13.31.慈悲無き刃
「……勝負あったな」
ふと、木幕がそんなことをいった。
確かにこの状況を覆すことは、今の東守では不可能だろう。
様々な環境を作り出し、それで攻撃を仕掛けるも、全てが氷魔法で制圧されている。
炎も雷も、ましては手数で攻める樹海のツタですらも全て凍りついて崩れ去った。
それを悟ったのか、ようやく幻術は解かれる。
周囲にはリヴァスプロ王国の人間だと思われる人物が地面に倒れており、ガルマゴロとキュバロックの死骸も転がっていた。
がっくりと項垂れながら、ガルマゴロに近づく。
今まで自分を守ってきてくれた存在。
何が気に入ったのかは知らないが、よく言うことを聞いてくれた。
「……ごめんねぇ……」
東守は、自分が殺されたときのことをよく覚えていた。
魔法を使えばどんなに強大な敵でも太刀打ちできる術を持っているのに、それを一切使わなかった。
守られてばかりで、自衛をしなかったのだ。
だからこそ、二匹に悲しい思いをさせてしまった。
しかし今は……自分が悲しむ番である。
彼らが『守れなかった』という悲しみを、今は自分が受けているのだ。
この二匹も、当時は同じ気持ちだったのだろう。
津之江がとてとてと歩いてくる。
彼女は目も合わさず、声をかけることもなく通りすぎ様に東守の首を刎ねた。
その無慈悲な一撃は、簡単に彼女の命を奪い取る。
ガルマゴロの上に覆い被さるように倒れた東守の手から、小太刀とその鞘を取り上げて手に中でくるくると回して遊ぶ。
そんな調子で、彼女はこちらへと戻ってきた。
「戻りましたぁ~……ってまだ浮いてるんですか? 降りてきてもいいですよー」
「善さん」
「ああ」
ふよふよと三人を乗せた葉の絨毯はゆっくりと地面に着地し、少しずつ崩れてどこかに逃げていく。
テールが地面に足を付けたことを確認すると、津之江が歩いてきて手に持っていた小太刀手渡す。
「じゃ、お願いね」
「……は、はい。分かりました」
津之江の笑顔が恐ろしい。
ひきつった笑みを浮かべながら、テールはそれを丁寧に手に取った。
声が聞こえるかどうか確認するため、その小太刀をまじまじと見る。
装飾は一切なく、鞘も黒一色で一切の華やかさはなかった。
しかし鍔の装飾は非常に凝っており、美しい彫刻が浮き出ていた。
これは山だろうか。
その奥に鷲が大きな翼を広げている。
「もしもし。聞こえますか?」
『──』
『『……喋らないね。ていうか起きてる?』』
「え、あれだけ戦ったんだから起きてるでしょ……? あ、あのー。もしもーし」
『ぐぅ……』
「寝てる……?」
図太い精神を持っている小太刀に、テールは呆れを込めて苦笑いを浮かべた。
主が一生懸命戦っているというのに、こんなにも堂々と寝ていられるのだろうか。
とりあえず小太刀を帯に差し込み、帯刀する。
今まで灼灼岩金が居た場所なので、なんだか違和感がある。
長さが違うのだ。
そのせいで、物足りなさを感じた。
しかし、テールはその小太刀を見て少し怖く思う。
東守が使っていた魔法を、今は自分が使えるのだ。
明らかに他とは一線を置く強力過ぎる魔法。
隼丸の特殊移動も毒を操る不撓も、使いこなせば強力な魔法ではあるが、この小太刀の魔法は自分が都合のいい環境を作り出す。
それがどれだけ強い魔法なのかは、テールでもよく分かった。
不安を感じているということが分かったのか、木幕が肩に手を置いた。
びっくりして振り返ると、木幕は少し強めにこちらを睨む。
「……もし、己の手に余る奇術ならば、早々に研ぐといい。過ぎた力は、主に碌な結末を与えぬ」
「……はい」
木幕の言う通りだった。
自分にこの魔法を扱えるという自信が一切湧いていない。
使えばサポートしてくれるだろうが、やはりこの強すぎる魔法を使うのは躊躇われた。
それは守身番・十録も同じだ。
彼女の魔法は異形を生み出す。
あの蜘蛛の様な化け物と、一本角の存在、子供のような化け物。
あれらを使役できるような力は、テールにとっては過ぎた力だ。
それに、キュリアル王国を壊したような化け物を、使いたくはない。
だからこそ、研ぐ順番は今決まった。
「木幕さん。帰りましょう」
「……よし」
テールはそういうと、戦闘を切ってメルたちがいる方へと戻っていった。
それを追いかける形で、木幕も歩く。
「……私は、いつ研いでくれるのかしらね」
「津之江さんはもうちょっと先じゃないですか? ていうかテール君怖がってましたけど」
「おかしいわね。怖がらせたつもりないんだけど……」
「ま、かえりましょっか」
「そうね」




