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太宰府あやかし専用ごはん処  作者: 月原 裕
10/16

10. お茶屋さんの通り

 お茶屋さんの通りは、たくさんの人で賑わっている。

 まだ寒いのに外のスペースが意外と人気が高い。

 小上がりにテーブルがセッティングされている。梅の花を楽しみながら、プチ花見ができる。

 今日は天気が良く、比較的暖かい日と言えるだろうが、北風がまだ吹き荒れる。

 温かいお味噌汁もすぐに冷めてしまいそうなほどだ。

 祖母も庭でお茶を飲むのが好きだった。

 冬の日も夏の日も庭に出て、テーブルと椅子をセッティングして熱いお茶を飲むというのが楽しみのひとつだった。


「お祖母ちゃん、寒いよ。中に入ろう」

「もう少しだけ、庭の移り変わりの様子を見るのもいいよ。ほらミモザが綺麗よ」


 祖母の声に応えるようにミモザの黄色の花が風に揺れて、葉を揺らす。

 家の中にいては、その様子はきっと気がつかなかったし、見えなかった。

 お茶がもう冷めてしまっていて、冷たくなっている。

 

「お祖母ちゃん、ショールと毛布持ってくるね。お茶も淹れなおすね」

「ありがとう」

 

 今になったらわかる。それは何と贅沢な時間だったのだろう。

 ゆっくりした時間の中で、会話をしながら庭を眺める。

 何気ない風景に祖母と暮らした時間が思い出される。

 

「この一番奥の階段を上ります」


 その声に現実に引き戻される。

 旗がかなりの数立っている。赤い幟に稲荷神社の文字が躍っている。

 

「こんな奥まで来たのは初めてです」


 階段の手前にトンネルが見えた。

 他の神社に繋がっているらしく、2.5kmの文字が見える。

 階段は勾配がきつく、一段一段が広いので一歩では歩けない。それに所々壊れている。

 階段がふいにきれて、まっすぐな道になったところに簡易の休憩所があった。

 ベンチがあり、座っている人がいた。


「休憩していかんかね?」


 笑顔の目が垂れ下がっていて、タオルで顔を拭いているおじいさんが座っていた。

 タオルをベンチに置くと、片手に飴を持って手招きをしている。

 飴をご馳走にならなければならないような義務感を感じて、足が勝手に動き出す。

 

「美弥、ダメです!」


 手をきつく握られて我に返る。

 目の前には、大きな蜘蛛の巣が張り巡らされていた。見たこともないほどの大きさ、まるで人ひとりを捕食しようというぐらいに大きい。

 これにぶつかっていたら、全身が蜘蛛の巣の粘り気のある糸に一日中悩まされることになっただろうと想像がいきつき、後ろに下がる。おじいさんの顔が歪む。


「土蜘蛛、下がれ!」

「ちっ、お手付きか。さっさと行け」


 笑顔はどこかに置いてきたかのような豹変ぶりに驚く。

 彼の知り合いだったことに驚き、土蜘蛛という苗字は珍しい。

 呑気なことを考えながら、おじいさんに会釈をすると、さらに階段を上へ向かって歩き出す。

 

「これから先は何があっても手招きされても困っている人がいても助けてはなりません」

「困っている人がいてもですか?」

「そうです。怖い思いをしたくなければ、絶対に手を離さないでください」


 手が汗ばんでいて、緊張が伝わりそうで手を離して上りたい。

 しかし、彼が許してくれそうになかった。

 これはプチ登山というべき道ではないだろうか。

 道はまっすぐに上を目指しているが、勾配はさらに険しくなり、階段もなくなっている場所さえもある。

 こんな奥まったところにお茶屋さんがあると聞いたことはない。

 あの地図だけでは迷っていたことだろう。

 まっすぐに伸びた道の先に石で作られて苔むした階段が姿を現す。

 階段の一番上に鳥居があるのが見えた。

 あの場所がゴールだと告げられている気がして、よかったという思いと彼とお別れだという思いが渦を巻いて、行きたいけど行きたくない気持ちになる。

 最後の難関に行きついたところで彼の足が止まった。

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