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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
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15.15.一人、また一人


 ぴょうと音を立てて日本刀を振るった瞬間、今まで戦い続けて来たとは思えない程の速度で五山は敵武将に突撃した。

 馬上にいる相手であるのにも拘らず、一切臆することなく突っ込んでくる彼に、敵武将はひどく驚く。


 だがこちらは馬上。

 優勢ではあると冷静さを取り戻した瞬間、馬を走らせてこちらも突撃する。


 足音は馬の方が大きいはずなのに、どうしても五山からも大きな足音が出ているように感じられた。

 その幻聴は、敵武将にも伝わったらしい。

 だがここで止まる訳にはいかない。

 臆することなく突っ込んできた男に対し、真っ向から挑まないなど武士として恥ずべき行為だ。

 男も武人である以上、この一騎打ちに今までの人生全てを注ぎ込み、全力で排除するつもりで迎え撃つ。


 五山が一歩進めば、馬もまた近づいて来る。

 これをどう捌いてやろうか……。

 そんな考えを普段ならするのだが、今はそんな余裕がない。

 とにかく目の前に迫って来ている男を切り伏せる。

 手段は問わず、どう動くのが一番効率がいいかだけを考えた。


 頭はすーっと冷たくさえ渡る反面、首から下は灼熱のように燃えている。

 血が滾るとはこのことをいうのだろう。

 思考を一度中断し、そんなことを胸の内で考えて笑った五山は、自分の間合いに入った瞬間片手で上から降ってくる斬撃を防ぎ、もう片方の手で馬の横っ腹を切り裂いた。


 馬のすれすれを攻めて斬撃を繰り出すその度胸は、誰もが備えているようなものではない。

 とはいえ、平常時の五山であればここまで危険なことは避ける。

 今は完全に危険感知能力が壊れており、体のタガが外れている状態だ。


 だからこそ、馬の横っ腹から背骨に届くまで深く突き刺したまま斬り抜き、振ってきた斬撃を思いっきり弾いて敵武将の腕をかちあげ、更に落馬までさせてしまった。

 想像を絶する反撃を受けた男は、何とか受け身を取って転がり、すぐに立ち上がって構えを取る。

 しかしその瞬間には既に、五山は鬼のような覇気を身に纏いながら刃を二つ振り上げていた。


 男はバッと防御姿勢を取る。

 振り下ろされた二つの斬撃を見事防ぐことに成功したのだが、そこで日本刀から嫌な音が聞こえた。

 パキーンと甲高い音を立て、斬撃が肩に落ちて来る。

 しかし所詮は一度衝撃を削った斬撃。

 鎧を貫通するほど深く食い込むことはなく、防具に男は守られた。


 ペキッ。


「……は?」


 ずん……!!

 凄まじい重圧と重力が襲い掛かってきた。

 肩へと押し付けている日本刀が鎧を押し潰すように砕き、膝立ちの状態の男を押さえつけている。

 その凄まじい力ときたら……!!


 なんとか立ち上がろうと身を捻ったりするが、ちょっとやそっとではこの攻撃を振り払うことができない。

 既に両手は地面に突いており、刃を振るうこともできなかった。


「ぬああああああああ!」

「……!!!!」


 男が叫ぶが、五山は叫ばない。

 そのまま地面に押し倒し、ついに鎧を砕いて肉に刃が到達する。

 もう、刃を邪魔するものはない。

 肉に食い込み、骨を穿って腕を断つ。

 男の両腕が大量の血液を吹き上げながらコテリ、と転がり声にならない叫び声を上げた。


 五山は両腕を切り落としたあと、片方の腕を上げて男の首に刃を押し付ける。

 そして押し切るように両断した。


「ぬぅ……! 討ち取ったりぃ……!」


 持っていた日本刀の切っ先に首を突き刺し、それを掲げた。

 一人だけが異様な立ち姿をしているため、良く目立つ。

 敵兵士は見知った顔が宙に浮いていることを目視して絶句し、味方兵士は歩調を合わせながらも五山の実績を叫び声にて大いに称えた。


 五山友影(ともかげ)

 この場にて和友と共に名を上げることになった。一人の武将である。


 一人の実績は、皆の実績。

 百五十名全員のタガが外れ、がむしゃらに刃を振るっては乱暴に切り伏せて恐怖を敵に与え続ける。

 それは和友も例外ではなかった。


 凄まじい斬撃を連続で繰り出しており、一瞬にして三名の兵士を突き殺す。

 目に見えない程にまで速くなっていくその突きを止められる者は、既にこの場にはいなかった。


 武将が名乗りを上げて向かってくる。

 だがあれは下級の武家であるらしく、この戦場の何たるかを理解していない。

 口上を述べている時は攻撃をしてはならないという決まりがあるが、こちらは名乗らなかった。

 一秒でも早く前へ進み、明野の首を取らなければならない。


 そうすれば……そうすれば……!!!!


「──!!」


 もう、声は出なかった。

 掠れた息だけが辛うじて聞こえたが、既に疲労困憊で周囲の音も聞こえていない。

 ただ前に。

 邪魔をする者は突き殺す。

 この二つだけを忠実に、完璧に守りつつ前進する。


 鎧を固定していた紐が切れ、大袖(おおそで)が落ちる。

 右の脛当てと左の籠手もいつの間にか失われており、兜も何処かに行ってしまった。

 手拭いだけがきつく巻かれており、血走った目で敵を補足し、突きを繰り出す。

 一閃通しの穂先に突き刺さった敵将の首を乱暴に振るって投げ捨て、また一歩、大きく踏み込む。


 そして……ようやく本陣の旗が、見えてきた。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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