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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
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14.11.大澄の実力と鎮身の実力


 久しぶりにぼ~っとできる時間ができた。

 何もせず、ただひたすらに縁側で日を浴びる。

 そうしていると、いつもは聞こえない音が良く耳に入って来て、周囲の状況を教えてくれた。


 草が風に揺られる音に混じって、シャクシャクと草を食べる虫の音が聞こえる。

 バヂヂッと驚いたように羽を広げて飛び上がるバッタ。

 素早く動き回る蜂が花を見つけてその蜜を吸うためゆっくりと降りる。

 ケーンと鳴く鷹の声、獣が遠くで走る音。

 様々な音が聞こえているのだが、それは最後に、決まって水が流れるような音にかき消される。


 サァー……サァー……。

 時折ポコッという泡立つ音も、小さく聞こえてくる。

 これは一体何だろうか。

 その音が一番大きく聞こえる場所は決まって、家に生えた大きな桜の木だった。


 樹木が息をしている。

 根から吸い上げた水が全身をめぐり、日光を浴びながら吹いて来る風に揺られた。

 更にそれを聞いていると、今度は大地の下に流れる何かを感じ取ることができる。

 なにかは分からない。

 しかしすさまじい熱量、そして力を持った何かが、ゆったりと決まった場所を流れているのだ。


 そしてその流れが少し漏れた場所は、決まってよく育つ良い土を使った畑があった。

 鎮身の家の畑も、この流れが真下にある。

 そのせいか、やはり庭にある畑で育つ作物は、良く育った。


「──」


 息を吸う感覚が長くなる。

 本当に少しずつ空気を吸い込み、ゆったりと息を吐きだす。

 時折息をしながら息を吐いているかのような感覚、喉の奥で空気が循環しているようになるが、ふと思い出したかのように息を大きく吐き出した。


「ふー……」

「……俺じゃお前に勝てねぇな」

「あや、いつの間に」


 いつの間にか、縁側に大澄が座っていた。

 鎮身がこうしてぼーっとして、水の音を聞いている時は周囲の音や感じる匂いが鈍ってしまう。

 もしかすると、それ程集中しているのかもしれない。


 大澄は諦めた様にゴロンと寝転び、頭の後ろで腕を組んで空を見た。

 飛んでいた鷹が森の中に急降下していく。

 大方獲物を見つけて襲いにかかったのだろう。


「お前すげぇな」

「はて、何がでしょう……」

「いやさ、俺もさっきここに来たんだけどな? 目の前にいるお前に気付かなかったんだよ。自然と同化してる感じだった」

「同化……ですか。これまた大きく出ましたな。そんな仙人のようなこと、わたくしめにはできますまい」

「できてたんだーっての……」


 一体何をしていれば、そこまでの境地に足を踏み入れることができるのか大澄は理解不能だった。

 彼自身そんなことができるような人物には一度も出会たことがないし、話だけは知っていたが本当にできるような人間がいるとは思っていなかった。

 しかし実際にそれができる人物が目の前にいることに、半場諦めた様子で虚空を眺める。


 自分も曲がりなりにも侍だ。

 剣に多少の自信はあるし、自尊心ももちろん持ち合わせている。

 だが実際は、そんな雀の涙ほどの自信も、くだらない自尊心も持ち合わせていない、平々凡々な生活を望む者こそ、仙人に近しい人物なのかもしれないと、この時知ってしまった。

 つまり欲がないのだ。

 日々の平和な生活を望む者こそ、この世の頂点に立つのが最も理想なのかもしれない。


「ああ、そういえば」

「あん?」

「大澄殿は何故このような村に来ることを承知しなすったので?」


 そろそろ聞いてもいい頃合いだろう。

 どちらも暇で、一人は縁側でぼーっとして、一人は話し相手が欲しくてここを訪れたのだ。

 であれば少し聞いていなかったこと……というより、疑問に思っていたことの答え合わせをしようと鎮身は考えた。


 彼の背中の家紋は武家の証。

 それも鎮身でも知っている家紋であり、この辺りを治める領主の重鎮であるようだった。


「ああー……まぁ。見聞広げてこいって親父に言われてな」

「……良い年でありましょうに、子供のようなことをせずとも」

「あれ? 俺の歳しらねぇんだっけ」

「聞いておりませぬな」

「二十一」

「!? え、に、二十一、にございますか? そ、それにしては声も歩き方も……なんというか、どっしりしておられるというか……」

「がははははは!! 気ぃ使う必要はねぇよ! つまり老け顔なんだわ俺! はっはっはっは!」


 てっきり三十を過ぎて後半に差し掛かろうとしているくらいだと、勝手に思っていた。

 声も野太く力強いし、歩き方はまさに四十台くらいの剣術を嗜んでいる者の凄味を有している。

 その歳でこれだけの凄味があるなら、二十年後には化けているかもしれない。


 予想以上に若かった大澄に面くらいながら、なんとなくここに派遣された理由が分かった気がした。


「……番傘屋のお爺さんとの面識と……指南役を受けてくださったこと……。しかし武家の家紋を背にしているということは……。大澄殿。失礼を承知で伺いますが、勘当されなったか……?」

「え、なんで分かったんだ!?」

「家への嫌がらせで家紋の刺繍が入った羽織を着ておられますな?」

「なんで分かんだよ!!」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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