11.45.騎士団の猛攻
先手を取った男に続き、今度は騎士団長のギムロスが大きく踏み込み、襲い掛かってくる餓鬼を五匹まとめて切り伏せる。
その攻撃も見事通っており、首やら腕やらが宙を舞う。
灰となって沈黙した後、次に襲い掛かろうとしていた餓鬼が足を止めた。
攻撃は喰らわないと思っていたのに、目の前の騎士団長と金の甲冑をした男の斬撃は、自分たちを殺せる力があったのだ。
まだ余裕のある冒険者もそれを見て驚き、疑問の声を口にする。
そして後続の騎士団が到着し、薙ぎ払うようにして餓鬼を蹂躙していった。
「ギムロス! 三手に分けろ!」
「承知いたしました! 三等陣形! 中陣!!」
『『『『おうっ!!』』』』
近場にいた餓鬼をすべて処理した後、部隊が三等分された。
すでに取り決められていたかのように、兵士たちが自分の役割を理解し、行動に移す。
三部隊は冒険者の下へと急ぎ駆け付け、彼らの持つロングソードでもって餓鬼を殲滅しにかかった。
約百名全員が、餓鬼を倒せる力を持っていたらしく、剣を振るう度に灰が飛び散っていく。
劣勢状態だった冒険者たちではあったが、敵を倒せる武器を手にした騎士団たちの増援によって危機を脱したように感じた。
未だ攻撃は通らないが、騎士団が動きやすい様にお膳立てする様に敵を押さえ込んでいく。
最後の処理を騎士団が担当し、状況は瞬く間に優勢へと転じた。
増援に駆けつけてくれたのは騎士団おおよそ百名なので、騎士団長含む中央部隊が少しばかり兵士が多い傾向にある。
彼らは最も厳しい状況だった場所へと駆け付け、その状況を打開した。
踏ん張っていたテールは未だ戦い続けている。
だがそれを、騎士団長と金の甲冑の男が止めた。
「限界だろ、お前」
「ぜぇー……! はぁー……!」
「よくやった」
肩に手を置かれただけで、体が鉛のように重くなった。
崩れる様に膝を着き、灼灼岩金だけは傷つけないように膝の上に置く。
だが膝を着いているのすらも難しく、そのまま横に倒れて仰向けになった。
ようやく意識が鮮明になってきたが、息を整えられる気が全然しない。
息をすること以外のことが億劫になっており、今話しかけられたとしても返事すらできないだろう。
そんなテールを見て、隼丸が呆れたようにため息をついた。
『『はぁ……。己の体は己が一番よく分かってるもんなんじゃないの? どうなの灼さん』』
『……それを後にしてでも、戦わねばならぬと思うたのだろう』
『『ふーん』』
『まったく……まったく分かりませんね』
『何故だ……』
忍びとしての考えが定着している不撓はともかく、隼丸が納得してくれないのは不満だった。
こいつには心というものがないのだろうか。
変なところが欠けている奴だ、と思いながら灼灼岩金は援軍に来てくれた騎士団を見やる。
彼らは完全に前線を押し上げており、状況を完全に打開した。
メルが急に持ち場を離れたのでどうなることかと思ったが、これであれば湧き続ける餓鬼も何とかなりそうだ。
あとは、柳が鎮身を討ってくれさえすれば……この割れ目も、黒い穴も消える事だろう。
しかし分からない。
何故冒険者は餓鬼を殺すことができないのに、騎士団は殺すことができるのだろうか。
騎士団が持っている武器と似ているような物を使用している冒険者もいる。
何ら変わりはないのだが、と思っていると、灼灼岩金はとあることに気付いた。
『……む? あれは……鏡面仕上げか?』
近くにいた兵士の持っている武器を見やれば、鏡の様に輝いているということが分かった。
だが冒険者持っている武器は、全てがくすんでいる。
明らかに砥石で研がれたものだと分かる違いがそこにあったのだ。
騎士団長と金の甲冑の男の武器も、鏡のように輝いていた。
そういえば、テールが研いでいた自分の武器と、ナイフも同じように輝いていたということを思い出す。
『なるほど。テールの師が、研いでいたのだな』
合点がいった。
テールの研いだ武器でなければ餓鬼を殺せない。
であれば、その研ぎを彼に教えた師匠の研いだ武器であっても、同じ事はできるのだ。
一人で納得していると、騎士団のギムロスが兵士に指示を出す。
割れ目から湧き出してくる餓鬼を徹底的に仕留めるつもりらしい。
冒険者も一応は警戒にあたっているが、もう意味がなさそうなほど任せることができている。
体力のない冒険者は既に座り込んで休息をとっている様だ。
金の甲冑の男はというと、テールの側にしゃがみこんでいた。
常に真顔であり、どういう感情を持っているか分からない。
灼灼岩金は彼に警戒心こそ抱いたが、テールに向けて何かしようとしているわけではないようだ。
すると、彼は懐から水筒を取り出す。
これまた見事な装飾が施されており、どうしてこんなものにまで派手にするのかと呆れてしまう。
「落ち着いたら、飲め」
「ぜぇ……はぁ……」
テールはコクリと小さく頷く。
喉は既にからっからだが、まだ水筒に手を伸ばせる程に息を整えられていなかった。
せめて上体を起こせるまでは、水筒を手にできないだろう。
しかし目線だけは動かせた。
彼の持っている少し短めのアーミングソードが視界内に入る。
それを見た瞬間、テールは目を見開いて首を動かした。
「ぞ……! ぜぇ、はぁ……! それっ……!」
「……君が研いでくれた、武器だと聞いたよ。磨き屋テール」
見間違う事のないその剣身と、輝き。
一度手にしたことがある武器は、意外と記憶の中に残っているものだ。
それが、自分が追放されるきっかけになっていた物であれば、なおさらである。
アーミングソードにしては短いが、恐らくこれは折れてから再加工したものなのだろう。
形状は崩さず、使えるところを上手く利用している。
彼にとっては、この長さが一番よく合っているようで、剣も喜んでいた。
それが分かったのは、あの時夢の中で聞いた声が、とにかく嬉しそうで、楽しそうだったからである。
『お久しぶりです! テール様!』




