。
「周りを見ないで俺だけを見て」
耳元に囁かれた声に顔を上げる。
「如月さん」
さっきまで気持ち悪かった這い上がってくるような鳥肌が止まった。
温かささえ感じる。
彼だけを見て落ち着いてくると、目に見えてほっとした顔をした。




