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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十一章 カルロと番傘薬師
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11.24.Side-ナルファム-異国の風貌


 ボロボロになった家屋を素通りし、アクセサリー商店があった店の前まで来た。

 だがやはりというべきか、ここも倒壊しており瓦礫が散乱している。

 冒険者たちが廃材を回収しにここにも来たようで、随分と荒らされているということが分かった。

 どさくさに紛れて何かを盗んでいてもおかしくはないが、それを確かめる術は今は持ち合わせていない。


 ナルファムは手に持っている貝殻をもう一度見る。

 貝殻にはなにかの塗り薬が保管されていた。

 薬の保管として貝殻を使用する、というのは聞いたことがない。

 普通は瓶や袋に入れて保管するのが一般的だし、わざわざ綺麗に装飾されたアクセサリーを購入してそれに薬を入れようとは、普通は思わないだろう。


 だからこそ違和感だった。

 このような知識を持っている人物は、この国では非常に少ないはず。


 知らない知識、知らない怪物。

 この二つが合わさり、一見何の情報にもなりえそうもない貝殻が、とても重要なものに思えてしまったのだ。

 こうなってしまうと、調べずにはいられない。

 だがアクセサリー商店の店員はここには居ないようだ。

 できる限り商品を回収しようとして、ここに来ていると踏んでいたのだが……。

 どうやら無駄足となったらしい。


「さて、次はどうしようかしら。医者にでも聞いてみようかな」


 冒険者ギルドに戻れば、医者は数名いるはずだ。

 唯一残っている頑丈な建物はそこしかないので、怪我人も多く集められている。

 既に満床だが……受け入れられるのはここしかなく、素人も治療の真似事をしている状況だ。

 それくらい医者は足りておらず、怪我人は多い。


 一刻も早く、あの穴を何とかしなければならない。

 ナルファムは手がかりを手に持ったまま、この薬について知るため、冒険者ギルドへと向かった。



 ◆



 眠い目をこすりながら、ギルドの扉を開ける。

 そこには相変わらず怪我人が多くいて、医者が慌ただしく駆けまわっていた。

 治療に少しでも心得のある冒険者も一緒に手伝いをしており、医療品の少なさに嘆いている。


 忙しいのは重々承知しているが、ナルファムは一人の医者に声をかけた。


「少しいいかしら?」

「は、はい。なっ!? ナルファムギルドマスター!」

「ああ、かしこまらないでいいわ。そのままそのまま。ちょっと聞きたいことがあるだけなの」

「そうでしたか……。えっと、それで聞きたい事とは」

「これ、何か分からないかしら」


 そう言いながら、手に持っていた貝殻を手渡す。

 丁寧に受け取った医者はアクセサリー商店にある貝殻だ、と言おうとしたが、そこで粘液質の液体が手に付いたことに気付いた。

 これのことを聞いているのか、と納得した後、粘り気を確かめたり、匂いを嗅いで何が使用されているかを確認しはじめる。

 運がいいことに彼女は薬に詳しかったようで、指を折りながら何かを数えた。


「軟膏薬……っぽいですね。使ってみた感じ、冷えなんかに効くような成分も含まれているみたいですけど、何が使用されているのかは分かりません。ですが効果が現れるのが非常に速いです」

「珍しいの?」

「珍しいどころか、聞いたこともありません。多分新薬ですね。……貝殻に保管するといいのかな……」


 ずいぶん興味を持ったらしく、貝殻を様々な方向から眺めている。

 これは彼女に譲って、研究に使用してもらった方がいいだろう。


 しかし、新薬が開発されたという話は聞いていない。

 軟膏であれば尚更だ。

 どこかの国から持ち込まれたものなのだろうか。

 貝殻はしばらく外に放置されていたが薬が乾燥しきっていない所を見るに、比較的最近捨てられた、もしくは落としてしまったものだと思われる。


 そこでふと、これがあの穴に繋がる情報になるのだろうか、と再び疑問が湧いて出た。

 軟膏を貝殻に保管する方法は誰も知らないものであるし、医者が新薬だと言い切った。

 だがこれを作った人物を辿って穴に関する情報が手に入れられるのだろうか。


 ナルファムは腕を組みながら唸り、これ以上捜索すべきか思案する。

 一度は興味を持ったが……冷静に考えればただの薬だ。

 もっと核心に迫る話を聞くことができたのであれば、調べてみる価値はあるというものだが……。


「あの、すいません」

「?」


 包帯を頭に巻いた若い男性が、足を庇いながらこちらに歩いてきた。

 彼は昨日からこのギルドに患者として滞在している人物のようだが、治療自体は終わっている。

 だが歩く姿は辛そうだ。

 まだ足の怪我が痛むらしく、時々顔をしかめていた。


 そんな状況でここまで歩いてくるということは、それだけ言いたいことがあるからなのだろうか。

 ナルファムと医者は、彼の顔を見て次に口にする言葉を待った。


「それ、うちの商品ですよね……」

「あ! もしかして、アクセサリー商店の店員さん!?」

「そうです。うちの商品を見てギルドマスターが難しい顔をしていたのを先ほど目にしまして……。なにかあるのでは、と思い声を掛けさせていただいたのですが……」

「さすが商人、よく見てるわね! 実は探してたの!」


 貝殻を見つけて初めに思いついたのが、アクセサリー商店の店員に話を聞くことだった。

 これを購入したのが誰なのかを覚えていたら尚よい。

 薄れかけていた接触だが、こうして来てくれたのは幸運だ。

 すぐに話を聞いてみる。


「この貝殻を購入した人、誰か覚えてる?」

「む、難しい質問ですね……。貝殻は女性に人気で多くの人が購入されるんです」

「そうよね……。あ、じゃあ薬草の匂いがする人とかいなかった?」

「薬草ですか」


 これを購入した人物は医者か薬師である可能性が非常に高い。

 そういう人物であれば、使用している薬草の匂いが服についていることもある。

 実際、今隣りにいる医者は薬品の匂いが鼻につく。


 店員は口元に手をやって記憶を辿る。

 だがすぐに何か思い出したようで、こちらに目線を向けた。


「接客をしていたのは僕ではありませんでしたが、貝殻を購入した人の中に異国の風貌をした人がいました」

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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