2.18.冤罪
連れてこられた先は、なんと王城だった。
そこには多くの兵士が立っており、二人は中へと入れられる。
しばらく進んで辿り着いた先は……玉座だった。
なにがなんだか分からず連れてこられているので、テールは動揺しっぱなしだ。
しかしカルロは何としてもこの冤罪から逃れようと心を落ち着かせ、今この状況を把握しようとしている。
誰が陥れようとしたのか。
そもそもどうして研ぎ師である二人がここに連れてこられたのかまだ理由を聞いていない。
研ぎとは違う鋭い眼光を兵士たちへと向けて警戒する。
するとまた誰かが連れてこられた。
見てみるとそれは一人の鍛冶師であるようで、作業中に捕らえられたのか彼は作業服を着ている。
まだ若い鍛冶師であり、手に枷を付けられてなお暴れていた。
「一体何なんだよ!」
「大人しくしろっ!」
「ぐっ!」
反応からするに、彼も何の理由も知らされずにここに連れてこられたのだろう。
しかしこのメンツをみてどういった理由でここに連れてこられたのかがなんとなく分かった。
まだ確定ではないが、恐らくこの若い鍛冶師は王子に献上する剣を打った人物。
そしてそれを磨き上げた人物が、研ぎ師。
あの剣に関して、なにか問題があったのだと推測することができた。
しかしカルロから見てもあの剣は完璧な仕上がりだったはずだ。
剣は鋭く、剣身はまっすぐで歪みが一切なく、装飾も美しく作られていた。
研ぐ前から剣はほとんど仕上がっており、多少乱暴に扱っても折れたり傷が入ったりすることはないはずだ。
兎にも角にも、やはり話を聞かなければ何も分らない。
カルロは兵士に向かって再び問うた。
「兵士様! なぜ僕たちは捕らえられるのですか!? 理由をお聞かせください!」
「そうだ! 理由を聞かせろ!! こちとらなにも教えられずに連れてこられたんだ!! それ相応の理由はあるんだろうな!!」
「理由ならある」
玉座の方から声がした。
兵士全員が一斉に姿勢を正し、ザッという音を立てる。
コツコツと硬い音を立てながら歩いてきたのは、豪華絢爛な姿をしたこの国の国王、テオル・ロア・ノースレッジだった。
分厚いマントを翻し、玉座に座る。
圧倒的な重圧を遠く離れている場所からも感じることができた。
日に焼けた肌は目の鋭さをより一層強調しているようにも思える。
先ほどまで喚いていた鍛冶師も彼を見て縮こまった。
テールも同様だ。
しかしカルロだけは姿勢を崩さず、彼の目をまっすぐに見る。
「国王様! 僕たちはどうして──」
「黙れ磨き屋カルロ! 誰が発言の許可を出した!」
「よい、話させてやれ」
「……はっ!」
カルロの発言を止めた兵士だったが、国王に言われて少し不満げにしながら一歩下がった。
それを確認してから、今一度問う。
「このような姿でお目にかかることになったご無礼をお許しください。しかし僕たちは何も聞かされずここに連れてこられたのです。その理由を聞かせ頂きたい!」
「では余の口から教えよう。先日、息子のアディリダスに剣を献上したな。鍛冶師エマンテよ」
「ッ! は、はい! その、その通りです!」
「それを磨いたのはカルロ、お前だな」
「……内密のお話でしたが、確かにそうです」
「なに!? 俺の打った剣をお前が!? 不遇職の汚い手によって磨かれたと言うのか!!」
「無駄口を叩くな!」
「ぐぬっ……」
再び兵士に押さえつけられ、鍛冶師エマンテは口を閉ざす。
そのあと、再びテオルが話しだした。
「美しい見事な剣だった。だからこそ、それに細工がしてあるのが分からなかった」
「……細工……?」
その言葉にカルロとエマンテは首を傾げた。
しかしテールだけは目を見開いて話を食い入るように聞く。
「何かに剣を振るうと折れるように細工がしてあったのだ。剣の根元にな。アディリダスは剣を持って早速試し切りがしたいと言ってな。息子は剣術スキルを有しておるから何も問題ないと思った。だから闘技場で一匹の魔物と戦った。普通であれば完封するほどの脅威度の低い魔物だったが、剣が折れれば話は変わる。だから息子は怪我をした」
幸い重症にはならなかったが、剣が折れていなければこんなことにはならなかった。
どうして剣が折れたのかを確認したところ、根元に細工がしてあることが分かったのだ。
これは重大な事件。
すぐにこの剣を打った鍛冶師を探し出し、そしてこれを磨き上げた磨き屋を捕らえたのだ。
細工をすることができるのは、剣を作る時にたずさわった者でなければ不可能。
テールは共犯者の可能性があるとして、カルロと一緒に連れてこられたのである。
この話を聞いて、テールは周囲を見渡した。
夢の中で見たあの光景は、本当にあったことで剣が助けを求めていたのは事実。
となればここに“夢の中で見た人物”がいるはずだ。
何処だ何処だと探していると、バーシィが目に入った。
彼は心底申し訳なさそうな顔をしている。
しかしそれと同時に疑いの目も向けている様だった。
その隣。
そこにあの夢の中で見た人物の背格好とまったく同じ人物を見つけた。
すぐに顔を見てみると……やはり見たことのある顔だった。
(あの人が犯人……!)
「さて、どちらが細工をしたのかな?」
「お、俺じゃねぇ!! 大金貰った仕事だ! そんなことは絶対に考えないし考え付かねぇ!!」
「僕もです。剣を磨くのであれば剣は大切に扱わなければなりません。そんな剣を傷つけるなど言語道断」
「では、誰なのだ。余の息子はこの一件で殺されかけたのだぞ。誰だ、誰がやった!!」
「そっ……その人です……!」
テールの声に、全員の視線が集る。
彼の視線に目を動かせば、そこには驚きの表情を見せる人物がいた。




