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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十六章 最強の奇術
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16.21.逝くときは一緒に


 テールに雲切が手渡された後、少しばかり休息を取ることになった。

 木幕も久しぶりに魔法を使いながら戦った為、体の調子を確認したいらしい。

 彼は岩の上に座りながら瞑想し、中に居る侍たちと会話をしながら今の状態を再確認している様だ。


 レミはそれを見て、スゥと一緒に野営の準備をし始めた。

 ああなると暫く戻っては来ないので、日が暮れてしまうとの事。

 なのでとりあえず今日はここでゆっくりするのが良いだろうと考えたのだ。

 今は二人で薪を取りに行ってる最中だ。


 そしてテールはというと……。

 メルと一緒に、雲切を見ていた。


「「…………」」

『……』

「テール、何か言ってる?」

「う、ううん……何も喋らない……。隼丸、何か言ってる?」

『『いいや、無言を貫いてるね。無口なのか?』』


 ずいぶん長い間こうしているのだが、一切口を開いてくれない。

 何度か声をかけたがやはり無言。

 喋るつもりがないのか、本当に喋れないのか……。


「喋れない事ってあるの?」

『そもそも、人間に僕らの声は聞こえませんからなぁ。でも僕の経験上、喋らんかった奴はいなかった気がするぅ~』

『私の……私の里では喋らぬ忍び刀が数多く居りました。しかし戦闘時はよく口を開いておりましたよ』

『『さすが忍びの武器……戦闘狂ばっかだね』』


 日本刀同士の会話を聞きながら、テールはもう一度雲切を見てみた。

 刃を抜けば喋ってくれるだろうか?

 それに、彼の魔法はとにかく強い。

 見えない斬撃を“飛ばす”のではなく、その場に“生成”するのだから相手に回避させる暇を与える事すら許さない。

 だが木幕や葛篭など、気配で攻撃が来ることを事前に察知することができれば、回避は可能の様だ。


 恐らく、相手の動きを見ているのだろう。

 日本刀の握り、目の動き、そして微かな呼吸使い。

 それらをすべて鑑みて、行動をしているのだと思う。


「……どうかな? テール君」

「やっぱり喋らないですね」

「そっかぁ~。叔父様が使ってた日本刀がどんな声か知りたかったなぁ」


 少し興味ありげに顔を覗かせた船橋だったが、結果を聞いて少し残念そうだった。

 懐かしい日本刀を見ては、過去の記憶を思い出しているらしい。

 女性らしく優しく笑いながら、その雲を模した様な鍔を撫でた。


「ねぇ、テール君」

「はい?」

「私の日本刀が見つかったら、その時は雲切と一緒に研いでくれないかな」

「いっぺんには研げませんよ……?」

「分かってるって。でもさ、逝くなら、できる限り一緒に逝きたいからさ」


 船橋は少し寂しそうな笑顔でそう言った。

 彼女の日本刀はまだ見つかっていないため、研ぐのはまだまだあとになるだろう。

 先の話ではあるが、できる限り彼らの要望には応えていきたい。


 テールはそれに小さく頷いた。

 どの道日本刀がなければ船橋の呪いを消すことはできないので、まずは彼女の日本刀を見つけ出すことを優先しなければ。


 とりあえずその場から立ち上がり、雲切を抜いてみることにした。

 キチッと音を立てて鯉口を切り、すらりとした刀身を鞘から抜く。

 ずっしりとした重みが片腕に伝わってきた。

 少し力を入れ続けておかなければ危うく落としてしまいそうだ。


「お、重い……」

『『へぇ?』』


 今思えば、初めて普通の日本刀を持った気がする。

 灼灼岩金は刀身がボロボロで少し重量が減っていたし、隼丸は柄の方に重心があるため扱いやすい。

 不撓は忍び刀であり隼丸と同じく柄の方に重心があるので軽く感じるし、鎮身の武器である守身ノ番・十碌は仕込み刀であるため軽かった。

 中夢はそもそも小太刀なので使用されている鉄の量が違う。

 以前研いだ西形正和の槍、一閃通しは少し分厚い片鎌槍なので日本刀の重さとは少し違うだろう。


 そのため、この雲切はテールが初めて手にする普通の日本刀であった。


 蕪無骨の日本刀、雲切。

 雲を模した鍔から伸びる刀身は、白い。

 とはいえそれは鏡のように反射してそう見えるだけだ。

 よく観察してみればしっかり鏡面になっているということが分かる。


 ずしっとのしかかってくる重量を支えるため力を入れて持つが、それでも重い。

 耐えかねて肘を曲げ、手元を自分に近づけて持ちやすい姿勢を取った。


「日本刀ってこんなに重いんですね……」

「ん? そうだよ? あ、でも叔父様の持ってた雲切は普通の奴より重いかも」

「そ、そうなんですか?」

「うん。鍔が重いんだよね」

「鍔?」


 ふと、鍔を見てみる。

 一見普通の様に見えるのだが、隼丸の鍔と見比べてみると違いがよく分かる。

 どうやら三倍ほどの厚みがあるようだ。


 雲を模している鍔なので、分厚さで強度を維持しているのかもしれない。

 これだけの分厚さがあれば、鍔迫り合いをしてもそうそう欠けることはないだろう。


「あ、でもそれだけじゃないんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。鍔は重心を変える役割を持ってるし、斬撃の威力を上げることもできるんだ。だから叔父様の攻撃で一番気を付けなきゃいけないのは、切り上げからの切り下ろし。要するに上段からの攻撃は全部危険だね」

「な、なるほど……?」


 これを下段から振り上げるのも相当重いと思うのだが……。

 見ている限り、蕪は息をする様に自然にやってのけていた。

 あれができるようになれば、自衛もできるのだろう。


 そう思いながら、静かに納刀した。

 手挟んだ状態で、とりあえず持ち運ぶ。


「あれ? テール、テール」

「なに?」

「水瀬さん」


 幌馬車の方から、水瀬が綺麗な歩き方で近づいてきた。

 こちらに手を振りながら前で立ち止まり、腰に携えていた水面鏡を鞘ごと抜く。

 そして、それをテールに手渡した。


「……え?」

「頼めますか? テール君」

次回は少々お休みいたします……

最近ちょっとスランプ気味でして、気晴らしに違う物語を書こうと思います。

次回更新は未定です……

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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