12.14.出陣
宴会の光景は消え去り、また違う光景が写し出された。
夜、松明も持たずに森の中を進んでいる。
木漏れ日のようにさす月明かりだけが頼りだ。
先頭には里川がいて、その後ろを里川一行がついてきている。
少数精鋭。
彼らにはこの言葉がよく似合う。
森の中を進むにつれて見えてきたのは、小さな村だった。
木の陰からひょっこりと顔出し、家の中を照らす蝋燭の火を確認した。
「ここか、隠れ里は」
「ずいぶんあっさり見つかったなぁ」
「大熊のお陰だ。よい情報網を持っている」
先日、山賊の頭である大熊から、海東と繋がりのある若手の忍を捕まえたとの連絡があった。
やはり若いため育成もまともに行っておらず、伝令約として走らされていたところを、運良く都を視察していた仲間が発見。
一つ見つけると、面白いことに芋づる式のように様々な繋がりが見えてきた。
若い男が気さくに手を上げると、上げられた方は『おお、久しぶり』と言いながら肩に触れる。
その時、小さな紙を手渡した。
二人はすぐに離れ、紙を持った男は女性とすれ違いざまにそれを手渡す。
ここだけで三人の人物に目星をつけることができたのだ。
あとは彼らを追っていくだけ。
一人は村に戻り、一人はよろず屋を出入りし、一人は遊郭に出入りしていた。
上にいくほど口が固い人物は多くなると思った大熊は、村に戻った男の後をつけ、道中で捕縛、尋問をした。
そしてようやく、隠れ里を発見するに至ったのだ。
「さて、ここからどうする」
「今回は場所だけ把握できればそれでいい。……からなっ!」
里川は地面にあった小石を握り、投げる。
するとこちらを監視していたであろう忍びがうめき声ながら木の上から落下した。
一人がすぐに反応し、止めをさす。
「器は鈍ってねぇなぁ」
「ふん、山で過ごせばそれなりにな。よし、撤収だ」
死体を担ぎ上げ、その場を後にする。
この場に自分達が来たということがばれると面倒くさい。
死体は川に投げ捨て、一行は仲間たちのもとへと戻った。
「場所の把握しかしなかったんですか」
「ああ、それで十分だったからな。海東家との距離はわかれば、どれだけの時間で攻め落とせばいいかが分かる」
「……え、もしかして……」
「この後、城に攻め込む」
次は一瞬で景色が変わった。
すると都が大火事に見舞われており、人々が消火活動を懸命に行っている。
もちろんこれは里川たちが起こしたもの。
城から離れた場所に火をいくつか放ち、城側へ炎が飛ぶように風向きを読んだ。
風が吹いて一気に燃え上がると、火の粉や炎が隣の家屋に火をつける。
火消したちだけでは手に終えず、兵士も共に動き出して消火活動を担う。
人が集中した時、里川たちは動き出す。
城の内部を知っている里川は見慣れた塀を走って通りすぎていく。
それに続いて仲間たちが走り、一度も戦闘をすることなく大手門へとたどり着いた。
流石にここで押さえられるか、と思ったがそうではない。
なんと門が開き、大熊が顔を出す。
「予定どおりだろ?」
「流石だ、大熊」
通りすぎ様に短い会話をしたあと、走る速度を落とさないように階段を駆け上がる。
海東がいるのは二の丸御殿。
倒れている兵士の屍を飛び越えつつ、持ってきていた梯子を塀に掛けさせる。
だが里川だけは塀を蹴って跳躍して飛び越え、抜刀してから走っていく。
後ろからは慌てる声が聞こえたがそれは一切無視して、目の前まで迫った障子を蹴破った。
ここは寝間ではない。
まだ奥にいかなければならないが、騒ぎを聞き付けた家臣たちがこちらに走ってきた。
だが彼らは里川と目があった瞬間、首を切り落とされる。
こちらは既に抜刀しているのだ。
現状を把握できるまで一瞬の猶予がある。
そこを狙ってしまえば人を切るなど作業と同じであった。
「……!? ……ざ、どがわ……」
「フン」
転がった頭を蹴飛ばし、前に出る。
ようやく到着した仲間も、縁側や室内を走って狙うべき存在を探し回っている。
目の前に来た兵士は切り伏せ、襖を蹴飛ばしていくと、遂に見つけることができた。
白い服を身に付け、ようやく事態を察したところだったらしく日本刀を片手に自分の味方を集めている。
里川が入って来た瞬間、即座に討ち取ろうとしたがそう簡単にはやられない。
灼灼岩金を横から大振りすると壁にあたってしまったが、壁すらも破壊しながら振り抜き、更に防ごうとした相手の日本刀をぽっきりと折って喉を掻っ切った。
その血しぶきが海東に降りかかる。
他の者は負けじと攻撃を仕掛けてきたが、里川は前転しながら腕を切り飛ばしたり、立ったと同時に切り上げたりと狭い空間の中で五人を相手取り、見事に全員を切り伏せた。
体中に降りかかった血を一切気にすることなく、ようやく海東へ視線を向ける。
「井島の仇だ。死ねぃ」
「里川ぁああああ!!」
突き上げ攻撃をひらりと躱した瞬間、酷い切れ味の灼灼岩金が、その脇腹を通り抜けた。
背骨にまで到達したようで、ずるりと引き抜くと臓物が零れ出る。
強い憎しみの表情を作りながら、海東は息を引き取ったのだった。




