表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第三章 仙人たちとの出会い
68/422

3.24.覚悟


 テールの言葉を聞いて全員が固まった。

 言い方を変えれば、確かにそういうことになる。

 テールにしか頼めないことではあるが、それを強要するということはできそうになかった。


 人との関わりを極力避け続けていた彼らは、配慮がまったくできていなかったと深く反省する。

 だが待ち焦がれていた死をみすみす手放したくはなかった。

 とはいえ言葉が出てこない。

 自分たちを殺してくれるように頼むのは、テールの言葉を聞いた後の彼らには到底できなかった。


 実際にその手で殺すわけではない。

 だが、それと同じことをするのだ。

 自分が大好きな研ぎ仕事を殺人の道具にはしたくないというテールの思いは、同じ研ぎ師である沖田川にはよく分かった。

 分かってしまったからこそ、もう口を出すことはできない。


「……て、テール……」

「ご、ごめんなさい……沖田川さん。僕は人を殺したくはないんです……」

「む……ぅぅ……。そう、か……。すまんかったのぉ」


 ガックシと肩を落とした沖田川は、自分の配慮のなさに呆れながら縁側に腰を掛けた。

 腰から棒を抜き、膝に置く。

 レミも悲しそうな笑顔を最後に見せた後、ポンッとテールの肩を叩いて木幕の隣りに戻っていった。


 重い空気が流れる。

 断られることを前提としていなかったため、そのショックは彼らにとって大きかったようだ。

 しかし木幕は表情を全く変えなかった。

 この結果に何とも思っていないようである。


 そこで、声が聞こえてきた。


「おいおい、なんだこりゃあ。お通夜かよ。どうしたんだぁ?」

「え?」

「えっ?」

「あ、よぉ! ちょっとぶりだなお前ら!」

「「ツジさん!?」」


 重たい空気をぶっ壊すひょうひょうとした口調で登場したのは、先日リヴァスプロ王国の前で別れたツジであった。

 予想していなかった人物の登場につい驚きの声を上げる。


 彼は再会を喜ぶようにして二人に駆け寄り、頭をがっしがっしと撫でまわした。

 しかしその後、周囲の空気を感じ取って首を傾げる。

 にやにやとした様子で、近くにいた沖田川に顔を向けた。


「へへへ、爺ちゃんなんかやったなぁ?」

「妙なところで心を読むのではない。……はぁ、テールが儂らを成仏させてくれる鍵じゃ。しかし、人は殺したくないから、協力はできぬらしい」

「へぇ~!!!! おいお前凄い奴だったんだなぁ!! はっはっはっは!!」

「ど、どうも……」

「でも馬鹿だな~お前」

「えっ」


 褒めたり呆れたりとコロコロ変わる口調と表情に戸惑いを隠せない。

 一歩引くと彼はズイッと顔を近づけてくる。

 下から覗き込むように腰を折る姿は何だが板についていた。


 しかし不気味だ。

 顔は近いしぼさぼさの髪の毛が顔に少し当たってくすぐったい。

 睨みを利かせたまま、彼は口を開く。


「あのなぁ、テール。お前人殺したくないって旅舐めてんのか」

「えっえっ」

「旅してりゃあ襲ってくる獣に会うな? 会うよな?」

「あ、会います」

「んじゃあ襲ってくる魔物にも会うだろ? 経験しているはずだけど?」

「た、確かに会いましたけど……」

「じゃあ聞くがよ、襲ってくるが人間だったら殺さねぇのか? 人だから殺さねぇのか?」

「えっ……と……」


 的確に痛いところを突いてくるツジの言葉にテールはたじろいだ。

 人を殺してしまうのは冒険者を目指しているのであれば、誰もが通る可能性のある道。

 旅をしていれば盗賊に会うこともある。

 そういう時逃げるだけというのは難しい場合もあるのだ。


 その時だけは身を守るために戦わなければならない。

 急所を狙わずに戦える自信はあるか、と聞かれると『ない』と自信を持って言える。

 不慮の事故でもなんでも人を意図的に傷つけること自体がタブーになっているのかもしれない。


「でっ、でも……それとこれとは違います。襲ってくるのであれば僕も抵抗しますよ。でも……沖田川さんやレミさんみたいに……死を望んでいる人を手に掛けるのは……僕には……」

「あっはぁ~そういうことか。そりゃ悪い、どうやら状況をあんまり理解していなかったようだ。おい! 爺さんもうちょっと詳しく説明しろよ!」

「すまんのぉ」

「ったく……。んじゃ話を一回変えよう」


 パンッと手を叩いて、ツジはその場にずかっと座った。

 人差し指をテールに向けて、また話し出す。


「お前、六百年生きている人間ってどう思う?」

「どうって……」

「それ、人間だと思うか?」


 ツジの冷たい言葉が背筋を凍らせる。

 人は百年も生きられない。

 だが他の種族であればその限りではないが……少なくとも人間は短命だ。

 そう考えると、確かに人間とは言い難いかもしれない。


 死なず、痛みを知らず、その場に居続ける仙人。

 もしそれが自分だったら。

 そこまで考えたところで、再びツジが口を開く。


「俺らはよ、確かに死にたい。このまま生き続けると本当に化け物になりかねねぇんだ。人の心がまだある内に、人として死にてぇんだよ」

「“俺ら”……?」

「ああ。そうだ」


 ツジは自分の頭に手をやった。

 その瞬間、ベギョッという音を立てて首を変な方向へを回してへし折る。

 だがすぐにゴギュッと音を立てて戻った。


 その光景を見てひどく驚いたが、彼はぱきぽきと首を鳴らして調子を確かめる。

 軽くトントンと首を叩いて、ニカッと笑う。


「俺も呪われてんだよ。まぁ俺は魂だけなんだけどな。自傷する場合はあいつに負荷はかからねぇ。だがこうして意識はある。木幕やレミちゃんと同じように、六百年生きて死ぬことができない身なんだよ」

「……」

「んで、俺らを人として殺してくれんのはお前だけなんだ。魂だけの俺らはまだ大丈夫だがよ……。肉体のある木幕とレミちゃん、スゥちゃんはマジでやべぇんだ」


 近くにいたスゥはキョトンとした様子で首を傾げる。

 一見普通の可愛らしい男の子にしか見えなかった。

 だがレミの怪力は、人としての何かを失い始めている証拠なのかもしれない。


 もしその力が暴走すればどうなるか。

 この世界最強と謳われる人物が人ではなくなれば、誰も止められるものはいない。

 下手をすれば世界が滅ぶ可能性がある。

 いや、そうなる可能性の方が高かった。


「言い方を変えよう、テール。よく聞け。木幕、レミちゃん、スゥちゃんの暴走を止められんのは、お前だけなんだよ」

「……僕だけ……」

「ま、それでも嫌だってんなら、もう俺から言えることはねぇ。あとはお前が決めな」


 一歩離れて座った状態で、ツジは拳をテールの胸にぶつけた。

 期待されているような、次の答え次第で見切りを付けられるような、そんな思いが込められている気がする。


 それから長い沈黙が流れた。

 テールは自分の手を見てずっと何かを考えている。

 これで正しいのか、これこそがこの世界にとって正しい事なのか。

 神様はどうしてこんな力を自分に託したのか問い続ける。


 剣術スキルが欲しいというだけで研ぎに集中していた初めとは違う。

 今はこのスキルに誇りを持っている。

 その力を大手を振るって使う時が、こんなところだとは思ってもみなかった。


 力が暴走する前に、彼らを殺す。

 理由は定かではないが武器を研げば彼らの魂は解放されるらしい。

 それは肉体を有する三人であっても同じだろう。


 もしかしたら武器を研ぐことが呪いの解除方法なのかもしれない。

 呪われているから長くを生き続け、苦しみ続けている。

 そんな彼らを解放してあげられるのは自分だけ。


 長く静かな空気が流れていたが、ようやくその沈黙をテールが破る。


「……ツジさん」

「なんだ」

「……僕にできますか?」

「何度でも言ってやる。お前にしか、できねぇんだ」


 彼らの苦しみを、痛みを、暴走を解放してあげられるのは、テールだけ。

 ツジの言葉は鋭く、深く心の奥に突き刺さった。


 その瞬間、テールの“意思”が深い水の底に落ちる。

 見ていた手をぎゅっと握り、ツジの目を見た。


「……僕にしかできないんだったら、やるしかない。ツジさん、僕はやります! 皆さんの呪いを……解きます……!」

「よっしゃよく言ったテール!!」

「うわあああああ!?」


 覚悟を決めた瞬間、ツジはテールを持ち上げて振り回しながら頭を撫でくりまわした。

 さっきより強いので少し頭が痛いが、それによって先ほどの張りつめていた空気が一気に緩んだようだ。


 沖田川とレミもほっと胸をなでおろし、苦笑いして顔を見合わせた。

 こういうとき、頭の悪い奴はなんとも素晴らしい答えを導き出してくれる。

 彼がいてくれてよかったと、心底感謝した。


「っしゃあああ! おっしゃ木幕! これで旅ができるなぁ! 昔みたいにやろうぜ!」

「フッ」

「とはいえ、今の肉体で一番ヤバいのはお前だ木幕。研いでもらいな」

「断る」


 ピタッとツジの動きが止まる。

 その言葉にレミと沖田川もバッと彼の方を向いた。

 ツジは油の差さっていない機械の様な動きで、何を言っているのか心底理解できない顔で木幕を見た。


「……何だって?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ