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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十一章 カルロと番傘薬師
293/422

11.42.大きな割れ目


 大地が揺れる。

 冒険者も餓鬼も立っていられなくなり、その場で膝を突いてしまうがその揺れはすぐに収まった。

 だが……先ほど割れていた大地の裂け目が更に大きくなってしまっている。

 これが意味することはただ一つ。

 さらなる敵の追加……!


 冒険者は餓鬼を倒すことができないのであれば、割れ目に戻そうと何度か放り投げていた。

 しかし小さかった割れ目が更に大きくなって投げやすくはなったものの、這い出して来る敵の量が増えることは明白。

 あと少しすれば、新たに登ってきた餓鬼がよじ登ってくるだろう。


 さすがに焦りの色が見え始めた。

 あの黒い穴の様に大きなものではなかったが、それでもここにいる人数だけでは到底捌ききることができない。

 餓鬼たちを倒すことができればその限りではないのだが、今現在はテールとメルしか敵を倒す術を持っていないのだ。


 どうしようもないこの状況。

 それに加えて、鎮身の出現がその場を大きく狂わせた。

 柳は一体どうしたのだろうか、とメルが周囲を確認しているとき、鎮身の方から甲高い金属音が鳴り響く。


「逃げの一手とは……!」

「──」


 二撃目を繰り出そうとしたところで、鎮身は半透明になってその場から離れていった。

 それを追いかける形で柳はその場から消える。

 どうやら鎮身はあまり戦うつもりはないらしい。

 というより、戦うことを得意としていないから極力移動し続けているのだろう。


 それにしても、あの半透明になる魔法は強い。

 柳と同じく攻撃を喰らうことがないので、どうしても戦いが決着しないのだ。


「あれが……この事件の犯人でいいのよね?」

「そのはずです! あの傘を開くのが魔法の発動条件です!」

「なるほど……」


 柳と共に戦いに行こうか迷ったナルファムだったが、鎮身の移動速度は速い。

 追いかけても置いていかれるのがオチだと考えたので、やはりこの割れ目から出現し続けている敵を何とかしようと、視線を戻した。

 しかしいつの間にか近づいている可能性もある。

 警戒だけは怠らないように、緩めていた気を今一度張り直した。


 割れ目の方を見てみれば、ついに新しい割れ目から餓鬼が出現しているところだった。

 テールが冒険者に守られながら何とか動き回って処理し続けているが、追いついていないのが現場だ。


「はっ!!」

「そっち押さえろ!」

「了解任された!!」


 灼灼岩金で四匹の餓鬼を切り、横から襲ってくる餓鬼は冒険者が担当して転倒させる。

 他の割れ目からわらわらと湧き出している場所では大きな盾を持っている冒険者が、何とか踏ん張って押さえ続けてくれていた。

 状況を把握する者が二名ほどおり、あまり戦闘には参加せずに指示だけを飛ばし続ける。


 高ランク冒険者たちは、既に全員の行動パターンを把握して連携をしていた。

 盾約、援護役、遊撃役、司令塔と別れて状況を把握し続け、本当にギリギリのラインで防衛している。


 休息していたメルもようやく立ち上がり、ナルファムに声を掛けた。


「行けます!」

「よし!」


 同時に走り出し、テールの増援に向かう。

 餓鬼を倒せる者が二人となり、処理速度は一気に上昇した。

 ナルファムが再び指示を出し、遊撃役から援護役を三名ほどこちらに集めさせる。

 戦いながらすぐに部隊が編成されて餓鬼の処理が始まった。


 それとほぼ同時に、増援が駆けつけてくれた。

 彼らはナルファムの抜粋から落とされた者たち二十名ほどだったが、一日しっかり休息をとって万全な状態だったので、彼女の指示を無視してこちらに向かってきてくれたらしい。

 命令違反とは言わないが、アイニィを先頭として向かって来てくれた者たちの存在は心強かった。


「加勢します!!」

「情報共有に行ってまいります!」


 メルを護衛していた一人の冒険者が、風魔法を使用して援軍の下へと即座に駆け付けた。

 そして今の現状と、戦闘の方法を共有する。

 攻撃が効かないという話に驚きの表情を露にしたものの、日光で死滅しないと聞いて一気に気持ちを引き締めた。

 これが突破されてしまえば、昼夜問わず敵が跋扈することになってしまうと誰もが理解したからだ。


 そして増援が処理に参加する。

 まずは話が本当かどうか確かめようと、アイニィが槍を振るって餓鬼を突く。

 ゴムのような感触が手に伝わり、貫いたと思っていた肉体には傷一つ付いておらず、少し吹きとばされるだけだった。


「本当だ……!」

「ぎゃわ!!」

「む!」


 アイニィに餓鬼が襲い掛かってくる。

 即座に槍を振り回して足を払い、腰にあった解体用ナイフを抜いて心臓に突き刺す。

 突き刺す前に気付いたが、そう言えば攻撃が効かないのであった。

 この動作はゴブリンや小型の魔物によく使う彼女の手法であり、つい癖でナイフを使ってしまったのだ。


 刺さらないと分かっていた解体用ナイフだったが、その意に反して深々と突き刺さった。


「……あれ?」


 餓鬼が灰となる。

 槍では倒すことができなかったのに、この解体用ナイフでは倒すことができたことに困惑した。

 そこで、メルを見る。

 彼女は昔から使っている武器を振り回しながら、餓鬼を処理し続けていた。

 テールは知らない武器を使っているが……。


 そこで、自分が持っているナイフと、メルの武器の共通点を思い出す。


「あ! メルの幼馴染が研いだ武器! メルー!!」


 槍とナイフを持ったまま、アイニィはメルに近づく。

 そしてナイフを使いながら餓鬼を倒していき、灰にしていった。

 それを見てメルを守っていた者たちは目を見開き、また餓鬼を倒すことができる味方が増えたと歓喜する。


「え!? アイニィは倒せるの!?」

「違う! メルの幼馴染が研いだ武器だから倒せる!」

「ああああ!! なるほど!!」

「誰か短剣術を得意とした人はいますか!?」

「俺だ!」

「ではこれ貸します! 私は槍術なので!」

「なるほど、任された!」


 アイニィが彼に向かってナイフを投げると、見事キャッチして指の中で何度か回す。

 そして姿勢を低くして餓鬼に突撃しナイフを振るってみると、確かに倒すことができた。


「おお!」

「テール!! 研いだ武器を皆に配って!!」

「えっ!? わ、わかった!」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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