3.5.武器の声
昼食を終えたあとは少しのんびりしていた。
気持ちのいい風が吹くので、少しだけここで休もうということになったのだ。
テールは先ほど投擲で使ったナイフの刃を確認しており、メルは両刃剣・ナテイラを手入れしていた。
「……あ、そういえばテール」
「なに?」
「剣の声が聞こえるんだよね?」
「う、うん。多分そうなんだろうけど……。この子は喋らない」
そう言って、今自分が持っているナイフを光にかざした。
太陽光が反射して地面に光が映る。
自分の使っている武器、ナイフなどをひとしきり触って声を聞くことができるか試してみたのだが、残念ながら声は一切聞こえなかった。
夢の中で声を聞いた剣と、ナルファムが持っていたナイフ。
それで剣の声が聞こえると確信を持っていたのだが……。
何がいけないんだろうか。
声は二度聞いたので、もしかしたら聞く方法があるのかもしれない。
それに王族に送った剣は夢の中に出てきて声を届けてくれた。
それだけあの剣が助けを必要としていたということが分かる。
すぐに気付けば何か変わったのかもしれないが……あの時は何もかもが初めての経験だった。
それに夢の中での出来事なので、気付く方がおかしいのかもしれない。
「じゃあ私の剣は?」
「どうかなぁ……」
「ほら、テールに研いでもらった時はまだ声が聞こえてなかったんでしょ? 今なら分かるかも!」
「じゃあ……」
メルが手入れをしていた両刃剣・ナテイラを手渡してくる。
それを丁寧に受け取って、柄をしっかりと握った。
ずっしりくる重さはこの剣が攻撃に掛ける威力を教えてくれるようだ。
そしてこの鋭利な刃先に、自身の輝きで太陽の光を反射させる刃。
両刃剣・ナテイラをしっかりと見つめ、何か声が聞こえないか静かに待った。
そこでまた心地良い風が吹く。
『……暇だ』
「! わぁ! わああ!!」
「聞こえた!? 聞こえたの!?」
「暇って言ってる!」
「暇してるの!?」
この両刃剣・ナテイラは、どうやら女の子のようだ。
可愛らしい声だったが、口が悪そうな印象を受ける。
貴族とかにこういう口調の女性がいそうだな、と思いながら、テールは武器の声が聞けたことに心底安心した。
しかし、他の人が持つ剣でなければ声を聞くことはできないのだろうか?
自分の剣との違いは何か考えてみるが、思いつかなかった。
だが声が聞こえたのだ。
今回は前々から試してみたかった会話に挑戦してみようと思う。
すぐに柄を握り直して、両刃剣・ナテイラに声をかける。
「な、ナテイラ! 聞こえる?」
『……』
「あ、あれ? おーい。おおーい!」
『……暇だ』
「……暇らしい」
「やっぱり暇なんだ……」
どうやら剣の声が聞こえるだけで、剣はこちらの声を理解してくれるわけではないようだ。
まぁ実際は物なのだし、人間の言葉を理解できるはずがない。
そう考えると今の自分は一体何なんだと疑問がよぎるが、これはスキルの影響だということであまり深く考えないようにした。
両刃剣・ナテイラはとりあえず暇をしているということが分かった。
ではメルのナイフはどうだろうか?
「ナイフ貸してもらっていい?」
「いいよいいよ! 声聞いてみて!」
メルに両刃剣・ナテイラを返し、今度は解体用ナイフを貸してもらう。
刃渡りはさほど長くないが、これは使い続けて削られているからこうなっているのだ。
昔はもっと長かったと記憶している。
これもテールが研いでいたナイフであり、メルが愛用している物だ。
集中して柄を握り、声を聞こうとしてみる。
『洗ってほしいなぁ!!!!』
「うわああああ!?」
とんでもない声量を聞いてひっくり返った。
剣の声を聞くのはこれで四回目になるが、ここまで元気な男の子だとは思わなかったので驚いてしまった。
集中している時にこの声量は、心臓に悪い。
だがこのナイフが言っていることは瞬時に理解できた。
どうしてこんなことを言っているのかも。
「えっえっ!? どど、どうしたの!?」
「メル! ウォルフ解体した後この子洗わなかったでしょ!」
「いやでも布で拭いたよ!?」
『洗ってええええ!!!! ほしいなぁ!!!!』
「洗ってほしいらしい……。ていうかめっちゃ元気なんだけどこの子……」
「むぅ、川がないからあんまり水は使いたくないけど、洗って反応が変わるか見てみたいね」
「確かに」
メルはすぐに魔法袋の中から水を取り出した。
布に水を含ませ、丁寧に刃を拭いていく。
これだけで油は完全に落ちることはないが、何もしないよりは断然マシである。
しばらく拭いていると、油がそれなりに落ちたようだ。
布も後で洗っておかなければならないと考えながら、メルは拭いたナイフをテールに手渡した。
「ど、どうかな?」
「ちょっと待ってね……」
もう一度声を聞こうとしてみる。
すると、声が聞こえてきた。
『これでまたお役に立てるぞ~!』
「……おお……」
「なんて言ってる?」
「これでまた役に立てるって言ってるよ」
「えーなにそれ可愛いー!」
そこでメルは、はっと思いついたように両刃剣・ナテイラをもう一度手渡そうとする。
「ん?」
「二つ持ったらどうなるかな?」
「え、どうだろう」
「剣同士で会話してくれるかも!」
「なるほど?」
そう言われると試してみたくなる。
すぐにテールは両刃剣・ナテイラを手に持ち、何とか片手で支えた。
もう片方の手にはナイフを握っている。
さぁこれでどうなるか。
剣同士が会話するのであれば面白そうではあるが……。
『暇だ……』
『早く使ってくれないかなー! かなー!』
『はぁ……』
『なんだって切るぞー! なんだって解体するぞー!』
「……うん、会話はしないみたい」
「そっか~」
メルに剣とナイフを返す。
会話するとまではいかなかったが、もしかしたらもっと研ぎ師スキルを極めれば会話をすることができるようになるかもしれない。
とはいえ今は、声を聞くことができると再確認できただけで十分だ。
しばらく研ぎはできないので腕がなまってしまわないかだけが不安だが。
さて、そろそろ出発しよう。
すくっと立ち上がってバックを背負う。
メルも同じように立ち上がって、一緒にリヴァスプロ王国への道を進むことにした。
「馬車見つかったらいいね~」
「じゃないとキツイ……」
頼む見つかってくれと心中で懇願しながら、テールは重い足を持ち上げて歩き出したのだった。




