3.12.リヴァスプロ王国
テール一行は二日間の徒歩移動でようやくリヴァスプロ王国の城壁を視界に捉えることができていた。
長い道のりだったがこれでようやく休むことができると、テールはひどく安心する。
メルとツジは旅慣れているらしいのであまり疲弊はしていないようだ。
そんな彼らを羨ましく思いながら、リヴァスプロ王国に入国する。
だがその前に入国手続きがあるらしく、それを行うために長蛇の列が作られていた。
流れは良いようだが商人の持って来ている物資を検品する作業で多くの時間を取られているらしい。
三人が国の中に入る為には相当長い時間待たなければならなさそうだ。
「ど、どれくらい待てばいいのかな……」
「ずいぶんかかりそうだね」
「そりゃそうさ。なんせ……クックック、仙人がいるっていう国だぜ? 最強と謳われる武人! 生ける伝説! 冒険者の目指す最強を有している男! そりゃあ一目見ようと来る奴がいるんだから、そいつらに物を売る商人も自ずと集まるって訳さ」
ツジの話を聞いて、それもそうかと二人は納得する。
人が増えれば物流の流れが多くなるのは必然だ。
それによって数多くの商人が流れ込んでくるのも普通である。
それ程にまでこのリヴァスプロ王国は発展し続けているらしい。
国の外からでも中の活気が伝わってきた。
自分たちが今までいたキュリアル王国とは何もかも違う。
人も多い、城壁も多く、兵士の数も、武器も、家屋の豪華さも今まで見てきた物とは何一つ違って見える。
一つ隣りの国だというのに、これ程にまで違いがあるのか、とただ純粋に驚いた。
「これだけ人が多ければ……国の守りも強そうね……」
「確かに……」
「強そう、ね。まぁ他の所に比べればまだましって感じかなぁ?」
「と、いうと?」
「数うちゃ当たるって感じで構成されてる兵士共だ。個々の実力がばっらばら。育て手も碌でもねぇ奴ばっかだぜ?」
「そうなんですか? でも見たところよく訓練されているように見えますけど……」
「見てくれなんて誰だって偽ることができる。ま、俺からしちゃあまだまだ雑兵ってところだね」
ツジほどの実力があるものであれば、そう思うのは仕方ない事だろう。
しかしメルから見れば統率の取れた良い兵士だという印象を受ける。
警備もしっかりしているし、数も多いので何かあったとしてもすぐに対応してくれるはずだ。
やはり、ツジを基準にして物事を比べてはいけなさそうである。
彼を基準にすると、どんなに強い人物でも弱いと感じてしまいそうだ。
「あっ。そういえばお前ら、あれは持ってんのか?」
「あれ……といういと、身分証明書ですか?」
「そうそう。それがないと結構面倒でな」
「私はあります。テールは?」
「……あー……」
テールはすぐにバッグの中を探ってはみるが、そんな物をこの中に入れた記憶が一切ない。
無いと分かっていて探ってみるが、やはり何も出てこなかった。
苦笑いをしながら二人の方を見る。
メルはどうしようかと頭を悩ませているようだったが、ツジは違った。
「お、そうか。んじゃこれ持ってけ」
そう言って、ツジはテールに木札を手渡した。
なんだこれ、と思ってよく見てみると、それには『通行手形』と書かれている。
しかしテールはこの文字が読めなかった。
なにが書かれているのだろうかと覗き込んだメルも、読むことができなかったらしい。
二人して首を傾げていると、ツジが読み方を教えてくれた。
「そりゃ通行手形っていうもんだ」
「「通行手形?」」
「ああ。この国であればどこでも使うことができるぜ。いや何、俺はちょっと有名な人間でな? えーと確か……風間の紹介って言えば、大体の場所は融通を聞かせてくれるはずだ」
「そ、そんなすごい物貰っていいんですか!? ていうかツジさん何者……!?」
「貰える物は貰っとけ! 俺はお前らが気に入ったんだ! それに、また会いそうな気がするしな」
「……? どういうことですか?」
「ここでお別れってことだよ」
ツジは軽快なステップを踏んで長蛇の列から離れていった。
鎖を回して風を切り、ヒョウヒョウと音を鳴らす。
「じゃあな坊主、小娘! また会おう!」
「え、ちょ──」
テールが呼び止めようとした瞬間、一陣の強い風が吹いた。
急な強い風に誰もが目を閉じる。
それはすぐに収まったが、目を開けるとツジの姿はそこにはもうなかった。
周囲を見渡してみるが、彼の姿は何処にもない。
まるで風に乗ってどこかへと飛んでいってしまった様だ。
ぽけーっと彼がいた場所をしばらく眺めていたが、そこで列が動き出す。
とりあえずその流れに遅れないように足を動かしつつも、目線だけは動かさなかった。
「……凄い人だったね……」
「う、うん。また会えるのかな?」
「そう言っていたし、そうなんじゃない? とりあえず行きましょ!」
「そうだね」
まずはリヴァスプロ王国に入らなければならない。
だが門に辿り着くのは、やはりもう少し先になりそうだった。




