2.17.事件発生
祭りの片付けは次の日に回される。
なので今日は朝早くから起きている人が多くいて、飲みすぎて倒れている人などを叩き起こすか道の隅に追いやるかしてどいてもらっていた。
商売をしていた者は出店を解体し、見回りの兵士も周囲の片付けを行っている。
テールとカルロも同様に、自分の店の前だけは綺麗にしていた。
他の場所を手伝ってもいいのだが、不遇職が近寄るななどと言われることも少なくないので、求められる時以外は無駄なことはしないようにしている。
落ちている酒瓶や倒れている人をどかして、一時間ほどで店の前は綺麗になった。
主催者もこういうところを気に掛けてくれたらいいのに、と愚痴をこぼすカルロ。
毎年これではいつか大きな事件が発生する可能性がある。
大事になる前に規制すべきことだ。
しかし王子の誕生日ということもあって特別な日という認識が国民の中では定着しているのが現状。
規制したところであまり意味はないかもしれない。
あとは参加者の善意の心か、と嘆息してゴミをまとめた袋を結んだ。
テールも掃き掃除を終え、戻ってくる。
「カルロさん、こっちは終わりました」
「ありがとうねテール君。まったく、毎度のことながら好き勝手やってくれたね……。片付ける身にもなって欲しいものだよ」
「まぁ特別な日ですから今日くらいは、って思ってるんでしょうね。ストレスのはけ口になってるっぽいですし」
「その人たちの後片付けをしている主婦さんたちにはストレスだろうけどね……」
周囲では確かに多くの主婦が困った様子で片付けをしている。
こういう現状は少しくらい改善してもらいたいものだ。
朝の時間をこれに奪われては意味がない。
一日中開催しているからこうなるのではないだろうか。
夜に片付けを終わらせればここまで酷くなることはないだろう。
まだ起きている人たちが手伝うことができるのだから、彼らがまた散らかそうと思うことはないはずだ。
とはいえ、夜こそ祭りはピークを迎える。
それはそれで酷なのかなと思いながら、一つにまとめたゴミを捨てに行く。
「よいしょっ」
とりあえずこれで朝の仕事は終わりだ。
踵を返して店に帰る。
今日は確かめてみたいことがあるのだ。
夢の中と現実世界で聞いた“武器の声”。
幸い店には沢山の武器があるし、それを触って確認しようと思っていた。
まだこのことはカルロに言っていないが、彼にもこういった経験があるのかを後で聞いてみようと思う。
ちょっと楽しみにして店に帰っていると、声をかけられた。
「おい」
「? はい、なんでしょう」
声を掛けられて振り返ると、そこには兵士が十人ほど立っていた。
一人一人が見事な甲冑を着ており、槍を持っている。
兜を被っているのでどんな顔をしているのかは分からなかったが、強い口調から居丈高な人物だということは理解できた。
何か変なことをしただろうかと思っていると、先頭に立っていた兵士が一歩前に歩み出る。
「貴様がテールという研ぎ師で間違いはないか?」
「……? え、ええ……そうですが……」
「捕えろ」
「「はっ!」」
「え!? ええ!?」
兵士が二人、テールを取り押さえて腕に枷をかけた。
なにがなんだか分らずにいたテールは抵抗することも敵わず、されるがままになって連れて行かれる。
その最中、先ほどの兵士に声をかけた。
「ちょ、どういうことですか!? 僕が何をしたんです!?」
「話は適切な場所で聞かせてもらうとしよう」
「だからっ! 何の罪で捕らわれるんですか!?」
「連れて行け」
まったく話にならない。
それに逮捕される覚えがまったくないのだ。
理不尽極まりない行動に再び声を上げようとするが、その時にカルロも同じように捕らえられて店から連れ出された。
「な、なんなんだ!」
「磨き屋のカルロだな。我々に付いて来てもらう」
「待て待て待て待て! 罪状は!? 理由くらい聞かせてくれたっていいだろう!」
「貴様が一番身に覚えがあるはずだが」
「無いから聞いているんだ!」
珍しく怒っている様子を見せたカルロだったが、怒り慣れていないというのが手に取るようにわかる。
兵士は怯む様子もなく、彼の言葉を無視して歩いていく。
それと同時に、二人は連れて行かれてしまったのだった。




