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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
401/422

15.25.


「……ご苦労であった」

「わっ……木幕さん、まだ起きてたんですか……?」

「お主の身を今は案じておる。どうだ、二日間飲まず食わずで研ぎに没頭した体は」

「え」


 それを聞いた瞬間、一気に空腹と喉の渇き、更に眠気が襲ってきた。

 どっと疲れが出た体を支えることはできず、そのまま地面に倒れそうになったところをレミが支えてくれる。


「私の魔法に疲労回復効果はないの。ごめんね」

「あ、脚が……」

「ずーっと同じ体勢で研いでたからねぇ~。そりゃそうなるわよ。とりあえずこれ食べて」


 すっと差し出されたのは、以前スゥが作り出してくれた果実だった。

 水気も多く、今のテールにとっては本当に丁度いいものだ。

 手に取ってすぐに齧ると、一気に空腹が襲ってきたガリガリと音を立てながらその果実をあっという間に完食してしまう。

 まだまだ足りないが、少しは落ち着いた。

 大きく息を吐いて、自分の力で地面に座る。


 ふと木幕を見てみると、彼の瞳の色が少し良くなっているように感じられた。

 今までが黒色が普通だと思っていたのだが、本来は茶色の瞳である様だ。

 うっすら輝きも取り戻しているところから、木幕に負担が掛かっていたものが随分取り除かれたらしい。


 西形正和の魂は、実は大きく巨大だった。

 まだ若いのにも拘らずあれ程の力を有し、更に奇術も凄まじいものだったからだ。

 一人居なくなったことで木幕が背負う魂の量が減り、呪いの進行も大きく後退した。

 何かない限り、向こう数十年は問題ないだろう。


 しかしそれと同時に、やはり虚しさが残った。


「……西形正和は、明るい男だった」

「ですね~。ムードメーカーでもあったような気がしますけど。あ、問題児って意味です」

「あの時から変わらぬからな。だが……うむ。強かったな。あの男も」

「ええ」


 初めて会ったのはいつのことだったか。

 昔過ぎて忘れてしまったが、西形が一つの国で起こした事件は今も覚えている。

 あんななりだが、過去には大量虐殺を犯した下手人だったのだ。

 それがあそこまで丸くなったのは……やはり姉である水瀬清の存在が大きいだろう。


 あの時の一件が原因で弟に対してずいぶん厳しくなってしまったのだが……。

 それが六百年以上続けば流石に同情してしまう。

 過去の罪は消えないというのは、こういうことにもなりうるのだろうという反面教師になったのではあるが、誰もここまで長生きするとは思っていなかったはずだ。

 それは木幕も、である。


「あ、そういえば覚えてますか? 西形さんが魔族領で戦っていた時のこと」

「無論覚えている。某はその場にはおらなんだが、あやつを先手大将にして士気は大きく上がった」

「二回も勝っちゃうんですもんね。凄かったです。それも馬じゃなくてレッドウルフに乗って戦うんですから。当時のレッドウルフって今より十倍くらい強かったですよねぇ~」

「そ、それはレミさんが強くなっただけでは……?」

「あ、そうかもね!」


 そこは否定しないのか、とテールは苦笑いを浮かべる。

 とはいえレッドウルフも人間が弱くなったことによって、少し弱体化したのかもしれない。

 それ以上強くある必要がなくなるからではあるが、ガルマゴロという存在が生まれる可能性がある以上、危惧しておかなければならない個体だろう。


 すると木幕が話を戻すように、西形のことを思い出しならが口を開いた。


「あやつの馬好きは……何とかならなかったか?」

「ああぁ……あれは凄かったですねぇ。この世界の馬の性質を理解するために、善さん随分動き回されましたもんねぇ」

「御霊呼びが成せるようになってよかったと、心底思ったものだわ」

「あははは、確かにやれやれって感じでしたもんね。多分その時の顔、覚えてるの私だけですよ」

「そこまで酷かったか?」

「“肩の荷が下りた”でしたっけ。あれがそういう顔なんだなぁーって思いました」

「クククク……難儀だったのは、あやつだけではありはせぬがな」


 木幕の頭が軽く動く。

 どうやら彼の中に居る誰かが、何か物申している様だ。


 その光景は、なんだか楽しそうに見える。

 滅多に笑わない木幕が微笑を浮かべているからそう見えるのだろうか?

 しかしこの光景にはなんだか聞き覚えがあるような気がした。

 なんだっただろうか、と首を捻って考えていると、ふと守身番・十録が脳裏をよぎった。


「あ、お通夜……」

『『これが本来の通夜だよ』』

『しんみりしたんは好かんねー』

『『今はそんなにしんみりしてないと思うけどね。ほら、楽しそうに思い出を語ってる』』


 テールが彼らの中に入る余地はさすがになかったが、その様子を近くから見ていても確かに楽しそうだと感じることができた。

 思い出話に花を咲かせている。


 ──笑え、最後くらいな。


 木幕が言った言葉が、ふと思い出された。

 しんみりしているより、はやり……こうした見送り方の方がいいのだろう。

 この中で涙を流している者は、一人としていなかった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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