13.32.中夢
テールたちは足早にメルたちがいる場所へと向かった。
到着してみると槙田以外の全員が地面に座って休憩しており、アイニィはけがの手当てをしてもらっている最中だ。
それに気付いたレミが、駆け足で駆け寄った。
「あらら、結構派手にやったわね」
「レミさんお帰りなさい。お願いできますか?」
「いいわよー。治れ」
ぽう、と淡く白い光がアイニィを一瞬だけ包むと、傷は完全に癒えていた。
その効果を肌で感じたアイニィは目を見開いて傷があった箇所を触る。
傷は綺麗に塞がっており、触っても痛くない。
古傷になりそうな大きな切り傷もあったはずだが、それが見る影もなくなくなっていた。
「わ、わ……。ありがとうございます」
「どういたしまして。ガルマゴロ、強かった?」
「強かったです。二人が居なければ勝てませんでした」
「じゃ、次の課題が見えて来たわね」
「はい」
メルはすぐに頷いた。
まだ自分がやらなければならないことは多くあり、力を付けなければならない時は今だ。
このままではいけない、という決心がその目に宿っている。
そのやる気に気付いたレミは、感心したように小さく頷いた。
協力したとはいえ、あのガルマゴロを倒したのだ。
幻術だったとしても、その実力は本物と遜色はなかっただろう。
であれば、今までのように水瀬や自分が相手をしていてはいけない。
そろそろあの人物に出てきてもらうべきだ。
「善さん」
「なんだ」
「メルちゃんの修行、葛篭さんに任せられますかね」
「葛篭か」
木幕は少しだけ悩んだが、すぐに頷いた。
それは、魂の中で木幕を二度打ち負かした実力を持つ、彼を抜いて最強の人物との稽古が始まるという事。
木幕もそれに納得したということは、彼の稽古に耐えられる域にまで来ているということだった。
遠回しではあったが、メルはその答えを二人の会話の中で見出した。
嬉しかったが、満足してはいけない。
緩んだ口元を再びきつく結び、真剣に二人の会話に耳を傾ける。
「……槙田は、どうだ?」
「ああぁ……? いいんじゃねぇかぁ……?」
「ほう、お主が退くとは」
「ははははぁ……なにを言う木幕ぅ……。まだこいつはぁ……俺の剣を受け止められねぇ……」
そういいながら、槙田は怪しく笑った。
葛篭に挑めるのだから、それはないだろうとメルは心の中で愚痴を吐くが、木幕はそれを否定しない。
むしろ目を瞑って頷いた。
「もう少しではあるがな」
「ああぁ……。葛篭がおわりゃぁ……俺の番だぁ……」
彼はこちらを見ながらそう言い、魂に戻って木幕の中へと帰っていった。
確かにメルはまだ仙人の仲間たちとは数人としか戦っていない。
それなのに強いと言われている葛篭との修行になるというのは、考えてみれば違和感がある。
なにか、彼らは考えているのだろうか。
『ふぁ~』
「おわわわわっ!?」
「ど、どうしたの?」
「ご、ごめん……。急にこの子が喋ったからびっくりしちゃって」
『悪かったねぇ』
テールは新しく手元に来た小太刀を、腰から抜いた。
彼は男の子の様で、可愛らしい声が聞こえる。
しかし話し方のイントネーションがばらばらだ。
言っている意味は分かるが、訛が濃く残っているように思える。
『てかぁ、自分の主はどこゆったんだ? 死んだか? 自分奇術使うってことは、そーゆーことかもしれんけど』
『『うわ、こいつ京の出か』』
「きょ、京?」
『なんぞ、あんさん京の都知らんの?』
『『この世の人間が知る訳ないでしょ』』
『そかー』
なんだか聞いていると頭が変になりそうだ。
というより口調が移る気がする。
さすがにここまではっきりしている訛は聞いたことがなく、そうなる可能性は低そうだが。
「えーっと、お名前聞いても?」
『自分? 中夢。自分打った刀匠が夢ん中出てきた形の刀を打ったらしいんよ。ってことでこんな銘付けてもらった』
聞き取りにくい……。
長く話されると本当に聞きにくい気がする。
「おおーい、帰るよー」
「あ、了解です! っていうか皆、立てる?」
「「大丈夫」」
「よし、じゃあとりあえず帰ろう!」
いつの間にか馬車の方にまで移動していたレミが、座って休んでいた全員を呼ぶ。
皆が立ち上がって馬車へと向かい、乗り込んだ。
それと同時にどっと疲れが出たようで、メルたち三人はすぐに寝てしまった。
「……レミさん、メルたちが戦ったのって……」
「ま、それは言わないでもいいでしょう。戦ったのは事実だし」
「そうですね」
会話をそこで終わらせ、レミは御者を担う。
そうしてゆっくりと、馬がキュリアル王国へ向かって歩いていったのだった。




