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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十一章 カルロと番傘薬師
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11.29.想定外の中の帰国



 キュリアル王国に近づくにつれて、その惨状が目に入ってくる。

 国を守る役目を果たしていたはずの城壁は崩れ、大きな被害が発生していた。

 だが攻城兵器などで攻撃を受けたわけではないようだ。

 被害の規模は国全土に広がっているらしく、無事な建物が一つもない。


 一体何が起きたら、ここまで崩壊するのだろうか。

 何が起きたのかまったく分からないまま、テールとメルはその惨状をただ茫然と見ているしかなかった。


 御者をしていた船橋がようやく馬の背から飛び降り、その場に馬車を止めさせる。

 人っ子一人居ないことに疑問を感じながら、改めて周囲を見渡す。


「……地震、かな。いやでも……なんか変」


 彼女の呟きは、馬車の中にいた全員に聞こえた。

 この被害の規模的に、大きな地震が発生したのだということが分かる。

 石材などで支えている家屋はその地震に耐えることはできなかったのだろう。

 

 しかし、妙なことに船橋は気付いていた。

 倒壊した建物、壁は復興されようとしている様子が一切見られず、家屋の支柱となっているはずの木材が消えている。

 柱の一本くらい見つかってもいいはずだが、まるでそれだけを回収したかのように掘り返され、あとは放置されているようだ。


 再利用しようとして回収したのだろうか。

 だがそれだけの余裕があれば、石材なども除去しているはずだ。


「人の気配はある。でも、少ない……。血の匂いもする」

「船橋さん、どうですか? 何か分かります?」

「人はいるみたいだよ。だけど血の匂いが濃いから、怪我人も多いと思う。これただの地震による被害じゃないかも」

「ですよね」


 長い間生きてきたレミも、この惨状を見るのは初めてだ。

 馬車からスゥと共に飛び降り、何があってもいい様に魔法袋から薙刀の柄を取り出す。


 スゥは地面に足を付けた後、すぐに魔法を使用して人がいる方角を指さした。

 この惨状の原因を調べるのには、やはり現地にいる人達に話を聞いた方がいいだろう。

 幸い、まだ人は残っている。

 だがそちらへ行く為には、徒歩での移動が必要になりそうだ。

 崩壊して家屋が完全に大通りを塞いでしまっており、馬車での移動が困難だった。


 その話を聞いて、テールとメルは馬車を降りる。

 木幕は二人の後に続いて馬車を降り、二人の肩を叩いた。


「諦めるはまだ早い」

「……」

「……はい」


 返事ができたのはメルだけだった。

 日本刀たちもテールを励まそうとしているが、あまり効果はないらしい。

 逆に不安を煽ってしまうのではないか、と思った灼灼岩金と不撓は早々に口を閉じた。


 だがメルも酷い不安に襲われている。

 ここで長い間冒険者活動を共にしたあの二人は、ギルドマスターは、屋台の叔父さんは?

 馴染みのお店、冒険者たち、仲のいい隣人たちはどうしたのだろうか。

 人付き合いが良く、誰からもよくしてもらったメルはそのことが気がかりだった。


 今から向かう先は、恐らく冒険者ギルドの道だ。

 町並みが変わりすぎて、ここが何処かのかすぐには分からなかった。

 だが辛うじて残っている冒険者ギルドの面影を残した建物が見えて、少し安堵する。


 そこは簡易的なバリケードが設置されており、数多くの冒険者が地面に倒れて寝ていた。

 死体かと思って驚いたが、そうではなかったのでほっと胸をなでおろす。

 次にギルドの中からは手当てを受けている者がいるようで、痛みを我慢したり医者がばたばたと大きな声を上げて走り回っていることが分かった。


「人は、まだ生きようとしているな。メル、あの場はお主が世話になった場所だな?」

「は、はい。そうです」

「ではお主に任せる。話を聞いてきてくれ」

「分かりました」


 木幕に任され、メルはすぐに冒険者ギルドへと走っていく。

 彼らも歩いてこちらに向かって来てくれるようだ。

 あとで皆に紹介することはできるだろうと思いながら、世話になった人たちの顔を久しぶりに見る。


 バリケードを越えて中に入ると、そこでもたくさんの人が地面に倒れて寝ていた。

 一般市民も防衛に参加していた様で、まともな防具も着ずに武器だけを手にして倒れている。

 全員が寝ているだけなので、命に別状はなさそうだった。


 だがここに運ばれてきている人々はそうではない。

 四肢が欠損したり、獣に齧られたような傷跡が生々しく残っており、睡眠を取りたくても痛みでまったく眠ることができていなさそうだ。

 医者は目の下に隈を作りながら、止血や縫合などを行っている。


 誰に話を聞けばいいのか、メルは悩んだ。

 何処を見ても忙しそうな人、話すことも困難な人しかおらず、声をかけあぐねていたところでメルに医者が指示を出した。


「ああ、そこの君! 手が空いているなら薬品や医療品を瓦礫から探してきてくれないか!? もう患者に使う包帯も消毒液も何もないんだ!」

「えっ、あの! す、すいません。私ここに今来たばかりで……! 何が起こってるんですか!?」

「旅人か……。だったらすぐにでもこの国と発った方がいい。手を貸してほしいのはやまやまだが……ここに残っているのはここで死ぬことを選んだ者たちなんだ。君がその仲間に入る必要はない」

「えっと! 私ここで冒険者やってたメルっていいます! ナルファムギルドマスターはどこに!?」

「メル……?」


 一際大きな声で自分のことを簡潔に話したところ、目も合わせようとしなかった医者や、周囲の患者、冒険者がこちらに顔を向けた。

 よく聞いてみれば、聞き覚えのある声だ。

 疲弊しきっている体ではもう声だけで誰かを判別することは困難だったが、名前を聞いてはたと顔を上げる。


 懐かしい顔が、そこにいた。

 周囲が少しざわめいたあと、今目の前にいる医者が目を瞠る。


「……メル……? 君! メルちゃんかい!?」

「そ、そうです! でもごめんなさい、貴方のことはよく……」

「私が一方的に知ってただけさ。以前薬草の依頼を出した者だよ。覚えてないだろうけどね」

「すいません……」

「いいってことさ。にしてもどうして今になって……。ああ、いや、嫌味じゃないんだ」

「大丈夫です」


 彼も疲れているということがよく分かる。

 今の様な言葉が自然と出てしまうのも、無理のないことだ。

 それに、今のは『どうしてもっと早く来てくれなかったのか』という意味ではなく、『こんな状況だから来てほしくなかった』という気遣いが伺えた。

 本当はこうしたことを口にしたかったのだろうが、今の精神状態ではそれも難しいだろう。


 だが今は、この現状の原因を聞きださなければならない。

 メルはすぐに話を戻し、何が起こったのかを問うた。


 すると医者は、思い出すのも嫌だという風に目を閉じて身震いしたが、すぐに目を開いて口を開く。

 その時だった。


「メルーーーー!!」

「おわああ!?」


 急に横から強い衝撃を受け、メルは倒されてしまった。

 一体何事かと思って抱き着いてくる人物を何とか引きはがしてその顔を見てみると、長い金髪の女性だということが分かる。

 だがその髪はぼさぼさで、手入れがされていないということが分かった。

 ただでさえ癖っ気なのではあるが、毛先は泥が付いている。

 それを払い落とそうともしない彼女は、体も心も、ボロボロ。

 泣きじゃくっているパーティーメンバーの一人だったアイニィが、更に強く抱きしめてきた。


「アイニィ!?」

「わああああん!! めぇええるぅううう!!」

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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