16.7.父親の代わり
「えーーーーっと? 話をまとめると……。牡丹ちゃんは天皇家の血が入ってて? 権力争いに巻き込まれそうになったから男の子として生きるように言われて、十三代目無雲流剣術師範、蕪無骨に稽古をつけてもらっていたと?」
「そういうことかなぁ~」
「かなぁ~ってのんびり説明できることじゃないでしょうに。ていうか天皇の権力争いってなに……?」
「お母さまと別の一家の正妻争いだったかなー? 天皇のご子息様のお嫁さんに、僕が使われそうになったんだけど、そしたら暗殺者が……」
「うん、なんとなく察したわ……」
水瀬とメルは、あれから腰を下ろして船橋から少しばかり話を聞いていた。
今しがた水瀬が大方の話をまとめたが……自分で口にしてみて分かるが彼女は彼女で壮絶な人生を歩んでいたようだ。
男として生きなければならなかった人生。
その中で自然に惹かれ、様々な知識を得ていたはずだ。
それは船橋と木幕が戦ったあの時を見ているので、よく知っている。
しかしこんなに長い間この事を仕舞っていたというのは、なにか言いたくない理由があったのだろうか。
船橋の態度も昔に比べて随分……というより、本当に大きく変わった。
大体は辻間のせいではあるが、それで怖がっていた彼女を水瀬と津之江がカバーしてきたものだ。
懐かしい記憶を引き出したと同時に、少し寂しく思う。
自分は彼女が己の過去を話すに値していなかったのだな、と。
船橋は、水瀬の一瞬の悲しさを感じ取った。
びくっと肩を跳ね上げてから、すぐに弁解する。
「ちち、違うんだ水瀬さん……! こ、この事は叔父様……蕪様と約束してたからなんだ……」
「約束?」
「うん。無雲流を教わるための条件があったの。一つは僕は男としてあり続ける事。もう一つは、この事を墓場まで持っていくこと。教えたら教えたで、また気を使わせちゃいそうだったから……今まで黙ってたんだ。ごめんね……」
「そうだったのね」
水瀬は気を取り直し、笑顔を向ける。
それを見てほっとした船橋も微笑み、またぽつぽつと話し出す。
「……叔父様が……次の侍なんだ……」
「そうみたいね。牡丹ちゃんも分かってると思うけど、蕪さんも武器を呪われて成仏できなくなってる。その呪いを解くことができるテール君は、守らないといけない」
「うん、分かってる。だから、戦わないといけないんだもんね。戦う意志がなくても、戦わされるんだから……」
「そうよ」
分かってはいる。
理解しているはずだったが、船橋の声は次第に小さくなっていった。
蕪の名前が出てきて、なんとなく次の相手が彼だと分かってしまったが、何故か咄嗟に阿呆の子を演じてしまった。
誰の目から見ても、船橋は馬鹿ではない。
なので木幕から彼の名前を出された時、瞬時に理解していたはずだ。
だが、信じたくなかった。
だからわざと首を傾げて、少しでも確信に変わる言葉を向けられないようにしたのかもしれない。
意味のない行動だし、すぐに答えは教えられることだったが……。
とうとう、自分でその事実を口にした。
彼も呪われており、助けなければならない人物の一人だ。
自分の知り合いが敵にいる。
そう考えただけで、船橋は少し震えていた。
強いと同時に憧れで、自分を育ててくれたもう一人の親のような存在だったのだ。
そんな人物に刃を向けることが、恐ろしかった。
「どうしても……戦わないと駄目かなぁ……」
「牡丹ちゃんがやらなくても、誰かがやるわ。やるしかないんだから」
「そう、だよね……」
船橋の父親の代わりのような人物だった男、蕪武骨。
知り合いが相手だというだけでも苦しいのに、限りなく親族に近い存在が相手になるのだから、船橋にとってはひどく辛いはずである。
水瀬も、メルもそんな経験はしたくない。
だが……この戦いばかりは、避けることができないのだ。
膝に顔をうずめる船橋の背をさすりながら、水瀬はメルに目線を合わせる。
彼女が今何を言おうとしているのか、正確には理解できなかったが、今だけは静かにさせておきたいということは分かった。
その場で黄昏れ、船橋が落ち着くのを長い間待つ。
一体どれだけの時間を待ったのかは分からなかったが、船橋の中の決心が固まるのは、そう長い時間を要さなかった。
「叔父様について、教えるね……」




