12.13.山賊生活
景色がまた変わっていく。
それが鮮明になって見えた光景は、笑いながら火を囲んでいる山賊の一味だった。
移動をし始め、すぐに山賊は一つの村を襲った。
彼らは奪って生計を立てている。
故にどうしても定期的に襲う村を決める必要があったのだ。
だがこの報告は必ず由田家に届く。
まだ由田家が納める土地から移動できていないので、まずは海東家へと向かう道とは真反対の方角にある村を襲い、騒ぎを大きくした。
これは、自分たちの移動先を悟られないためだ。
道すがら村を攻撃しようものなら、どこに行ったのかおおよその見当がついてしまう。
それを誤魔化すために、あえて少し距離のある村へと向かったのだ。
里川と共にこの山賊の一味の仲間になった兵士たちの一定数は、やはり乗り気ではなかった。
裏切られたという事実がある以上再び忠誠を使うつもりはなかったが、山賊として生きていくのにまだ不安が残っていたのだろう。
そういう者たちには、無理に戦闘に参加させることはせず、馬や移動準備などを手伝わせた。
攻撃部隊が速やかに撤退できるような道を確認したりする下見役や、山賊の部隊を離れて先行し、行く都などの視察なども彼らの仕事に入る。
金銭を持って食料などを買いに行くことも任せられた。
生粋の山賊や、恨みを多く抱える里川たちは攻撃部隊となり、騎乗しての突撃が非常に多かった。
日本は起伏が激しく多くの馬が同時に走るのには適さないが、二十から三十騎であれば村を襲うのには十分な戦果となる。
そこから歩兵部隊が突撃し、逆らうものを切り伏せて物資を奪う。
ここまで本格的な役目が分けられるようになったのは、海東の治める土地に入ってからだ。
里川は彼に個人的な恨みが非常に強く残っており、周りの村から攻めて外堀を埋め、食料や物資、出兵に必要な若者を手にかけていった。
次第に脅威と捉えられるようになり、討伐隊も結成されるなどと言ったことが何度かあったが、なによりこの山賊の頭は情報網が広かった。
「……由田様のところで仕えていた時、お前らを捉えきれなかったのはこういう理由だったか」
「はははは、そりゃおめぇ、こちとら百人以上の仲間を持ってたんだ。そいつらの出所は様々で、情報収集なんてのは生まれ故郷をよく知っている奴らに任せればいい。そう難しい事じゃねぇぞ」
「そうかもしれんな。そんな簡単なことに気付かなかったとは」
「山賊も、馬鹿じゃあやっていけねぇってことよ」
「違いない」
焚火を囲いながら、酒を煽る。
今は村を襲撃した後の宴会を開いており、久しく手に入った酒を皆で楽しんでいた。
だが里川は一つ、懸念を残していた。
海東家の情報収集は、忍びを使うという事。
これはどこも同じだとは思うのだが、その規模はけた違いの筈。
いずれ居場所を掴まれ、由田を襲撃してきた輩のように強襲を仕掛けてくる可能性もある。
こちらの動きがバレてしまえば、村で待ち伏せに合うことも考えられるのだ。
「じゃあその前に、忍び衆の里を探すとするか」
「……できるのか? 探すこともそうだし、倒すことも考えねばならん」
「その通りだ。だがお前なら、見分けられるんじゃないか?」
「何故」
その理由が心底分からないといった風に里川は首を傾げたが、盗賊の頭、大熊は至極真剣な様子で笑みを浮かべる。
「武を極めた者が、百姓の中に紛れたとしよう。……紛れられると思うか?」
「ああ、そういう理屈か」
大熊の言っている理屈は、確かに理解できた。
平々凡々と暮らしている百姓の中に一人でも異質な者が混じれば、すぐに分かる。
忍び衆は村に隠れていることがほとんどだし、隠れ里でなければ強敵も少ないだろう。
最終的には隠れ里を見つけたいところではあるが、忍びを倒して尋問したとしても答えてはくれないはずだ。
であれば、忍び衆とつながりのある海東家の重臣を仕留めればいい。
彼らの方が口は堅くない。
だが機密情報であることは間違いないので、その辺の武将やくらいの低い家臣では存在すら知らないという可能性もある。
海東本人と近しい間柄の人物、そして彼の側に使える参謀であれば、知っているかもしれない。
「……となれば、忍びを探して情報を得る、か」
「ああ。あいつらは伝達をするために矢立てを持っているはずだ。炭なんかも使うがな。何か情報を記している物が見つかれば御の字」
「一つ思い出したのだが、海東のところの忍びは数が多い分、育成が半端だ。尋問も効くやもしれぬぞ」
「そりゃ初耳だな。じゃあその方向でも捜索を開始するかい。にしても、お前が来てくれて助かってるわ。仲間がまとまってきた」
「フン」
褒められるのは慣れていない。
酒を煽って飲み干し、また注ぐ。
この山賊をこのまま育てていけば、海東への復讐が叶う。
それを目的に今この場にいるのだ。
できる限りのことはしなければならないし、なによりこの目標はほんの一部だ。
最終的な目標は……棚田家を殲滅すること。
人生の歯車がそこで大きく狂ってしまったのは間違いない。
そして家族を殺した罪は、重い。
そこで大熊が、側に置いていた日本刀を見やった。
感心した様子で顎を撫で、それを指さす。
「いい刀だな」
「ああ、父上から授かった物だ。名を灼灼岩金」
「灼を二度も付けるたぁ、明るすぎる名だなぁ。どこの刀匠が打った」
「岩代の刀匠、名を密六といったか。炎に由来する名を銘にするのが好きな男らしい」
「ほう? 生粋の刀鍛冶って感じだな。しかしそいつは……」
「一度も、研いではおらん」
そうして見せた刀身は、少し刃が潰れていた。
ギザギザとなっている箇所もあり、一度本格的に研いであげなければならないのだが、それを里川は拒み続けていた。
その理由は、もちろんある。
「こっちの方が、いてぇだろ?」
「……くっ、くはははははは! ちげぇねぇ!!」




