13.18.まだ
作戦を話し合うのかと思ったら何を口にするのか。
そう思って木幕は呆れた様子でその場を離れようとしたが、中にいる水瀬が引き下がらない。
仕方なくその場に座り、耳を傾けることにした。
とはいえ、メルがテールに抱いている感情はもう知っている。
今更聞いても何も得はしないと思うのだが、思い返してみればそういう感情は修行の妨げになる場合がある。
そこだけは把握しておいた方がいいかもしれない。
盗み聴きというのはあまり好きではないが、そも水瀬がうるさい。
「えーーーーっとぉ……」
「……何もないの?」
「……ない……」
「追放されて追いかけて、しばらく一緒にいるのに?」
「まぁ前から鈍感だったけども」
「う、ううん……」
アイニィとコレイアも呆れている。
だがそういう気持ちになるのも、メルは理解できた。
だがテールは常に仕事一本で、あまり他のことには興味がなかったように思える。
それが今も続いているようで、振り向いてくれているのかいないのか、よく分からない。
「でも……」
「幼馴染だとしても、ちょっとはっきりして欲しいよね」
「うんうん。メルもそう思うでしょ?」
「それはそうだけど……。でも今テールは大事な時期だし、一生懸命だし邪魔しちゃ悪いし……」
「研ぎの修行? まだやってるの?」
「うん」
「ええ……仕事馬鹿だなぁ……」
この二人は、テールが木幕たちにどれだけ必要とされているか知らない。
そういう答えに辿り着くのは当然だ。
しかしメルとしても、自分だけが想っているだけでテールはそうではないような気もしてきていた。
自信がなくなってきた、といえばいいだろうか。
今も気持ちは変わっていないのだが、なんだかそう考えると寂しい。
「もう直接聞く?」
「だだ、だめだめ! 集中してもらわないと駄目だし……!」
「めんどくさいなぁ……。いつまでも平行線じゃん!」
「そーだけどー……私もまだ強くならないといけないしぃ……余裕ないかも」
「「ううーん」」
二人には、それぞれ任されたことがある。
今は木幕の中に多くの侍が残っているが、いずれ居なくなることは決まっていた。
その時テールを守るのは、メルだ。
自分でもそれは分かっているので、今は余計なことを考えずに修行に集中しなければならない。
だが、何処かでその気持ちが足を引っ張っていることは事実だった。
テールは、魂を呪いから解放するために、今も修行に専念している。
灼灼岩金を研いだことにより、解放することができるという自信を身に付けたはずだ。
これからどんどん、魂はいなくなる。
制限時間がどれだけ残っているか分からない今、テールはとにかく急いでいるようにも思えた。
「と、とにかくこの話は無し!」
「「ええー」」
「ええーじゃない! 今はガルマゴロでしょ」
「まぁそれはそうなんだけどねぇ」
そう無理矢理話を区切ったメルは、本格的にガルマゴロをどう倒すかを考え始めた。
アイニィとコレイアもそれに乗っかり、真剣な顔で考えている様だ。
とりあえず、メルは気持ちこそ変わっていないが、今は押さえ込んでいる様だ。
自分がなすべきことをしっかり理解している。
それに満足したが、テールがどう思っているかという不安を抱えているのは事実。
少しはっきりさせておいた方がいいかもしれない、と面倒くさそうな顔で考えていた。
『もちろん行きますよね? 木幕さん?』
「……水瀬……お主、くどいぞ」
『私もはっきりした方がいいと思います! ええ!』
「何故津之江も便乗する。聞くのであらば、遮断するぞ」
『『ええええええ!!?』』
「当たり前であろうが」
そこから何度かヤジが飛んできて、木幕の頭がカクカクと動く。
あまりにもやかましいので今から遮断した。
軽く頭を振るい、せいせいしたようにため息を吐く。
「……はぁ、聞いてやろうか」
木幕は重い腰を上げた。




