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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
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13.15.東守と獣と虫


 颯爽とギルドの一階へ降りてきたテールは、早速木幕を探す。

 だがここには居ないようだ。


 いつも通り怪我人がごった返しており看病をしている医療班に疲れの顔が見え始めている。

 昨晩木幕がナルファムを呼び出したところから、空気が重い。

 誰もが不安を抱えているのかもしれなかった。


「あ、テール君。おはよう」

「ん? あ、アイニィさんおはようございます」


 メルの元パーティーメンバーだったアイニィが、武器を肩に担ぎながら挨拶をしてきた。

 丁寧にあいさつを返し、軽く会釈をする。


「誰か探してるの?」

「はい。木幕さんたちを……」

「仙人様だったら外にいたけど。あっちの井戸の方」

「ああ、そうなんですね。それじゃ向かってみます」

「はいはーい」


 そそくさとその場を後にして、井戸の方へと向かう。

 しかしなんだか、アイニィは昔に比べてテールへの当たりが柔らかくなっているような気がした。

 やはり今回の一件は大変なことにはなったけど、研ぎ師に対する考えを改めることになったのだろう。

 嬉しくはあるが、素直に喜べないのがこの現状である。


 足早に井戸へと向かってみると、確かに木幕がそこに立っていた。

 どうやらメルもいるようで、同じ様に日の光を浴びて黙祷をしている。

 声を掛けようと思ったが、なんだか邪魔してしまいそうだったので少し離れたところで二人が楽にするのを待った。


『『で、テール。何か聞けたの?』』

「あ、起きた?」

『『うん今起きた。で?』』

「ちゃんと藤雪さんと話せたよ。獣と虫の魔物……。その二体が東守美音っていう人を守っているみたい」

『『東守美音? んー、僕はそんな人知らないなぁ』』

「逆に知ってる方が凄いけどね」


 乱馬と水瀬が知り合いであったように、東守と誰かが知り合いだったという偶然はそうそう発生しないだろう。

 それこそ奇跡だったのだ。

 普通は手探りで侍の情報を集めなければならないのだから。


『洗脳……幻術……。幻術、でございますか……』

「忍びって幻術とか使うんですか?」

『いえまったく、まったく使いません』

「あ、使わないんだ」

『というより、ほぼ、ほぼ使えません』


 どうしてそういう認識が組み込まれるようになったのかは知らないが、忍びも人間。

 卓越した動きを見た者が目の錯覚を起こしてまるで分身して見えた、とか先ほどまで正面にいたのにいつの間にか後ろに回っていた、などと言う話しはあるが……。

 実際に人間を惑わせる能力など誰も持っていないのだ。

 精々幻覚作用のある毒を盛るくらいである。


 そういう方向性で行くのであれば、乾芭はそういう毒を幾つか所持していたので、何度か敵を混乱させて、その隙に情報を収集するといった技を使ったことがある。

 どちらにせよ騒ぎになるし、時間との勝負になるので警備が厳重なところでしか行わなかったが。


「じゃあ東守って人は忍びではないのかな」

『……ああ、なるほど。確かに、確かにそうですね』

『『もしかしたら本人はそこまで強くないのかも』』

「戦う術は持っていない、って藤雪さん言ったよ」

『『じゃあ楽勝じゃん!』』

「いや、問題は二匹の魔物だよ……」

『『ああ、そうか』』


 そこで、木幕がゆったりとした動きでこちらに振り返る。

 それに気付いたのでテールはすぐに近づく。


「おはようございます」

「あ、テール! おはよう!」

「おはよう。して、どうであった」

「しっかり話を聞いてきました」


 そう言って、先ほど隼丸と不撓に教えたことをもう一度繰り返す。

 だが二体の魔物の事はすでに把握していた様だ。

 因みに東守美音という人物は、木幕の中にいる仲間でも誰一人知らないらしい。


「戦う術は持っていないようです」

「……左様か。であれば問題は獣と虫か」

「昨日の話し合いでキュバロックについては対策ができてるんだけど、ガルマゴロの対策は決まってないんだよね……」

「あ、そういう名前なんだ……。それと……その魔物たち。東守さんに懐いてるみたいです」

「……操っているわけではないのか」

「そう聞いています」


 ガルマゴロ、キュバロックのどちらもが、東守に懐いて行動を共にしている。

 笛の音を気に入って凶暴性を失ったガルマゴロと、助けられて生き延びたキュバロック。

 だが、その二匹が数百年前に直面した事件は、彼らにとって耐えがたいものだったはずだ。

 だからこそ、藤雪に命を奪ってほしいと、彼らなりの方法で訴えかけた。

 残念ながらその思いは届かなかったようだが。


「もし、もし東守っていう人をを倒すなら、二匹も倒さないと」

「であれば、討って出るしかあるまいな」


 そう言って、木幕はメルを見る。

 昔に比べてずいぶん様になった出で立ちは、大抵のことであれば任せられそうであった。

 それはテールも同じであり、彼女を知るにはその二匹を知る必要がある。

 少しの間思案していたが、最後に木幕は小さく頷く。


「テール、メル」

「「はい」」

「支度せよ」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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