4.7.二人はどこだ
入って来て早々、ディネットはドーレッグに問いかける。
「あの二人はどこに行った?」
「二人というのは儂に勝って仙人様の所に行く権利を得たあの二人のことか?」
「そうだ」
「さっき話をしに来たが、もうギルドを出ていったぞ」
書類仕事を終わらせたふりをして、紙束を持ち上げてトントンと整える。
とりあえずディネットを見ないようにしながら、声をかけてくるのを待った。
人を騙す時は、とにかく平常心であることが肝要だ。
目線を動かしてはいけない。
とにかくいつも通りにやり過ごす。
そのことを念頭に起きつつ、先ほど二人を隠した隠し通路を見ないように心がけた。
「どこに行くかとか、なんか聞いていないか?」
「プライベートに口を挟むほど親しくはない」
「何を聞いた?」
「その場にいたんだから、あの二人が儂に伝えたことはお前も聞いていたはずだろ?」
「もう一度聞く、何を聞いた」
「はぁ……」
その態度に若干イライラしてため息が出る。
商会の人間だか何だか知らないが、ディネットは年上を敬うという心得が欠如していた。
しかし、切羽詰まっている状況なので口調が鋭くなってしまっているのだろう。
やはりこいつはあの二人に危害を加えるつもりなのだな、と理解することができた。
であれば尚更渡すわけにはいかないだろう。
居場所を悟られることすら避けなければならない。
だがここで回答を渋るというのは不自然だ。
ディネットもレミから聞いた話を知っているはずなので、ここは正直に話すことにした。
「レミさんが俺にこの国を出ていくから、よろしく言っておいてくれって話だった。覚えてくれていたとは思わなかったからまぁ嬉しかったねぇ」
「それで?」
「それでって……いや、それだけだが」
「他には」
「特に何もない。強いて言うならこれから頑張れよって背中を押しただけだ」
そこまで話して、ドーレッグは失敗したと勘づいた。
だが顔に表すことだけはしない。
眉を顰めて書類とにらめっこするふりをする。
「ドーレッグ。お前、二人が仙人と一緒に同行することを知っているな?」
「……そういう話は聞いたが」
ディネットは、あの場所ですべての話を聞いていた。
レミがドーレッグに旅立つことを伝えておいてくれと言ったことも、知っているはずである。
あの二人が、ドーレッグに仙人と共に旅立つということを、言わないはずがないということも知っていた。
ディネットは商会と仙人の関係性を知っているドーレッグが、この話を聞いたらどう行動するかはなんとなく分かっていた。
テールとメルは説明していなかったが、レミはドーレッグが色々工面してくれるということも話している。
その事からディネットは彼が二人を匿うはずだと確信していたのだ。
「二人を何処にやった」
明らかな敵意。
これだけでディネットが二人を狙っているということは明白となった。
分かり切っていた話ではあるが、ここまで表に出されたのであればこちらも黙っているわけにはいかない。
二人はまだ来ていないと言えば何となかったかもしれないが、老いたせいか頭の回転が悪かったようだ。
しかしもうどうにもならない。
であれば、こちらも腹をくくるというもの。
「二人に何をするつもりだ」
今までの話を聞いていても、ディネットからは明らかに動揺の感情が燻っていたように思える。
焦っているのだということは分かっているが、こうして真正面から問われると身構えてしまうらしい。
自分の発言もマズかったか、とディネットは顔を一瞬しかめて舌打ちをした。
「お前には関係ない」
「いや、ある。儂は冒険者のトップであり、彼らを守る義務がある。だから模擬戦をして実力をつけてやるし、知識も付けさせる。身の丈に合わない依頼も受けさせん。もし儂から話を聞きたいのであれば、しっかり彼らに会いたい理由を話せ。それが理にかなっているのであれば探すのを協力しよう」
言えるはずがない。
大方、合流して宿に戻るまでの間ずっと付け回すのだろう。
逃げられてしまっては仕留める機会を失いかねないからだ。
もうこっちが二人を匿っていることはバレているが、体裁上“探すのを協力する”という風に発言している。
気休め程度にしかならないが、それに指摘してくるようであればディネットの足を掬えるかもしれない。
さぁどうする、とドーレッグは彼を睨む。
すぐに答えが出てこない以上傍から見ても何かよからぬことを考えているのは明白だ。
難しい顔をしながら貧乏ゆすりをしている。
この状況に苛立っているようだ。
答えを待っていると、ディネットが動いた。
バッと走り出した彼は隠し通路のある本棚をガッと掴んだ。
「!?」
「隠し事がないなら見せてもらおう」
なぜその場所を知っているのかはさておき、すべての話を無視して強行的な行動をとったディネットにドーレッグは後れを取ってしまった。
本棚をグッと引き、横にスライドさせる。
そこには下に続く暗い階段があった。
明るい部屋はその下を照らしてくれるため、奥までしっかりと見ることができる。
だが、そこには誰も居なかった。
階段の一番下には、ここの脱出口から他の人間が入ってこないように鍵のかかった扉が設置されている。
注意深く見てみるが、ディネットが見る限り誰かが扉を開けたという形跡は一切なかった。
もしここの脱出口から逃げていたのであれば、外に控えさせている商会の兵士が捕らえているはず。
わざわざそこに兵士を配置させてからここに来たのだ。
今も連絡がないので、いるとすればこの中だと思ったのだが……どうやら外れだったらしい。
「……チッ」
「何故貴様が隠し扉の存在を知っている」
「用は済んだ」
「おい!」
ディネットはそう言い残すと、隠し扉を閉じることもせず、さらに入ってきた扉も閉めることなく立ち去ってしまった。
当てが外れたのもそうだが、これ以上話を聞いても答えてくれなさそうなドーレッグから思惑を当てられるのを恐れた為、即座に退出したのだ。
怒気を含んだ足音が遠ざかっていく。
やれやれと頭を掻き一安心するドーレッグだったが、逆に不安が襲ってきた。
「……いや待て。違う違うどこ行ったあいつら……!」




