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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
368/422

14.15.守銭奴の薬師


 ようやく一息入れると、久吉はそのまま眠ってしまった。

 相当疲れていたのだろう。

 小さい体に無茶なことをさせ過ぎてしまった、と鎮身は今一度反省する。


 番傘屋のお爺さんに温かいお茶を出してもらい、それをすすってほっと息を吐く。

 緑茶とはいいものだ。

 良い茶葉ではないようだが、庶民にはこれで充分。

 口の中に苦みを残しながら肩の力を抜くと、自然と落ち着くような気がした。


「よいせっと。すまねぇな先生。無茶させちまって」

「予想以上に多かったですが、ままなんとかなりました。お気になさらず」

「坊主もよーやるわ。遠いところから歩いてきたってのに」

「根性があります。それに、わたくしめの仕事をよく見ている。よい薬師になるでしょうから、村の方は後二年もすれば任せられるやもしれませぬな」

「将来が楽しみだなぁ」


 お爺さんは熱いはずのお茶をぐっぐっと飲んで大きく息を吐いた。

 熱をあまり感じないのだろうか。

 少し心配しながら、鎮身はゆっくりと茶を口に含んだ。

 ……やはり熱い。


 患者の流れが途切れると、その日はもう患者は来なかった。

 礼として差し入れを持ってきてくれた人がいるが、その大半は持ち帰るのは難しい代物だったので、とりあえずこの家に置かせてもらうことにしている。

 持ち帰れるものは、できる限り持ち帰る予定だ。


 今日は久吉が歩く元気がないと思うので、ここに泊まって朝方出立することにした。

 一日厄介になるが、お爺さんは快くそれを承諾してくれた。


「そういえば、今日はあのおチビさんを見ませぬな」

「あいつは孫だからな。今日は親の所にいるんだよ」

「なるほど、それで」

「いねぇ方がお前も楽だろ。付きまとわれちまうぜ?」

「はははは、それは大変そうですなぁ」


 あの子は久吉よりも少し年下だろう。

 加減を知らないくらいの年齢なので、今日いなかったのはありがたかったかもしれない。

 いたとしてもお爺さんが何とかしてくれるだろうが。


 すると、お爺さんがこちらを見てきていることに気付いた。

 小首を傾げると、はっとして詫びを入れる。


「すまん。本当に盲目なのか気になってな」

「目は見えませぬな。ほら、白いでしょう?」

「ああ、確かに……。だが、よくそれで診療ができるもんだな……。何人か不思議がってたぞ」

「元より色を知りませぬ故なぁ……。しかし形が分かれば何とかなるものです。代わりに鼻と耳がよくてですな。診療にはこれを使います」

「へぇ、音と匂いで分かんのかい」

「分かりますな」


 感心したように、ほぇーと言葉を漏らす。

 大したことをしているという自覚はないのだが、やはり目が見える者からすれば、鎮身は異質な存在なのだろう。


 だが人の役には立っている。

 この自分にしかできないことが世のためになるのならば、一人でも多くの人々を救っていきたいと常日頃から考えていた。

 だがやはり、あの話が気になった。


「……お爺さん」

「なんだ?」

「やぶの話を聞かせて頂いてもよろしいですかな」

「守銭奴の山喜(やまき)か」


 その薬師は、山喜という名前らしい。

 恐らく一週間後、鎮身がまたここに来る頃には、彼はこちらのことを把握しているはずだ。

 商売の邪魔をされていると文句を言いに来るのは目に見えている。


 だが、そもそも腕がよければ、住民は他の医者を必要とはしないのだ。

 彼の中に大きな問題があるからこそ、住民は他の救い手を求める。

 至極単純なことではあるが、それに気付かないのだろうか。

 救うべき者たちに『守銭奴』と付けられている時点で、もう底が知れているような気がした。


「して、どの様なお方で」

「前に言った通りだよ。効きもしねぇ薬渡して、二度、三度と診療させに来させて金を巻き上げるんだ。薬草を煎じていたところなんて見たことがねぇ。本当に医者かどうか怪しいわ。たけぇ時は一朱銀(いっしゅぎん)なんてせしめやがる!」

「い、一朱銀!?」


 一朱銀とは、二百五十文……。

 つまり一文が二百五十枚集まった数と同等の価値を持つ、銀の硬化のことだ。

 一回の診療でそこまで要求するなど、鎮身にとっては考えられなかった。

 傷口の治療をした時だとしても、そこまで取るなど考えたこともない。


「は、払えなかった場合は……」

「そりゃ借金させんのよ。あいつ、高利貸しと伝手があるみてぇでな」

「結託しているわけですか……」

「ああ」


 予想以上に面倒くさい関りを持っている様だ。

 ここで商売をしていると、他の人たちにも迷惑が掛かりそうである。


「だから次はあの用心棒、連れてきた方がいいぜ」

「それで彼の名誉は挽回されますかな」

「あいつ次第じゃねぇか?」

「ふむ、確かに」


 なんとなく話はまとまってきた。

 十中八九、仕事の邪魔をされないように何か仕掛けてくるはずだ。

 とはいえ、その様な関わりを持っている薬師など、本格的に潰してしまった方がいいのではないだろうかとも思う。


 なんにせよ、少し力のぶつかり合いが発生しそうであった。

 一週間後は今日見た患者の容態を確かめなければならないので、何が何でもここに来なければならない。

 村の方では病人も怪我人も居ないため、こちらに集中できそうだ。


「次来る時が、山場ですな」

「俺が言うのも何だが……大丈夫か? 俺がもっと慎重にこのことを話して居れば、静かにあいつらも来てくれたと思うんだが……」

「流れてしまった噂は、そう簡単に抑えれませぬ。むしろそれで救うことのできる者が増えたと思えば、悪い事ばかりではありませぬ故な」

「……懐がふけぇな、あんた」

「ほとんど薬のことで埋まっておりますがな」

「はははは! なんだそりゃ!」


 それから少し談笑したのち、就寝する運びとなった。

 一週間後……どうなるか分からないが、とりあえずあの男を連れてくることは、鎮身の中で決定していた。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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