3.8.泣いている武器
とんでもなく高い声が聞こえてきた。
その声は数十人の子供が出しているようなものであり、こちらまで良く響く。
瞬きを何度かしてどこから声が聞こえたのかを探っていると、また声が聞こえてきた。
『『蛇弧牢様! 蛇弧牢様! 今目の前に主人に無礼を働いている者がいます! ぶっ殺しますか!?』』
「えっ」
『奥様! 奥様も何とか言ってくださいませ!』
『お二方! お二方! 何卒我らにお仕事をお与えくださいませ!』
高い声で喋っている何かが、完璧な会話をしている。
この声は恐らく武器から聞こえているものだ。
しかしそれらしい物が一切見当たらないのだが、どこにあるのだろうか。
そこでツジが腕に巻いている鎖が目に入った。
今目の前にある武器といれば、これくらいだ。
だが今テールは何の武器にも触っていない。
だというのにここまで鮮明に聞こえている。
メルの武器を手に持った時はこのような会話はまったくしなかった。
首を傾げていると、また高い声が聞こえてくる。
『……なぁ、もうやめようよ。蛇弧牢様も、奥様も居ないんだからさ……。こんな事やってても虚しくなるだけだよ……』
『『……うっ、ううぅ……』』
『『ううぅぅううぅ……!』』
高い声たちが泣きはじめてしまった。
ここまで感情のある武器などあるのだろうか……?
というか声の数が尋常じゃない程に多かった。
もしかすると鎖の一つ一つの声が今聞こえているのかもしれない。
さすがに鎖を見過ぎてしまったようで、ツジはテールが自分の鎖を凝視していることに疑問を持ったようだ。
腰を折って覗き込むようにテールの顔を見る。
「何か面白いもんでもあったかい?」
「おわわ近い……。え、えーっと……貴方の武器……ですよね? その鎖」
「ん? ああ、そうだ。長い付き合いの鎖だぜ」
「その鎖……泣いてますよ?」
「……ほん?」
なにを言っているのか分からない、といった表情でツジは眉を顰めた。
こんな事を唐突にいう奴など、変な奴と相場が決まっている。
ツジは鼻で笑ってから大笑いして、腹を抱えた。
まぁ当然の反応だな、とテールは自分の発言を思い返して反省する。
もう少し考えてから物を喋った方がよさそうだ。
「あっはっはっはっは! なんだそりゃ! 武器の声が聞こえんのかお前! あはははは!」
「あ、はい」
「はいぃ!?」
あっけからんと言い放ったテールの言葉に、ツジは驚きの表情を返す。
ここまで堂々とされてしまうと笑いよりも驚きの方が勝るというものだ。
しかしこれもまた面白い。
ブハッと吹き出して息を大きく吸ったところで、ぴたりと止まった。
何か思い当たる節があったらしく、顎に手を当ててテールに問いかける。
「……武器の声が聞こえんのか?」
「そうなんです! テールは武器の声が聞こえるんですよ!」
「証拠は?」
「え、えっと……その鎖の名前、蛇弧牢って名前じゃないですか?」
「っ!? おいおいまじかよ……!」
どうやら当たりだったらしい。
ツジはテールと鎖を交互に見て驚いていた。
この武器のことはもちろんのこと、名前すらまだ口にしていないのだ。
武器の名前を見事に当てたテールは、本当に武器と会話することができるのだと、ツジは理解した。
感嘆の声を上げ、腕を組む。
鎖を指で撫でて、テールを見た。
「……こいつ、泣いているのか?」
「は、はい。それと蛇弧牢様……と奥様? って言ってますけど……」
「奥様? ……ああ、なるほどな。そうか、そういうことか。本当に会話できるんだな」
「聞けるだけなんですけどね……」
聞けるだけで、会話ができるわけではない。
しかしこの鎖は他の武器とは何か違う様だ。
もしかすると本当に会話できたりするかもしれない。
ツジは納得したように頷き、両手から少しだけ鎖を伸ばす。
その先端には何もついておらず、カチャカチャと音を立てながら揺れていた。
「実はな、これは俺の本当の武器じゃねぇ」
「え?」
「そうなんですか?」
「ああ。この鎖は、俺の本当の武器を繋げていた物なんだ。お前ら、鎖鎌って知ってるか?」
「「いえ……」」
初めて聞く武器の名前だ。
とはいえその字面からどういった武器なのかは簡単に想像ができた。
恐らくこの鎖の先端に鎌がくっついている武器なのだろう。
自分たちに馴染みのある武器で鎖鎌に近いものだと、モーニングスターや鞭が思いつく。
しかしこの二つは、先ほどツジが見せた攻撃を繰り出すことは不可能だろう。
彼の魔法があの攻撃力を生み出しているのだ。
魔法は気になったが、その前にツジは自分の武器のことをまた説明してくれた。
「鎖鎌ってのはこっちに鎌、こっちに分銅っていう小さな鉄の塊が付いている武器のことだ。恐らく、奥様ってのがその分銅の方だろうな」
「面白い武器ですね……!」
「でもツジさん。どうして今その鎌と分銅がないんですか?」
メルがそう聞くと、ツジはしょんぼりして肩を竦めた。
あまり思い出したくない事だったのかもしれないと思ったのですぐに謝ったが、彼は気にするなと言ってその理由を教えてくれた。
「……弟子がどっかに持ってっちまったんだよ」




