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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第五章 盗賊と海賊
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5.9.違う重圧

 確実に決まる攻撃だ。

 里川は頭を大きく後ろに振るい、上半身の全体重を灼灼岩金に預ける様にして振り下ろす。


 ギャチギッ!!

 しかしその刃はテールに届く一寸先で止められた。

 ぐっぐっと押し込んでみるが刃は動かず、灼灼岩金も不機嫌そうにギギと鳴っている。


 ゆっくりと顔を上げてみると、そこにはメルが刃を受け止めている姿が目に入った。

 両腕でしっかりと両刃剣・ナテイラを支え、里川の一撃を辛うじて受け止めている。

 衝撃で膝をついてしまったが、歯を食いしばって何とか耐える。


 これ程にまで小さい人間の、それも女が自分の一撃を受け止めた。

 その事実に少なからず衝撃を受け、恨みの感情が一瞬だけ霧散する。

 二人にかかる重圧が薄れ、体が軽くなった。

 これを逃す手はない。


「……ぐっ、テール!」

「! やぁ!!」


 痺れている両手を支えながら、メルはテールを呼んだ。

 その意味をすぐに理解したテールは持っていた剣をメルの脇腹すれすれから突き出し、里川を貫こうと腕を伸ばす。

 見え透いた攻撃だったため、顔を上げて視界に映るすべてを把握していた里川は危なげなく避けることに成功した。

 しかし、後ろから風を切る音が聞こえた為、即座に灼灼岩金を垂直に立て、左手で峰を支える。


 ギャヂャンッ!!

 遠心力を乗せ切った最高の斬撃が繰り出された。

 分厚い薙刀の刃も相まってその火力は絶大であり、衝撃をある程度予想していた里川でも吹き飛ばされてしまう。

 横回転で何とか立て直したが、既にレミは二人を庇うように立ちはだかっていた。

 これでは仕切り直しだ。


 しかし劣勢なのに変わりはない。

 先ほどの氷魔法で一度は溶岩を冷やすことができたが、既に新しい溶岩が出てきて道を塞いでいた。

 やはり予備動作をせずとも魔法は使えるようだ。


「ごめんね二人とも!」

「だ、大丈夫です……!」

「メル、本当に大丈夫?」

「ちょっと腕が……」


 メルの腕は震えていた。

 一撃を防いだだけだったが、それほどのダメージが蓄積されていたのだ。

 逆によくあの一撃を耐え凌ぐことができたと褒めるべきだろう。

 今はそのような時間はないが。


 今度は絶対に目を放さないように里川を睨む。

 回転は基本姿勢を取り直すのに非常に便利な行動なのだが、今はそれが後手に回るようだ。

 それが分かったのであればもう同じ轍は踏まない。

 一つ息を吐いて集中し、今回の勝利条件を頭の中に思い浮かべる。


 援軍の到着までの防衛。

 この騒ぎはスゥの能力で既に向こうに伝わっているはずだ。

 木幕が侍を選出し、こちらに寄越してくれたのであれば勝機は見える。

 自分の力ではどうしようもないのだから、これに期待するしかなかった。


「メルちゃん、まだいける?」

「今は無理かもです……」

「今度は受けるんじゃなくて往なしてね。テール君は回避に専念して」

「わ、分かりました。それと、あの人の武器、凄い恨みを抱えているみたいです」

「……ん? まぁそれはなんとなく分かったけど」


 そういえば、辻間以外にはテールが武器の言葉を聞けるということを教えていなかった。

 辻間には話していたが、どうやら彼らには話していなかったらしい。

 今から説明するのは無理だったが、レミは里川の抱いている感情を剣を通して理解していたようだ。


 兎にも角にも、今は耐えなければならない。

 里川の身体能力は高く、吹き飛ばされてもすぐに立て直していた。

 首を捻ってポキポキと音を鳴らし、先ほどの衝撃が残っている腕を軽く振るって構え直す。

 即座に重圧が襲ってきたが、先ほどより軽く感じられた。

 こちらが慣れただけなのかもしれないが、これで動きやすくなる。


 レミは前に立ち、メルは痺れている腕を庇いながら目線だけは里川に向けていた。

 テールは指示を聞いて少し後ろに引いている。

 回避に専念するよりかは、攻撃が当たらない間合いに入るのがいいはずだ。


 そこで少し気になったことがある。

 あれだけの魔法を使うことができるのに、どうして彼は魔法で仕留めてこないのだろうか、と。

 執着に武器で仕留めようとしている。

 あれだけの魔法の技量を持ちながら武器で切りかかってくるのはなんだか理解ができなかった。

 彼は魔法使いではないのだろうか?


 ズゥンッ……!!

 強烈な重圧が、後方から襲ってきた。

 だがそれはこちらに向けられているものではないため、すぐに振り返ってその存在を目視すことができた。

 里川も、レミ、メルも一時的に戦闘を中断し、その重圧を放っている存在を視界の中に納める。


 片側だけかき上げている髪は黒く、とても硬そうな髪質だ。

 俯きかげんにゆらゆらと歩いてきている彼の目は鋭く、ギラリと光った。

 不敵な笑みを浮かべながら歩き、片手には真っ赤に燃えている日本刀が握られている。

 赤と黒を基調とした和服も燃えているのだが、どうしたことか焼け爛れるということはない。

 羽織だけは長年愛用しているのか少し古く、大きく口を広げている袖の先や半分より下は裂けたり破れたりしていた。


 里川とは違う不気味さを携えた男は、顔を上げてニカッと笑った。


「ははぁ……! 久しぶりだぁ……地面を、踏みしめるのはぁ……」

「善さん!! なんて人を呼び出してるんですか馬鹿ああああああ!!」


 レミの悲痛な声が、その場に木霊した。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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