15.12.打開策
急に戦場に放り込まれてしまったテールは、武器を何も持っていない。
なので今その辺に転がっている日本刀を、最低限の防衛のために手に取った。
鞘も抜き取り、適当に腰に差す。
「ほう、庶民のくせに度胸はあるようだな!」
「ど、度胸……?」
「百姓共は戦いなどできぬものよ! しかし武器を手に取った手前、殺される覚悟はしておけよ!」
「うっ……」
さすがに記憶の中で殺されるということはないだろう。
と思いたいのだが、こうして会話ができて、日本刀も手に持つことができている。
明らかに異常な空間なのでそうした覚悟は確かに持っておいた方がいいかもしれない。
であれば尚更自衛に努めなければ。
気を引き締め、周囲を見渡す。
今がどういう状況なのかはさっぱりではあるが、混戦状態であることは理解できた。
まともに味方との連携がとれていない。
孤立している、と直感した。
「和友さん! 今どうなってるんですか!?」
「さん!? くはははは! 様と呼ばぬ庶民は初めてだ! だが気に入った、いいだろうそう呼ぶがいい!」
(うわぁ、またなんか気に入られちゃったんだけど……)
「して状況か! 至極簡単に言うならば……殿だ」
殿とは、本隊を逃がすために追ってくる敵の足止めを担う役割のことだ。
信頼のある家臣に任せられることが多いこの役目。
西形率いる軍勢は敵を足止めしながら後退し、隙あらば突いてできる限り道ずれにしてやろう、という戦い方をしていた。
長い戦闘の中で西形の愛馬が矢に射貫かれて死んでしまい、こうして大地に足を付けて戦っている。
数多くの仲間たちも倒れて帰らぬ人となり、まだまだ押し寄せる敵に生き残っている者たちは刃を向けて抗い続けていた。
次第に劣勢な状況になることは明白ではあったが、今ここにいる者たちはまだ敗北したとは考えていないらしい。
殿とはすなわち死刑宣告に近い。
それだというのに、彼らは尚も戦い続け、諦めることなく本体を逃がすついでに敵と今も渡り合っていた。
この士気の高さは一体どこから生まれたものなのか。
『『おおおおおお!!』』
「チッ……増援か……」
起伏の激しい丘の向こうから、大量の赤い旗がこちらに向かってきていることが分かった。
一方、こちらの旗は既に二本。
旗持ちはボロボロになりながらも、託されている旗を懸命に持ち上げ、士気を絶やさないように立ち続けている。
今ここには二つの部隊が合流しており、西形はその内の一部隊を指揮する大将だった。
すると、普通より長い日本刀を持った男がこちらに向かって走ってきた。
道中迫ってきた敵を一撃のもとに切り伏せて蹴り飛ばし、踏みつけて西形に向かって報告をする。
「西形様ぁー!!」
「どうした五山!!」
「このままでは押し切られますぞ! 一度兵を集め直さなくては!」
「そのような時があると思うか! 馬もなく旗も二つ! この場で踏ん張るしかあるまい!」
「動きがなければ我が兵共も不安に駆られますぞ! なにか! なにかなければ!!」
「ぐぬ……」
五山という人物の言う通り、このまま耐久戦をしているより、何か動きを命じて本陣はまだ生きているということを兵士たちに伝えた方が士気は永らえる。
だが今、戦う範囲は広がっていた。
一度兵を集め直せば一点に攻撃が集中するため、西形が今兵を動かしたくないという理由も、なんとなく分かる。
この状況を打開するには、もっと何か……大きなことを成し得る必要があった。
それは単純かつ明白であるため、西形も、五山理解している。
悩む時間、躊躇する時間は既に無い。
あの増援が向かってきたが最後、ここにいる戦力は完全に塗りつぶされて霧散するだろう。
その前に、何か……!
「……五山!!!! 小規模の鋒矢陣に兵を整えよ!」
「! はっ!」
「敵総大将の首を討つ!!!!」
「ええええええええ!!?」
その提案に、テールはとにかく驚いた。
殿を任されて既にボロボロの状態であるというのに、まだ勝機を見出し敵総大将の首を討ち取ると明言した。
普通に考えれば自殺行為だ。
しかしすでに殿を任されている時点で、死んでいるのと同じなのかもしれない。
明らかに、自棄が混じっている。
だが彼らの目は……未だにらんらんと光っていた。




