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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十三章 進軍、キュリアル王国
333/422

13.12.生態


「「キュバロック?」」

「……?」

「初めて聞いたな」


 メルとコレイアは小首を傾げ、ナルファムもクエスチョンマークを頭上に浮かび上がらせた。

 やはりアディリダスも知らなかったようで、静かにそう呟く。

 もちろん木幕と西行も知らなかったらしい。

 彼しか知らない魔物なのだろう。


「ちなみにだが、ガルマゴロはレッドウルフの亜種だ」

「「え!?」」

「誠なのですか? 柳様」

「ああ、そうだとも。しばらく共にいたから覚えている。ふむ、この世の言い方を真似るのならば、レッドウルフが進化するとガルマゴロになる。条件は少々厳しいが……共食いをすることだったはずだ」


 なにがどういう原理でそうなるのかは、さすがの柳にも分からない。

 だが昔家臣から聞いた話はしっかりと覚えていた。


 ガルマゴロ。

 レッドウルフ同士が縄張り争いで誤って肉を喰らう、もしくは確実に殺す意思を持って仕留めた後に肉を喰らうことで、ガルマゴロに進化する。

 これは誰も知らない事であったらしく、家臣も実験によって知ることができた面白い成果だと自慢げに語っていた。


 だがもう一つ面白いことがある。

 誤って肉を喰らったレッドウルフは、しばらく共食いをしなければレッドウルフへと退化するのだ。

 それはまるで罪を償うかのようなものであるな、と柳は感じていた。


 しかし、確実に殺す意思を持って肉を喰らったレッドウルフは、生涯ガルマゴロとして生きていかなければならないらしい。

 その寿命は千年以上。

 常に肉を求め彷徨う最凶の魔物だ。

 骨格は変化し、肉質も大きく変化して打撃、斬撃をものともしない強靭な体質を手に入れる。

 更に能力も追加され、狙いを定めた対象の感覚を大きく鈍らす。


 その感覚は特に逃走する獲物に対して有効だ。

 移動距離や回避などといった行動に大きな制限が付与されるらしく、数キロ移動したと思っても実際には三十メートルしか進んでいなかった、ということもあるようだ。

 今の話を聞いた西行は、ああ、と納得したように声を漏らす。


「だからあの幻術使い、すぐに僕の下に来たのか……」

「なにかあったのかい?」

「相当逃げたはずだったけど、すぐにがるまご……? と幻術使いが追って来てね」

「ではやはり、なにか制限が掛けられたのだろう」

「厄介な」


 その反応に柳は小さく笑った。

 だがすぐ真剣な表情に戻り、説明を続ける。


「ガルマゴロは進化した直後は非常に凶暴で、生き永らえ続けると知恵を得て獲物を狩る。更に生きれば奇術を得るし、更に生きれば言葉を理解する」

「魔法でなければ仕留められないんですよね」

「その考えは甘い」


 コレイアは確認のつもりで聞いてみたが、柳は真正面から反論する。


「ナルファム。ガルマゴロの討伐記録はあるか? もしくは覚えているかい?」

「今でこそ生きた化石のような魔物ですが、その脅威度から恐れられていたので歴史にもしっかりと残っています。冒険者の中で知っている人は既に少なくなっているでしょうが……最後に討伐された記録は七百年前のはず。そこには魔法で仕留めたと記載があるはずですが」

「……あっ」

「さすがメルだな。分かったか」


 長らく彼らと共に旅をし、彼らのことを知っていたからこそ、メルは『魔法で倒す考えが甘い』という理由をすぐに理解した。


 四百年前、木幕は神を倒した。

 それによって何が起こったかと言うと……『スキル』が付与されるようになった。

 個々に適性というものは確かに存在し、神様がそれを見てスキルを与える。

 昔は努力次第でスキルを得られたが、適性を神様から教えてもらうことによって努力の方向性は一本になるが、他のものは伸びなくなるのだ。

 魔法も、その一つであり、四百年前に比べると魔法の技術は凄まじいほど退化した。


 ガルマゴロを最後に討伐した記録は、七百年前。

 魔法の技術は恐らく木幕たちが使う魔法のように鋭く、卓越したものだったかもしれない。

 だからこそ討伐できた。


 しかし、今この時代での魔法で、少なくとも数百年以上生きているであろうガルマゴロを討伐できるとは到底思えない。

 柳の話からするに、その体質を手に入れるためには確かに数百年の月日が必要だ。

 その間に戦闘技術も知識も増えており、討伐は困難を極める。


 この答えを柳に言おうとしたが、神様が入れ替わったという事実を今この場にいる者たちが納得できるかどうか怪しかった。

 なので寸でのところで、くっと息を止めて出そうになっていたこど場を飲み込んだ。

 柳は『よく分かっているな』というような表情でこちらを見て、笑みを作る。


「昔は、無詠唱が使える者も多く居た。少なくともその域に立つ者でなければ、討伐はおろか戦う盤面に出る事すら怪しいだろう」

「そ、そんな……そんなに……強いんですか?」

「強かったよ」


 実際に戦った西行が、コレイアに向かってそう言った。

 魔法なしでは仙人の仲間で最速の彼が言うのだ。

 腕を奪ったのは違う魔物だが、なんにせよ一度戦ってその強さを肌で感じた。


 空を喰らいながら迫ってくる姿は恐ろしく、そして速かった。

 斬撃は効かず、更に奇妙な感触が手にまだ残っている。


「それで柳さん。どうやったら倒せるの」

「ガルマゴロは辻間程の奇術があればなんとかなるだろう。では次にキュバロックについてだが……」


 柳は再び腕組をして、キュバロックについて思い出す。

 そして次に出てきた言葉に、全員が口を開けた。


「あれは、殺せない」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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