4.8.屋根の上
リヴァスプロ王国冒険者ギルドの屋根の上。
高い建物というだけあって遮るものが少なく、風がとても強い。
それを心地よく感じながら胡坐をして座っている人物の隣りに、テールとメルは絶対に落ちないように屋根にべったりとくっついて建造物の棟を掴んでいた。
どうしてこんな状況になっているのか、体験している本人でも分かっていない。
ギルドの隠し通路に隠れていた時、急に浮遊感が襲ってきたが声を上げる前にここに飛ばされていた。
とんでもなく高い建物の上にいるということに気付いてさすがに叫び声を上げたが、その声を聞いた人物は一人としていないだろう。
こんな状況の中でも唯一理解していることは、今ここにいる仙人の仲間の一人がここに自分たちを連れてきたということ。
彼は顔を隠して風を浴びている。
一度会ったことがあるが、初めて会った時は恐怖しか感じなかった。
今はそのなりを完全に抑えており、普通の人と何ら変わりない。
「あ、あのー……」
「おっ。あのディネットとかいう奴、ようやく出てきたみたいだね」
「あのー……仙人のお仲間さん……ですよね?」
「そうだよ、テール君にメルさん。初めましてではないけど、挨拶はしておこうかなぁ。これから一緒に行動することになるだろうし」
そう言って、彼は顔を隠している布を取った。
そこから現れたのは、声に似あった優しい表情の青年だ。
優男に見える彼の体は細く、色も白い。
優しい顔つきだが、目だけはとても鋭かった。
彼は笑顔を作って軽く手を振る。
「改めまして、僕は西行桜。よろしくね、僕たち魂を解放してくれる救世主さん」
「そ、そんな大層なものでは……」
「なぁに言ってんのさ。僕たちにとっては本当に救世主なんだ。だから早く沖田川さんから研ぎを学んでよねー?」
「努力します……」
ツンツンと頭を触って、最後にはわしゃわしゃと撫でくりまわされる。
最初に出会った時とはまったく性格が違うような気がするが、これが本当の人格なのだろう。
しかし西行は何処からで出てきたのだろうか?
隠し通路に隠れていた時は暗かったのでさすがに見えなかったし、そもそもどうやってここに二人を連れてきたのかが分からない。
本当に突然、ここに放り投げられただけなのだ。
「すすすいません西行さん! ででで、できれば、こっここから降ろしていただけると! 大変たす、助かるのですけど!!」
今まで静かだったメルがようやく声を上げた。
どうやら高すぎる所はあまり得意ではないらしい。
「いやぁ、しばらくはここでいいかなって」
「なんでええええ!」
「だって、君たちを探している人まだまだいっぱい近くにいるし」
「えっ?」
テールは西行と同じ場所に上って、下を覗いてみる。
一体どこにそんな人物がいるか分からなかったが、西行が指を指してくれたのですぐに把握することができた。
確かにディネットの指示に従ってばたばたと走り回っている人物が数名いる。
他の場所にも展開しているようで、ギルドの周辺は包囲され始めているようだ。
確かにこの状況であれば、下に降りるのは止めておいた方がいいだろう。
メルには悪いが、もう少しここで耐えてもらわなければならなさそうだ。
であれば、ここで西行から話を聞いておこう。
「西行さん、気になることを幾つか聞いてもいいですか?」
「僕で分かることであれば」
「まず……どうやって僕たちをここに?」
「それは僕の奇術だね。ほら」
西行は指を立てて黒い空間を二つ作り出した。
一つに手を入れると、もう一つの方から手が出てくる。
「わわっ!?」
「奇術、影壁。この世界ではわーぷとかいうんだっけ?」
「て、て……転移魔法……?」
「あ、それそれ」
ポンと手を叩いて事も無げに言うが、その魔法はとんでもない代物である。
今は魔法陣がなければ使えない魔法。
だというのに彼はそれを一人の魔力だけで使い、自由に出し入れしている。
一度使っても疲れた様子は一切なく、まだ全然余裕そうな顔をしていた。
西行の見せてくれた転移魔法は真っ黒で不気味ではあるが、本質は変わらない。
何処にでも移動することができ、更には人も移動させられる。
これ程にまで有能な技能もないだろう。
「凄いですね……」
「僕よりすごい奇術持ってる奴は結構いるよ。その中でも槙田様は本当に素晴らしい奇術をお持ちだ! うん!」
「は、はぁ」
様と付けているので、西行の主か位の高い人物であることは間違いなさそうだ。
仙人が持っている魂の中に居る人物なのだろうか。
なんだか話が逸れそうな気がしたので、テールは次の質問を投げかける。
これが一番分からない点だ。
「えっと、仙人さんはどうして僕たちをこっちに戻したんですか? 狙われるって分かってたんですよね?」
「ああ、そのことね」
口ぶりからして、その理由を西行は知っているようだ。
であれば話は早い。
隠すことでもない、と西行はすぐにその理由を教えてくれた。
「代償だよ」




