13.5.大量
大きな日本刀を担いだスゥが、楽し気にスキップを踏みながら胸を張っていた。
とても上機嫌なのだが、それにはもちろん訳がある。
彼女の足元には数多くの獣が倒れており、今はそれを連れ添ってきた冒険者たちが必死に解体しているところだ。
獣の大きさは大小さまざまではあるが、どれも完璧なまでに首を落とされており、血抜きも比較的速やかに終わった。
というよりスゥ以外全く働いていない。
動けなかった、というのが最も適切だ。
手を出す間もなく終わってしまったのだから。
狩猟隊はキュリアル王国から少し離れた森の中へと足を踏み入れた。
相手は獣ということもあって、そう簡単には仕留められないだろうと思っていた。
こういう時最初に出てくるのは魔物だ。
それらを討伐しながら進み、獣の痕跡を探すところから始めるのが狩りである。
しかしスゥは彼らの話をすべて無視し、自由に動き回った。
勇気ある者がさすがに咎めたが、振り返って親指を立てる始末。
やはり連れてきたのは間違いだったか、と嘆息しながら今日の狩りは失敗に終わるだろうと覚悟していた。
だというのにこの成果。
スゥが向かった先には確かに獣が沢山いた。
どうやらそこは水飲み場だったようで、長い首を伸ばしながら水を口に運んでいる動物たちの姿が多く見える。
それに風向きも考えられていて、自分たちがいたのは風下。
気付かれないように誘導してくれたことに気付いて、狩猟隊の面々は感心した表情となった。
さて目の前に獲物がいるのであれば、やることは一つ。
一人一人が獲物に狙いを定め、弓を引く。
だが次の瞬間、動物たちの首は落ちたのだ。
目の良いものにしか分からないほど、一瞬の出来事だった。
地面から薄く伸ばされた土が一瞬飛び出してきたのだ。
それはギロチンのように獣たちの首を刎ね、大量の獲物を確保してしまった。
唖然としている中、唯一喜びを露にしていたのはスゥだけだ。
彼女が魔法を使い、仕留めたのだと教えてくれる。
そして、今に至る。
「……凄まじいな……」
「あ、ああ。さすが仙人の仲間……。子供だからってなめてかかると秒で死ぬ」
「間違いないな……」
敬意と恐れを同時に抱きながら、獲物を解体していく。
その量は今いる国民たちが数日は食べていけるほどの量だ。
今晩食べきれないであろう分は干し肉に加工する必要があるので、帰ってからもまだ仕事は残っている。
一人だけ一足先に帰らせて、その準備をしておくようにしてもらっているので、戻ったらすぐに作業に取り掛かれるだろう。
獣の腸などは、スゥが掘り起こしてくれた大穴に投げ入れる。
土の下に埋めて置けば、この辺りの養分になってくれるだろう。
捌いた肉は部位ごとに分け、持参しておいた布に包む。
それをギルドが貸し出している魔法袋に入れておけば、しばらくの間腐ることもないし、痛むこともない。
小さい獣の解体が終わると、彼らは大きな獣を解体している仲間たちの手伝いに駆けつけた。
その間スゥは見回りを買って出ている。
血の匂いがこの辺りは急激に濃くなっているので、魔物が現れる可能性があるからだ。
その辺もしっかり理解していることに、狩猟隊の隊長は感心した。
もう彼から注意できることは、本当にない。
「……?」
「ん? スゥさん、どうしましたか」
「……」
コテッと首を傾げたスゥは、とある一点の方角に目を向けていた。
隊長もそちらへと視線を送るが、特に何もない。
木々や低木がある程度で、魔物の気配なども感じられなかった。
だがスゥは確かに何かを感じ取っているらしい。
難しい表情をしたまま獣ノ尾太刀を握り、魔法を使う。
彼女は広範囲を索敵することが可能であり、相当なことがなければ気付かれずに接近はできない程の技量を持つ。
ここから遥かに離れた場所から、足音が聞こえてくる。
相当な数であり、様々な物資を積んだ荷馬車や馬の足音も聞こえてきた。
大地が振動し、スゥにその感覚が伝わってくる。
一千……五千……?
いや違う。
一万、五万……まだいるように思える。
足音だけでどの様な装備を身に付けているかまでは分からないが、重量感がばらばらだということは分かった。
装備を身に付けている者、いない者がいるらしい。
なんにせよこれは異常事態だ。
スゥはすぐに隊長に掴みかかり、引っ張る。
「っ!! っ!!」
「えっ!? え、なな、なんですか!?」
「っー!!」
「もう帰るんですか!?」
「っ!!!!」
必死に帰路を指さすスゥに動揺した隊長だったが、これ程にまで必死になっているということは異常事態が迫っているのかもしれないと即座に理解し、その場を狩猟隊の面々に任せてスゥと共に帰路に就くことにした。
相当急いでいるようで、彼女は走っていってしまう。
それに喰らいつくように隊長は走っているが、距離はどんどん引き離されていく。
「すっ、すぅさああん!! 右! みぎぃ!!」
「っ!!?」
急ブレーキをかけて止まったスゥは、辛うじて聞こえた隊長の言葉に反応して間違えかけていた道を修正する。
あとはまっすぐ走るだけなので、後ろからの声は気にしなくなっていた。




