2.19.失敗
テールが目線を向けている人物こそが犯人だ。
もっと考えてから発言した方がよかったのかもしれないが、余裕のない彼ができるのはこれが限界であった。
バーシィが自分の隣りにいる人物を見る。
同じ執事であり、今回磨き屋の仕事を隠すようにと指示を出した彼の部下だ。
温厚な性格でそんなことをするような人ではないと、バーシィは断言できる。
それにそんな度胸もない。
加えて剣はバーシィが常に保管していたし、その場所は誰にも教えていないのだから見つけることすらできなかったはずだ。
しかし……テールの確信めいた発言にはどこか引っ掛かるところがある。
彼とは初対面はずだ。
だというのにここまで的確に“この人が犯人だ”と言う事などできるはずがない。
だからこそ、その場にいた全員は小さく笑い、疑心が芽生えた。
「……ふざけているのか?」
「ふ、ふざけてないです! う、上手く言えませんが……あ、あの人が! どこかの作業場で細工をしていたんです!」
「していた? ということは見たのか?」
「み、見てないです……」
「では何故そう断言できる」
「ゆ、夢の中で剣の声を聞いたんです! ほ、ほんとうです!」
「何を馬鹿なことを……」
テオルは呆れた様子でテールを睨んだ。
本当に変なことを言う少年だと、兵士もくすくすと笑っていた。
しかしこれは本当のことだ。
とはいえこの言い方では信じてもらうのは難しいだろう。
剣の声を聞くことはおろか、物の声など聞こえるはずがないのだから。
誰もが苦し紛れの言い訳をしていると思いはじめていた。
悪い流れになっていることを察したカルロが、口を挟む。
「テール君……それ以上はいけない」
「な、なんでですか!? 本当にあの人が!」
「周りを見るんだ」
強めの言葉を聞いて一気に冷静になれた。
恐る恐る周囲を確認してみると、誰もがこちらに疑いの目を向けている。
信憑性のない発言は時にして地雷となる。
嘘と思われることを発現すれば、疑心は強まる一方だ。
そこで、鍛冶師エマンテが声を上げる。
「お前らだろ! そんな言い訳で逃れようとするってことは!」
「違います、僕たちではありません」
「いえ、これは磨き屋の仕業でしょう」
「「!?」」
そう口にしたのは、先ほどテールが犯人だと言い放った人物だった。
彼は淡々と言葉を並べる。
「磨き屋……いや、研ぎ師カルロ。及び研ぎ師テール。お前たちは不遇職という立場に不満を持っているな。冒険者、鍛冶師からの当たりも強いだろう。だからこの期に鍛冶師を陥れようとしたんじゃないか? 内密に行われるという磨き仕事に乗じてな」
「そ、そのような事は決して!!」
「先ほどの話を抜きにしても、君たちが犯行を決行する動機は十分にある。これは重罪。神に与えられたご意思に牙を剥いたのだ! 相応の処罰を覚悟しろ!」
「だから僕たちは──!!」
「もうよい」
ズンッとのしかかる重圧が、カルロの口を閉ざした。
恐る恐るテオルの目を見てみると、彼が次に発言する言葉は決まっているようだった。
何かいい返さなければならない。
しかし、その重圧がそれを阻止する。
「……磨き屋カルロ。あの剣はお前が研いだんだな」
「……そ、そうです」
「カルロさん!? 国王様違います! ぼ、僕が研いだんです! あの剣は僕が研いだから夢の中に出てきてくれたんです!」
「テール君それは駄目だ……!」
「……え?」
鋭い視線がテールに突き刺さった。
ビクリと体が跳ねて身を縮こませる。
ゆっくりと恨みの籠ったような口調で、テオルは静かに言葉を続ける。
「ということは、カルロは弟子に磨きを任せたのか。不出来な弟子に剣が渡ったからこうなったんだな」
「ぁ……」
今この瞬間、カルロとテールに冤罪が掛けられた。
テールが何も言わずにカルロが研いだことになれば、冤罪はカルロだけにかかるはずだったのだ。
共犯とされても、テールはまだ助かる可能性があった。
しかしこうなってしまうとそれは不可能だ。
どちらかと言うとテールの罪の方が重くなる。
磨いた人物が細工をしたと国王は考えているからだ。
それは他の兵士も同じ考えであり、これが覆ることはもうないだろう。
カルロも自分がやったと銘打ったことになっている。
だがそれを弟子に任せたとなれば、王家からの仕事を放棄したと思われても仕方がない。
覆水盆に返らず。
もう言ってしまった言葉を訂正することは叶わなかった。
テオルは立ち上がり、二人に向けて指を指す。
「磨き屋カルロ。貴様は身支度を整えてこの王城へと居を構えろ。相応しい仕事を与えてやる」
「……はっ……」
「磨き屋テール。貴様はこの国に足を踏み入れることをもう許しはせぬ。国外へと行くがいい。そして二度と帰ってくるな」
「ぁぇ……」
「国王様、それは罰が優しすぎるのでは?」
「この国に骨を埋めることを許したくないだけである。鍛冶師エマンテ。此度の件は謝罪しよう。今日はここでもてなされるといい」
「は、はっ!」
テオルはそのあと、奥へと下がっていく。
見えなくなったあと、兵士が無理矢理二人を立ち上がらせて手錠を外す。
「話は聞いていたな。行け」
「……行こう、テール君……」
「ごめんなさい……カルロさん……」
「犯人が分かっただけでもマシだよ。僕も殺されはしないみたいだし、何とか、なるさ……」
カルロはそう言うが、自分の身よりテールの方が心配だった。
国外追放ということは、故郷にすら戻ることを許されないのだ。
そこも、この国の私有地であるから。
これからどうなるかは分からない。
だが今は、この玉座から一刻も早く立ち去りたかった。




